表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カタストロフィの色  作者: 半忘半覚
5/6

04 ご近所さん

「てかこの灰どうしよう」

「どうせ、向こうに吸い取られる。そろそろ帰宅しよう」

「静紅はまだ撮影あるの?」

「いや、俺は駆り出されただけだ」


 大剣をカードに戻しながらあっけらかんという。咥えている煙草はあまり短くなっておらず、短時間ですべてを終わらせたということがわかる。

 先を行く静紅の背を見つめながら、遠いなぁとぼんやりと考える。


「おい、紫呉。おいてくぞ」

「あ、いまいく」


 早く来ないとぶっ飛ばすといわんばかりの表情をしていたので、慌てて駆け寄り隣に並ぶ。無言で頭をわしわしとなでられその強さに顔をしかめるが、そのまま放置する。

 煙草独特のにおいが鼻につく、普段は嫌いなのだが威圧感満載のリーダーが纏っているとなると不思議と落ち着くにおいになる。


「そういえば静紅はどこに住んでいるの? てか、どこにいたの?」

「昨日はホテル。もう仕事ないから本職に戻るために帰ってきた」

「本職?」

「作家やってんだよ。俺は」

「ヴァイスー!天変地異起きたー!」


 あまりにも受け入れられない現実のために思わず虚空に向けて叫べば、拳骨を落とされる。痛みでまた涙がにじんだ。

 隣で拳を握る静紅の全身から灼熱のオーラを感じた。


「どういう意味だ、コラ」

「だって、本なんか嫌いだって昔盛大に燃やしてたじゃないか」


 そんであいつと大げんかしたじゃないかとじと目で睨む。あいつというのは思い出せないが、普段は物静かな癖に本や文献になると大暴走する男だったということは、泡のように浮かんできてぱちんと弾けた。


「あいつは本が好きだったから、本に関係することしてんのかな」

「たとえば?」

「司書とか、静紅みたいに作家とか、あと編集者とか? あと本屋の店員さんとか」


 怒られたくないので知恵を絞って答えを出してみれば鼻で笑われる。ここにヴァイスがいれば速攻で抱き着いて泣いていただろう。


「ヴァイスぅ……」

「つか、ヴァイスの名前叫ぶな」

「じゃあ、どうしろと?」

「適当な名前つけろ」

「えー」


 いきなり言われても無理に決まっているじゃないかと言わんばかりの表情をすれば、じっと瞳を覗き込んできた。相変わらず荒々しい光を漂わせる深紅の瞳に腰が引ける。昔からこの威圧的な視線が苦手だった。


「お前は紫呉だよな。漢字は?」

「紫に呉服やの呉」

「そういえば、名前はこっちの世界で白と黒なのに、二人合わせた時は紫だったな。なぁ、『場所のリラ』」

「うるさいよ。『力のロート』」

「となると、あいつも紫関連の名前にするか。うーん」


 久しぶりに呼ばれた、リラという名前に苦々しげな表情を浮かべる。二人の瞳の色が紫で、ニ心同体ということでまとめて呼ぶためにリラと呼ばれるようになった。主に敵から。

 だが、シュバルツはシュバルツ。ヴァイスはヴァイス。いくら魂が二つに分かれ同じ身体を二つの魂で使用したとしてもそれぞれに個々がある。


 だからその名を呼ばれた時は、すべて「略奪」した。


「あ、藤はどうだ?」

「え?」

「だから藤。あいつの瞳は薄紫っぽかったし藤の花と同じ色だろう」

「だから藤?」

「あぁ、花言葉で『決して離れない』ってやつがある。今のお前には必要な言葉だろう?」


 はっとして静紅の表情を見上げれば、優しい微笑がこちらを見下ろしてきた。また涙腺が緩むが、それをこらえて不敵に笑って頷く。

 またわしわしと頭を撫でられて、困ったような表情をする。そんなことをしながらのんびり歩いていれば、すでに自宅が目前で家を示す。


「ここ、俺の家」


 なぜか静紅は固まり、微妙そうな表情で見下ろしてきた。そして紫呉の腕をつかむとずるずると引っ張る。どこに行くのかと思ったが、たったの五歩で彼は足を止めて、煙草の先端を向ける。

 視線で促されて表札を読む。「崩賀」と書かれている。数度瞬きをして見上げれば複雑そうな表情で見下ろしてきている。


「まさか近所だとは思わなかったぞ」

「……なにこれ?」

「おそらく、俺たちは近くに集まる運命みたいなものなんだろう。魂はそのままに新たな肉体を得て、封じられた記憶が呼びさまされしとき、すぐさま一つの場所に集まれるように」

「誰かが行ったってこと?」

「おそらくな」


 煙草の灰が落ちそうなのを見て簡易灰皿を取り出すとそこに灰を落とし、吸い殻も中に入れてポケットにしまう。こちらを振り向いたときにはすでに深紅から髪と同じ赤茶色の瞳に戻っていた。恐らく紫呉の瞳も漆黒に戻っているだろう。


「とりあえず、明日学校帰りにうちに寄れ。今後のことを相談する」

「わかった」

「お休み、シュバルツ」

「お休み、ロート」


 ひらりと気だるげに手を振ってロートこと静紅は家の中に消えた。紫呉はもう一度穴が開いていないか確認すると、自宅に戻った。

 隣に雪のように白い髪を持つ大切な片割れがいないことを、さびしく思いながら。


「待ってろよ。ヴァイス()

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ