転移者と入れ替わった男の助言を聞く悪役令嬢の話
あれは、ワシが20、21歳の時だった。
山に鬼神が出たのだ。
若気の至りでワシはたいした事がないと泊まりで山に行ったのだ。
『ハンス、独りじゃ危険だ。すぐに帰って来い』
『な~に、出ても俺がやっつけてやるぜ』
そしてな。仕事が終わり夜たき火で暖まっていると、ガサガサとな。
独りの男が藪から出てきたのじゃ。
『あ、たき火だ。暖まらせてくれよ』
腰には剣を差している。剣士が使うロングソードのようだ。
見た目は奇妙だ。10代中ぐらいか?
黒目、黒髪で服はどこでも売っていない。見た事がないが、鮮やかな色彩。高級品にも見えないが安物でもない。
判断が付かなかったのう。
ドカッとたき火の前に座った。
これが鬼神か。薪で頭をぶん殴ってやろうかと思ったが・・・
『あれ、僕を殺そうとしているでしょう?』
頭の中をのぞかれているようだ。
ワシは驚愕した。
『日本刀が欲しかったのだけどしょうが無いよね・・・』
腰の剣に手をかけてベラベラと話し出した。
『僕のスキルは先読みだ。君の行動は分かるよ。そうだね。胸の内ポケットにナイフがあって投げつけようかと思っている。
戦いに必要なのはクレバーだ。僕はこれからチートでのし上がるんだよね。山を降りたら貴族令嬢が領地に向かっている。道が分かれていて、松の木がある方には盗賊がいるのさ。・・・』
『でさ、その貴族令嬢はサブヒロインのマリーンと言って、僕を信じちゃうんだ。即落ち二コマかな。父親が死にそうで急いで帰るのさ。でも、黒パンを食べさせれば治るよ・・・でも本当のメインヒロインは別にいるんだ』
『そして、王都で献策をして、皆は喜ぶのさ。ギルダー公爵家で大事にされて王女殿下が嫉妬するけど・・・仕方なくハーレムかな。ねえ、そろそろ退屈している?ヒドいな」
話が終わらないのでワシは話しかけた・・・
『はあ、はあ、何故・・『冒険者を殺したか?だろ?』』
話を先読みされた。
『だって、奴らは・・・』
・・・使えそうにないな。
・・・貧弱ね。
【って思ってやがった!】
死ぬ。と思ったものだ。
ワシは・・・
『冷静に見せようと思っているでしょう?』
これも読まれた。
無意識に薪を火に入れたが・・・
バチ!バチ!ボア!と音を立てて燃え盛って薪が奴の顔に当たった。
松ぼっくりを入れてしまったのじゃ。
『あ、熱い!!』
そのすきにワシは奴の首筋にかみついた。
『ヒィ、こんなのきいてないよ!』
何とか殺した。その時、奴の血が口の中に入り・・・何か景色が見えてきた。シナリオというものらしい。
『はあ、はあ、はあ、はあ』
そしてな。何を思ったのか奴の言うシナリオに従って行動をした。
言った通り貴族令嬢が馬車を走らせていた。
『はあ、はあ、はあ、お嬢様、この先に盗賊が出ます!』
『ヒィ、そうですの?では貴方も乗って下さい』
『お嬢様・・・信じすぎです』
『こんなに必死ですわ・・』
それで屋敷に入り。領主の病気を言い当てたのだ。
『かっけ・・というものです。黒パンが有効です』
『お嬢様、本当に盗賊がいました』
『まあ、やっぱりハンスさんの言うとおりでしたわ。治療も言う通りしてみましょう』
すっかり治った領主はワシを信頼して・・
『しばらく客人として逗留下さい』
『はい』
それからな。奴の話通り事をすすめた。
『コルセットのないドレスです』
『ホロの布をズボンにして下さい。青く塗ると蛇が寄りつきません。ジーンズと言います』
『この地には温泉が出ます。谷間の地を掘って下さい』
どれも大成功じゃ。
そしたらな。奴の話に出てきたメインヒロインが都からやってきたのじゃ。
『有名なハンス殿をお迎えしたい』
『エリザベーターです。是非、王都でドレスを流行らせましょう。とても気に入りましたの。これからの女性はファッションを楽しむべきですわ』
わしはな・・・
『お断りします。私はこの地が好きなのです』
断った。マリーンはパアと顔が明るくなったのじゃ。ワシはときめいた。
その後、平民だがマリーンと結婚した。
その後は、商売は上手く行き。侯爵の爵位をもらうまでになったのじゃ。
「どうかのう。お嬢様、ワシの話、信じられるかのう」
・・・・・・・・・・・・・
「一代で侯爵になったハンス・クローゼ様が嘘を言っているとは思えませんわ。消去法で信じます」
「カーカッカッカ!」
ハンス様は快活にお笑いになった。
私はウェスター公爵家のカロリーナ。
一代で侯爵家を興したハンス様のお話を聞いたわ。
今、王宮の男達は男爵令嬢マリア様に・・・夢中だわ。私の婚約者ファビアン殿下もだ。
私は嫉妬のあまり思わずマリア様をビンタしてしまった。
「あら、あなた。もう、お話は終わったの?」
老婦人、奥様が部屋に入ってきたわ。
「マリーン、まだじゃ。表向きは夫婦円満の秘訣じゃ。これから秘策を授けるのじゃ」
「フフフフ、なら私も一緒に」
「はい、お願いしますわ」
王都に戻った。
表向きは謹慎だった。夫婦円満と名高いクローゼ侯爵家のご隠居、ハンス様とマリーン様にお話を聞きに行けとの王妃令だった。
王都ではマリア様が大人気だ。
彼女は不思議な能力がある。殿下と側近達の行く先に現われ天真爛漫な行動で引きつけた。
学園祭や祭り。奇抜な催し物をすると思ったら。マヨネーズという調味料を作った。
このマヨネーズはハンス様のお話では異界の先読みたちの国の調味料らしい。
様々な珍しい料理を考案し王都で大人気だわ。
王宮に報告に行く。陛下、王妃殿下に謁見をした。
「カロリーナ、マリーン様のお話を聞きましたか?夫に仕える婦人の心得を学びましたか?」
「はい、王妃殿下・・・」
隣で陛下が眠たそうにしているので、私はハンス様から聞いた献策を述べた。
「陛下、献策をいたします。富国強兵案です・・・」
まず。金本位制では今の経済の規模にあっておりません。故に偽金問題が起きております。王国債を発行し。それをお金の代わりにするのです。
中央銀行を作り。流通量を管理します。
陛下は面食らった顔をした。
王妃殿下もあきれ顔だ。
「更に、遠交近攻策を・・・・」
私はハンス様からきいた話をとくとくと述べた。
「・・・もう良い下がれ」
「はい・・・」
それから社交界では変わり者令嬢と噂をされるようになったわ。
ハンス様の策は、王都に行ったときのチートだそうだわ。
社交会では殿下はマリア様をエスコートする。私は1人だ。
「カロリーナ、最近何をしておる。マリアを見習え。女は政治に口を出すな」
「申訳ありません。どうやら・・・前世の記憶が・・・」
すると、マリア様の顔がハッとなった。
「殿下ぁ、カロリーナ様の言う事は聞かないで下さい!」
「おお、そうだな。今夜はどんな料理を出してくれるのだ」
「殿方が好きな豚丼を考えています」
「ほお、さすが、マリア、女はこうでなければな」
また、2人の世界に入ったわ。
すると、先触れがその世界を壊した。
【ザルツ帝国、黒の皇太子と名高いベッケルン様のご登場でございます】
マリア様はバタバタとベッケルン様に近づき。私は少し腰を下げて礼をする。
王子は握手を求めに皇太子殿下の前に行く・・。
だが、王子の手を素通りしマリア様を左手で振り払い私の元へ来た。
「君の策を聞きたい。私はベッケルン・フォン・ザルツだ」
「・・・私はカロリーナ・ウェスターでございます」
「うむ。我が帝国も紙幣に舵取りをするところだ・・・遠交近攻策とは?」
「はい、出兵もお金がかかります。遠征ならなおさらです」
「貴国とは二つ国を挟んでいるが・・・」
「はい、ザルツ帝国と友好関係を・・・結べば我国は安泰でございます。これは希望でございますわ」
「フロン王国を挟み撃ちにできるな・・・道理だ」
何とか皇太子殿下の会話に付いていく。マリア様が口を挟んだわ。
「ちょっと、ゲッペルンは、隠しキャラよ!カロリーナは序盤で消える悪役令嬢じゃない!」
「マリア、どうした!」
「呼び捨てにするな。マリアを下がらせろ!大国だぞ!」
2人の声が遠ざかった。陛下の命令で近衛騎士に連行されたわ。
この黒髪の皇子と・・・話していたい自分に気がついた。もう、ファビアン殿下に未練はない。
「殿下、この策は実は私のものではないのです・・・」
すると、ゲッペルン皇太子殿下は人差し指を一本口の前に立てた。
「・・・人の影響を全く受けていない策などない。問題は、策を共有できるかだ。今度、ゆっくりお聞きしたい」
「はい、ゲッペルン皇太子殿下」
「ゲッペルンと呼んでくれ・・・」
「はい、ゲッペルン様。私はカロリーナで結構ですわ」
この方とは仲良く出来そうだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




