表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第2話 とりあえず、異世界描写でもしようかと思ったらいきなりピンチ

第二話 とりあえず、異世界描写でもしようかと思ったらいきなりピンチ


 俺はとりあえず、町を探そうと思い、辺りを見回した。


 前方にはうっそうと茂る森がモリモリ広がっていた。右側には東京ドーム8分の3個分くらいの大きさの湖があり、左側には居眠りをしているドラゴンがいた。後方には草原が広がっており、その最奥には地平線が見えた。どうやら、草原の先は崖の様だ。上空には紫色や黄色、小豆色、山吹色、鶯色などなど、個性豊かな色・形をした雲が悠々と泳いでいた。


 あたりを見回した結果、町らしい町は見当たらない。とりあえず、森を抜けよう。俺はそう決めて、森の中へと向かおうとした。


「おい、人間」


 その時、左側にいたドラゴンに声をかけられた。ドラゴンは俺の10倍くらいの大きさで、その背には立派な翼があった。鼻先にはサイの様な立派な一本角があり、口からは涎を垂れ流していた、汚い。さらに、両の腕は筋骨隆々で、手先足先には鋭い爪があった。


「ワシは、今から、お前を、食べる」


 わざわざ「お前を食べる」と宣言するとは、なんて親切なドラゴンだろうか。俺は冷静にそう思いつつ、あることに気が付いた。そう、ピンチだ。オレ、今、ピンチだ。


「いただきます」


 そう言うと、ドラゴンは手のひらを合わせて合掌をした。そして、フン! と、ものすごい勢いの鼻息を俺目掛けて噴射した。


「うわ」


 俺はまるで台風の様な鼻息に押されて、東京ドーム8分の3個分の湖に落ちた。まずい、俺はカナヅチで泳げないのだ。あっぷあっぷ。


「まずは体を水で清めます。ワシはグルメなので、汚いのは嫌なのです」


 相変わらず親切なドラゴンは、俺を湖に落とした理由を言いながら、前腕で俺を鷲掴み、まるでしゃぶしゃぶの様に、何回も水に入れて洗い出した。


 これは拷問だ。

 水の中、息ができない、苦しい。水から出る、息ができる、一安心、したのもつかの間、またすぐ水の中。

 勘弁してくれ。まだ2話目なのに、全く、前途多難だなこれわ。


 俺がそんなことを考えながら拷問に耐えていると、ようやくドラゴンは俺を水から出して陸に上げてくれた。


「次は、濡れた体を乾かします。本当は日干しがいいのだけど、今回は炎のブレスで速乾にします」


 親切なドラゴンはそう言うと、深く息を吸い込み、炎を吐いた。


「あっち!」


 ドラゴンの炎は瞬く間に俺の体についていた水分を蒸発させ、ついでに俺の着ていた服も燃やした。俺は真っ裸になった。幸い、肉体は燃えておらず、ヤケドもしていないようだった。


「ワシは生肉が好きなので、火力を抑えました」


 親切なドラゴンはそう言うと、「でわ」と言って、俺にゆっくりと近づいてきた。ドラゴンは口から汚い涎をダラダラと垂れ流していた。ドラゴンの足元には涎の水たまりができていた。

 

 俺の人生オワタ。そう、思った瞬間


「うぅ、く、ぐるじいぃ!」


 急に胸が苦しくなった。


「え? どうしたの? これから食事なんですけど。ワシのテンション下がるんですけど」


 ドラゴンは俺の顔を覗き込みながら首をかしげている。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 この胸の苦しみの正体を、俺は知っている。そう、この胸の痛みは”失恋の痛み”だ。こんな生死を分かつ瞬間でも、失恋の痛みは胸を苦しめるのだ。失恋とはそれほどに、辛く、苦しいことなのだ。自殺の原因にだってなるんだ、当然だろう。


「大丈夫?」


「いや、ちょっと、ハートブレイクしまして……」


「ハートブレイク?」


 親切なドラゴンは、何故か”ハートブレイク”という言葉に食いついた。


「あのー、それって、もしかして伝染します?」


 親切なドラゴンは、いぶかしげな表情で俺に尋ねて来た。


「え? …………はい、伝染します。俺を食べたら、伝染します」


「えーー。マジテンション下がるわー」


 親切なドラゴンはそう言うと、深くため息をついた。


 とりあえず、命拾いした。俺は素っ裸のまま、静かにガッツポーズをした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ