表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

極秘任務

 ある日、俺は国王に呼び出された。

 俺たち兵士が国王に呼び出されること自体は、とりたてて珍しくはない。珍しいのは、呼び出されたのが俺一人だけだということだ。

 リーダー格の兵士であれば、一人だけ呼ばれるということも、まれにだがある。しかし、俺はそう言う立場ではない。どちらかというと、あぶれ者だ。

 それなのに、どうして自分が呼び出されたのだろうか。いろいろ考えを巡らせながら、俺は王室へ向かった。

 王室の扉の前には、衛士が二人並んでいた。俺はその二人を見上げて言った。


「兵士のラルガだ。国王に呼ばれて来た」


 本当はもっと丁寧に用件を言わなければならないのだが、俺の性分に合わないので、雑な説明で済ませる。

 まあ、この城の兵士も衛士もお偉いさん方も、俺のこの性格については百も承知だから、いちいち気にはしない。

 というか、気にするのも面倒になってきたのだろう。

 あらかじめ王から俺が来ることは知らされていたようで、二人の衛士は無言で扉を開けた。



 俺は王室がどうも気に食わない。ある物といえば、王の座る玉座と、扉の両脇にある、やけにどデカい台に生けられた花ぐらいだ。

 それなのにこの部屋は無駄に広く、どうも落ち着かない。

 しかし、王の前でそんな弱みを見せるわけにはいかない。俺はあくまで平然と王の前へ進み出た。

 玉座の前には二段ほどの段差があり、その前に跪く。


「何のご用でしょうか、国王様」


 俺はふてぶてしくそう言った。

 不躾な俺の態度に、国王は苦笑を漏らす。しかし、すぐにいつもの威厳のある低い声で言い放つ。


「実はラルガ、お前に極秘の任務を与えたいと思っているのだ」

 地を這うようなその声に、俺は本能的に敵意を感じてしまう。しかし、努めて平静を保つ。


「極秘の任務、ですか」


「そうだ。単刀直入に言おう。お前に単独で、隣国の城に攻め入ってほしいのだ」


「隣国に・・・?」


 隣国であるセリアス王国は、昔からここ、ナヴァース王国と対立していた国だ。最近では両国が平和条約を締結し、対立することはなかった。そう言う約束のはずだ。

 それなのにどうして、その国の城を攻めろというのだろうか。それも俺一人で、極秘に。


「いろいろ疑問はあるかもしれんが、あまり多くを話すことは出来ない」


「・・・一つだけ、訊きたいことがあります」


 俺の言葉に、王室に緊張した空気が流れる。

 王も俺を、心のどこかで恐れているのだろう。なんせ、この城で唯一、王に献身的ではない者なのだ。

 しかし俺のしようと思っている質問は、王の恐れているようなものではないだろう。

 俺は、顔を上げ、王の顔を見た。深い皺が幾筋も刻まれ、目にはどこか暗い陰を感じるその顔は、どこまでも冷酷だった。

 その顔に向かって、俺は言った。


「なぜ、私なのでしょう」


 王は拍子抜けしたのか、少し言葉をつまらせ、驚いたように数度瞬きをした。しかしすぐ、いつもの不敵な笑みを浮かべて、答えた。


「もちろん、お前が、この城の中で一番優秀だからだよ。それでは不満か?」


 俺はこの言葉を聞いて、決心した。


「・・・少し、考えさせてください」


 そう言ってまた頭を下げる。


「まあ、よかろう。もう下がりなさい」


 王はそう言って玉座から立ち上がり、背後にある大きな窓に歩み寄った。

 そこからは、城の前庭、そしてナヴァース王国の城下町が一望できる。


「では、失礼します」


 俺は下界を見下ろす国王の背中を人睨みして、王室を後にした。

                   

              

* * * * *



 翌日。

 ナヴァース城は喧騒に包まれていた。


「国王様! 大変です!」


「何だ大臣。騒々しい」


 挨拶もなしに勢いよく王室の扉を開け、飛び込んできた大臣に、国王は顔をしかめてそう言ったが、大臣は、それどころではないとばかりに、息を切らせながら言った。


「ラルガが! 城の兵士を辞めました!」


 その言葉で、国王の顔からさっと血の気が引いた。


「何だって!」


 その顔には、いつもの、感情を押し殺したような表情でなく、驚愕と焦燥が張り付いていた。

 すると、その報告を隣で聞いていた妻が、そっと国王に近づいて耳打ちをした。


「まさか昨日の・・・」


 国王は、はっとし、思い切り歯噛みした。


「あいつ・・・!」


 その国王の膝の上で、愛猫の白猫が心配そうに、にゃおん、と鳴いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ