見つけちゃった
「!」
今は天にも昇る嬉しさで胸が一杯。
鞄を肩にかけてグランドの方に行くと準備体操に入ろうとする枯葉の髪をした先輩と私が探していた先輩が居た。話している内容は聞こえないけど私が見かけてから一分も経たない無いうちに先輩は歩き出した。もし、外に出るのが一分でも遅かったら見かけなかった事に気が付く。
(ぎりチョンラッキーとはこの事!!)
私は緊張しながら先輩の後を追った。丁度下校時刻。先輩の他にも歩く人々が居る中、見失わないように気を付けて先輩を観察する。先輩は左の肩に鞄をかけ、右の手には分厚い本二冊を持っていた。
(あんな分厚い本読むんだ…)
その事が分かって嬉しい。
先輩の背中は私よりも大きくガッシリトしている。ピンと背筋を伸ばし、足を引きずる事無く歩く姿はカッコイイ。先輩が歩くたびに私の胸はドキドキと高鳴る。
出来ればずっと見ていたい。
(…あぁ…やっぱり私はこの先輩に惹かれてるんだ…)
もう一度先輩が見たかったのはこの気持ちを確かめたかったから。この気持ちに自信が持てなくて、気のせいなのかも知れないくて、怖かった。確かめようとした次の日には先輩を見つける事が出来なくて、それだけで落ち込んだ日々。
(…あの時の先輩の表情はきっかけだけに過ぎないんだ…)
その事に安心した。だって今、私は先輩の後姿だけでもドキドキしている。
「!」
先輩は校門をくぐる事無く前を素通りするとレンガで出来た建物の中に入っていった。
そこは図書館。こげ茶色の絨毯が敷かれた館内は独特な本の匂いで包まれている。
館内に入ったのは初めてだった。
本館に資料室と言う教室があるので図書館があることを正直忘れていた。入学式の時に説明を受けただけ。資料室に行けば授業で関連する資料を借りれるので入学してから二月が経ったにもかかわらず足を運んだ事が無かった。
早く足を運べばよかったと後悔をした。
先輩は慣れた手つきでスリッパに履き替えるとカウンターの方に向かう。手に持っていた本は図書館のものだったみたいで本を図書委員と思われる子に渡していた。
渡し終えると先輩は一人用スペースの机に向かうとその一つに座り鞄からノートと参考書らしきの物を机の上に置くと立ち上がった。
(うっぎょー! やばい! こっちに来ちゃう!)
カウンターの側にある新刊コーナーゾーンで本を選ぶ振りをしていた私は慌てて先輩から目を逸らして下の方を見る。見ていた事がばれたんじゃないかと心臓がドキドキと鳴る。
もしかして私に声をかけに来たんじゃないかとひやひやしつつも、期待をした。先輩と話せるかもしれない。だが、先輩はカウンターの前で足を止めた。
「すみません。筆記用具を貸してもらえませんか?」
初めて聞いた先輩の声はうっとりするほど耳に心地が良かった。想像以上に低い声。
「どうぞ」
先輩はカウンターの中に居る人に断ると、カウンターの日付が表示されている立て板の横に置かれているお茶の包みの缶に手を伸ばした。お茶の缶には鉛筆とボールペンが数本入っている。その中の鉛筆とボールペンを一本ずつ取ると先輩は机の方に歩き出した。
「…はぁぁ…」
どうやら私は息を止めていたいたみたいで、先輩が背を向けて歩き出すと息を吐いた。微妙に胸が苦しい。声を掛けてくれるかもと勝手に期待したぶん、寂しい。
しかし、声が聞けた。
ニヤケそうになる口元を押さえつつ、私は適当に一冊の本を取る。先輩の座っている席の斜め後の方に座って本を読む振りをしながら盗み見をした。
同じ空間に居られる幸せをかみ締めていた。
主人公がストーカーっぽい…。