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天然彼氏  作者: 湖真子
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泣いちゃった日1

「君って、俺と一緒にいる奴の事が好きなの?」

まるでお天気を尋ねているかのようだった。


「!!!」

何故か葉木ノ先輩の近くにいる枯葉色した髪のお友達に私の気持ちがばれた。

その日は梅雨入りしたばっかりで雨が小雨だけど降っていた。葉木ノ先輩は雨の日は食堂で食べる可能性が非常に高い。ランチバックを席に置き、自動販売機のジュースを買おうとしていた私は隣から歩いてきた葉木ノ先輩のお友達に声をかけられた。

「いつも見てるよね」

「……」

(どうすればいいの?)

ここに葉木ノ先輩が居なくて良かった。

こんな会話を葉木ノ先輩の前でするほど私は心臓が強くない。

「どこがいいの?」

面白そうな馬鹿にした表情に頭にきた私は胸を張っていった。

「全てです!」

と…。全てといっても全てを知っているわけじゃないのだが。言った後で穴があったら入りたい心境になった。

(うがっ!! 何で言っちゃったのよ~!! ばか~!!)

葉木ノ先輩に一番身近に居る人に言っていいセリフじゃない。この様子だと、ささやかな観賞すら出来なくなる恐れがある。

(…まさか、私が葉木ノ先輩を見ていた事に対する苦情ですか?!)

どうしようと、思うほど上手く頭が回らなくなる。

「ぷっ」

その言葉を聞いた葉木ノ先輩の友達は突然大笑いをした。

「あははははははは!!!」

大笑い。その声は回りに響き、人々の視線が私達の方に向けられる。

私の気持ちは他人に大笑いされるものだったのかと思うと悲しくなった。

(私の気持ちは…笑われるモノなの…?)

自分の気持ちだけでなく、存在自体を否定された気分になる。

「っ!」

(泣いちゃダメ!)

前が見えなくなるほど視界がぼやける。その表情を見てやばいと思ったのか、私の腕を掴むと人気の無い方に私を引っ張っていった。



「ごめん! あそこで胸を張って言うと思わなかったから…ツボにはまって」

俺の悪い癖なんだと何度も謝る。

(…そんなに酷い先輩じゃないのかな?)

初めの警戒心と嫌悪感が薄れていく。

「そうだ! お詫びに色々協力するよ?」

その言葉に涙がピタッと止まる。我ながら現金だった。

「ぷっ! あははははは!! ごめん…はははは」

再び葉木ノ先輩のお友達は笑い出した。その姿を見て、葉木ノ先輩の表情が硬いんじゃなくて、この人が笑いやすい人なんだと言う事に気が付いた。

「…俺の名前は三井 健志(みつい けんじ)

「…中倉 加奈(なかくら かな)です」

自己紹介をしていると此方に真っ直ぐ向かう足音が聞こえてきた。乱れる事の無い足音。この規則正しい足音は葉木ノ先輩の音に違いない。

意識すると顔が熱くなる。

「?」

その姿を見て三井先輩は不思議そうになっていた。

「何で消えた?」

そう、話しかけてきた葉木ノ先輩。葉木ノ先輩が近づいて来たから私の表情が変わった事に気が付いた三井先輩は再び笑いそうになるが口元を塞がれた事によって笑いは発生しなかった。

口元を塞いだのは葉木ノ先輩の手だった。

(羨ましすぎる!!)

葉木ノ先輩の手が私の身体に触れたら、それだけで幸せになれる。

「うっ…ぐ…!!」

いいなぁとか思いながら眺めてると、三井先輩の顔は段々赤くなり、暴れだした。暴れた事により手が離れると勢い良く息を吸った。

「え?」

どうやら口だけではなく鼻も塞がれていたみたいで何度も勢いのある呼吸を繰り返していた。

「塞ぐのは口だけにしろ! 殺す気か!」

「…つい」

「ついでやるな!!」

三井先輩の言葉をあからさまに右から左に流すと私を指差した。

(えっ!)

いきなりの事に一気に緊張する。手が震える。

「あぁ。中倉 加奈ちゃん。俺の所為で泣かしちゃったんだよ」

そう言ってばつが悪そうな顔をする。

「……」

「……」

葉木ノ先輩がじっと私を見つめる。

(どうしよう?!)

見つめられれば見つめられるほどパニックを起こす頭。更に顔が熱くなる。たぶん、林檎のように赤くなっている。

葉木ノ先輩の瞳の中に入る事が出来て幸せ過ぎる。

「…告白されたの?」

私から視線を外すと、三井先輩に問いかけた。

天国から地獄に突き落とされた。

(違う!!!)

「え? 違うよ」

「ふーん?」

信じていない葉木ノ先輩の声。

(違うのに!!!)

私が好きなのは葉木ノ先輩。その本人に誤解される。こんなにも葉木ノ先輩の事が好きなのに、他の人が好きだと誤解されて目の前が暗くなる。胸が苦しい。

(うそっ!! …何で?…悪い事した?)

何でこんな事が起きるのか。悲しくって仕方が無い。

(…どうして?)

私も否定しようと口を動かすが声が出ない。何度も口をパクパクさせるだけで焦りがつのる。私の瞳から涙が溢れ出した。

「~っ…!!」

(違うのに! 違うのに!…声出てぇ!!)

私の表情に暗い顔をする先輩達。

泣いても仕方が無いのに、涙は止まらない。涙を止める事も声を出す事も今の私は自分の体なのに制御が出来ない。

「俺邪魔? …ごめん」

そう言って立ち去ろうとする葉木ノ先輩。

(嫌っ!!)

誤解されたままなんて嫌過ぎる。

私は葉木ノ先輩の制服の袖を握り締めた。

声が出ない私は先輩の袖を握り締めたまま何度も何度も首を左右に振る。

(分かって!)

「…」

「このアホ! 違うって言っただろう! 泣かしたのはお前だから責任もってよ!! いいな?」

そう言って気をきかせて三井先輩は私たち二人を残してその場を去ったが私は気が付かなかった。それどころじゃなかったから。

ただ一生懸命首を左右に振っていた。


「…」

誤解された事が悲しいのは、脈なしだと突きつけられたから。

問題外。私が見ていても葉木ノ先輩は私の存在すら知らない。

一人相撲。

そんな事は初めから分かっていた。私は葉木ノ先輩を知ろうとしたが、私を知ってもらおうとはしなかった。ただ、見るだけで幸せだった。

こんな事になるならアプローチをすれば良かった。拒絶された時の辛さを想像するだけで怖かった私は行動しなかった。それがこの結果だった。

それでも誤解だという事は分かって欲しい。



「分かった…」

「!」

葉木ノ先輩は優しく何度も私の涙が止まるまで頭を撫でてくれた。

理解してくれた安堵感と優しい手の温もりに涙がいつまでも止まらなかった。

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