泣いちゃった日2
泣くとブスになる。きれいに泣けるのは女優だけだと幼馴染がよく言っていた。
それを今、理解した。
涙が出れば自然と鼻水が出る。私の顔は目は充血。目の下は黒くなったクマ。赤くなった鼻と垂れ続ける鼻水。どこかの有名なアニメのぼ●ちゃんの様な微笑ましさは無い。酷すぎる。こんな酷い顔を好きな人に見せてしまっている私。心境的には泣きたいが、これ以上泣いて変な顔になって溜まるかと気合で涙を止める。遅いかもしれないけど。
「足りない?」
袖口で涙と鼻水を拭いていた私を見て葉木ノ先輩がポケットティッシュをくれた。ティッシュを持ち歩いてる事に女の子のプライドが傷つく以上に尊敬と貰った事による嬉しさで胸が一杯だったりする。
「…有難う…っ…ございまず…」
(うそ! ももももっ貰っちゃった!!!)
使うのが勿体無いけど、この情けない顔を少しくらいは良くしたい。
「ずーず…」
あまり音を立てないように意識しながら鼻をかんでいると葉木ノ先輩が突然歩き出した。
「!」
(え…!!)
あまりにも情けない顔なので呆れたのだろうか。
泣く女に嫌気がさしたのだろうか。
私は慌てて追いかけようとしてその場でこけた。
「うううぅ」
私は再び泣き出した。
「…洪水。足りる?」
気が付くと葉木ノ先輩が私の近くに立っていた。
「ひっくっ…ぜんばいぃぃ?」
「上向いて」
その声に上を向くと私の鼻に白いものが触れた。良くお世話になっている紙の感触だった。
「!」
「ちーん」
(えっえっえええええ???)
‘ちーん’とは小さい子が鼻をかむ時に良く母が言うセリフ。
葉木ノ先輩が真剣な目で私を見る。私の動作を待っているようだった。
「ちーん」
もしかしたら葉木ノ先輩には小さな兄弟がいるのかもしれない。こういう行為は日常で当たり前なのかもしれない。そう思うと、戸惑うのも恥ずかしいのもおかしな事。
(せっかくしてもらってるんだし…)
寧ろ、此処で断ったら勿体無い気がする。めったに無いチャンスである。
「ふー!」
鼻から息を吐いて葉木ノ先輩に鼻をかんでもらった。すると葉木ノ先輩は満足そうな顔をした。
「!」
気のせいかもしれない。でも、少なくても葉木ノ先輩は嫌そうな顔をしていない。
(何か…嬉しいかも…?)
二人の初めての共同作業のように思えて密かに私は喜んだ。
鼻から白いものが離れるとそれをゴミ箱に捨て、再び丁度いい大きさに紙を切る。そう、トイレットペーパーである。私の鼻水の量があまりにも凄いので近くのトイレから持ってきたらしい。
初対面でダラダラ泣きする後輩を呆れもせずにわざわざ持って来てくれた葉木ノ先輩の優しさに胸が温かくなる。面倒見がいい事に嬉しくなる。
知れば知るほど好きになる。
(…ごめんなさい)
私は突然立ち去った事を私の事が嫌になったんだと思っていた事に深く反省をした。
「ちーん」
「ふくー!」
仲良く鼻をかんで貰ってると笑い声がした。
「ぶっ!! あはははは!!」
それは三井先輩だった。
「ひ~。……何してるんだよ?」
(そう言えば居なくなってたけど…どこに行ってたんだろう?)
三井先輩の手には二袋のビニールと私のランチバックを持っていた。その荷物を見て感謝した。
(何でこんなにも先輩達は優しいんだろう…)
「ちーんしてた」
「いや、見れば分かるから。俺を笑い死にさせる気か?…とりあえず、飯にしねぇ?」
そう言って三井先輩は荷物を私たちに渡した。