第一話「研究」
《ピピピピッ!ピピピピッ!》
様々な本や書類が雑に置かれている、とある部屋のアラームが鳴る。
「ん…く…朝か…"おはよう、毎日ありがとう"」
毛布を剥いで一度、背伸びをした白髪の男性が時計に向かって言う。
すると、時計の[am-8:02]の表示が[起床確認]に切り替わり話しだした。
《おはようございます、アトラス博士。
本日のバージスト地区の天気は快晴です。》
アトラス博士と呼ばれた先程の男性は洗面所に向かった。
顔を洗い、タオルで拭いているとブザーが鳴り、続いて女性の声が聴こえた。
「博士ー?起きていますか?」
「ああ、起きてるから入っても構わないよ」
入口に向かって言うとアトラスは続いて髭を剃る。
ドアが開き、赤毛をポニーテールにしている白衣を着た女性がサンドイッチの乗った盆を持って入って来た。
そして、テーブルの上の書類を少し退けて盆を置く。
「おはようございます」
アトラスが剃り残しが無いか、顎や頬を撫でて確認しながら洗面所を出て来た所を挨拶する。
「おはよう」
ソファに腰掛けてカップの薄い金属で出来たラップを剥がす。
プシュッと空気が流れる音が聴こえると、カップの中のコーヒーの湯気が昇った。
「今日のサンドは…ベーコンと卵か」
一口、コーヒーを啜り呟くとサンドイッチを頬張る。
数回噛んで飲み込むと溜め息を吐いた。
「元の…ベーコンの味は本当にこんな味だったのだろうか…」
外では青い空に小さな雲が幾つかと太陽が輝き、木々は風に揺れて小鳥が囀っている。
「人類とは渋とく卑しいな…」
「たとえ偽物でも、日常が在るだけで幸せなだけですよ」
アトラスの言葉に女性は優しく言った。
そして続ける。
「でも、ウイルスによって失われた幸せを取り戻す為に…我々は研究を続けるんですよ」
「ああ…だからこそ、早く造り上げたいものだな…"完璧な人造人間"を…」
アトラスは食べ終えると立ち上がり、白衣を着て部屋を出た。