名前知っちゃった
先輩は図書館の常連さんだった。
先輩が返した本の後ろのページにある貸し借りカードで名前とクラスを知る事が出来た。最近のバーコードを使って貸し借りをするシステムじゃなくて本当に良かった。
(古さバンザイ!)
カードに書かれた字はちょっと右上がりの整った字だった。私の丸び帯びた字と比べるときれいな字だということが分かる。
3-3 葉木ノ ともや
(葉木ノ先輩…)
一文字一文字カードに書かれた文字をなぞると何かくすぐったくなった。
家に帰らず、隣の家に行った。隣の家には私の幼馴染が住んでいる。案の定、家に居た。
「名前分かったんだ?」
「うん! 有難う!」
ご機嫌な私は里香に報告をした。アドバイスは全然生かせてないけど、あのタイミングが無かったらきっと今でも葉木ノ先輩の名前を知る事が出来なかった。
「…でも何かストーカーみたいでキモイかも?」
「うっ! …でも家までつけてないよ!!」
本当はつけようとして失敗しただけだったりする。我慢できなくなってトイレに向かったはいいけど迷った。トイレから戻ると葉木ノ先輩の姿は無く、落ち込んだ。落ち込んだ後に誤魔化すために持っていた本を棚に戻そうとしたらカードが床に落ちた。そのカードを拾い、カードには借りた人の名前が書かれている事を発見した。活用すれば名前が分かる事に気が付いた私は、慌てて葉木ノ先輩が返した本を探した。今も手元にその本がある。
「家まで? その本は? 図書館に通うつもりなのに? 立派なストーカー」
容赦ない里香の言葉。
「…!」
でも、葉木ノ先輩を知りたい気持ちは止まらない。図書館に通う事を止める気はしない。見られなかったあの四日間は地獄だった。日常が色あせて、きれいだと思っていたものや楽しかったものが意味をなくした。何をしても頭から離れなくて、行動あるのみと頑張っても見つけられなかった。その事に更に私の世界は暗くなる。
「イイ顔」
私の顔を満足に眺めると私の頬を撫ぜる。
「恋するオトメは無敵なのよ」
怖いぐらいに里香は微笑んだ。