第三十九話 聖女ミナミ、教会に戻る
ミライクリス教の大聖堂。
聖女ミナミは跪く信徒たちを見下ろしていた。
「聖女様、お帰りなさいませ」
「ええ、ただいま」
可憐な笑みを浮かべるミナミ。
だがその心は怒りで煮えたぎっていた。
何が聖女よ。この腐った教会に戻るなんて。
派閥争い、賄賂、権力闘争。
教会は腐敗していた。
「聖女様、リクという冒険者をご存じですか?」
「……え?」
ミナミの表情が凍りつく。
「元勇者パーティーにいた『ゴミ拾い』のリクです。今では英雄として名を馳せているとか」
「……そう」
ミナミの拳が震える。
爪が掌に食い込む。
リク……貴方が……英雄?
冗談じゃないわ。私こそが英雄になるべきだったのに。
その夜、ミナミは一人部屋で呟く。
「リク、貴方を殺す。そして私が世界の頂点に立つ」
聖女の仮面の下で、闇が蠢き始めていた。
** リク視点
リクは幸せなはずの朝に何か後ろ暗いものを感じた。
「うう、なんだか寒気がする」
「リク? 大丈夫か?」
結局シェンナ様とも添い寝をしてしまった。
シェンナ様はニコニコとしているが、リクは少し負い目を感じてしまう。
何だか大きな闇が蠢いている気がした。
「リク? 何か不安なことでもあるのか?」
リリーナが横からリクの顔を覗く。
「うん。何か大きな不安があるんだ。それがなんなのかわからないけど」
「大丈夫よ、私たちも一緒に戦うから」
「俺もリクを守るぜ」
「私も守るわ」
アナリス、リリ、サラがリクの手をさすりながら寄り添ってくれる。
マキさんや蝶華優閃のマーレッド、ルナ、クルミ、ウララもいて、何故か全員裸なのは見ないことにする。
「我もリクを守る。リクも我らを信じろ」
ハクもリクの目をじっと見つめて嬉しいことを言ってくれる。
そうだよね、僕は仲間を信じるってことをしていなかったのかもしれない。
「うん。皆を信じる。皆で乗り越えよう」
リク達は決意を新たにするのであった。
シェンナ様とリク、騎士団と別の冒険者の一行はヴィクトール伯爵の治めるヴェネツィアの街へとたどり着く。
ここを抜けると王都アランウェイクにたどり着く。
リク達は旅の疲れをいやすためにここで一泊していくことにした。
「ふう。一応ヴィクトール伯爵にも挨拶をしていかねばならん」
「そうなんですね。僕達は宿で待機していますよ」
「ならん。リクも来るのだ」
「え?」
「リクも騎士爵をもらうのであろう? ならば貴族としてあいさつは大事だ。何、あの村での事も報告して嫌味でも言ってこようではないか」
流石にそれは……と思うリクだったが、馬車に乗せられて、ヴィクトール伯爵の領主の館に向かう。
一緒に向かうメンバーはハクと蝶華優閃のマキとリリーナとシェンナ様と騎士団の面々だ。
ヴィクトール伯爵の領民たちは少しやつれて、暗い感じがした。
ババロの街やカミスの街では見られなかったことだ。
領主の館に着くと、少し待たされてから応接室に案内される。
部屋に入ると若干顔がやつれたヴィクトール伯爵がいた。
うん? 前はもっと自信満々だった気がするんだけど。
金髪オールバックの180センチの鷹のような目をした伯爵の前の姿は見る影もない。
リクとシェンナ伯爵はソファーに座り、マキとリリーナとハクは後ろに立つ。
「ああ。シェンナ伯爵とリクか。よく来てくれた」
「ヴィクトール伯爵? 何やらやつれているようだが?」
「くっ、誰のせいで……! いやそれ以外にも要因はあるが……」
どうやら前の貴族たちの宴で陛下の判断に異を唱えたことが陛下に知らされたらしい。
それでお叱りを受けたのだろう。
「どうやらあの時の一件以外にも何かあるのだろう。それにな、通ってきた村で白い大蛇の魔物とグリフォンが争っていたのだぞ。何故それを放置した」
「むむ。確かにあの村の事も解決はしていなかった。だが問題が発生しているんだ」
「それはどのような問題ですか?」
「私の娘に黒い痣ができて苦しんでいるのだ。もう二日ほどたつがどんな回復魔法をかけても治らない」
「見せてください。お役に立てるかもしれません」
ヴィクトール伯爵はリクの言葉を疑うものの、藁にも縋る思いでリクにお願いする。
「英雄リクよ。私にできることは何でもする。どうか娘を助けてくれ!」
ヴィクトール伯爵がリク達に土下座をする姿に唖然とするリク達。
父親としての顔を見せるヴィクトール伯爵にリクは好感を抱いた。
「案内してください」
領主の館の中を歩き、ヴィクトール伯爵の娘の部屋に行く。
「娘の体の状態はひどい状態だ。あまり直視してやってくれ」
部屋に入るとその言葉の意味が分かる。
体中に黒い痣が広がっていて、膿んでいた。
ヴィクトール伯爵の娘、セリーナ・ヴィクトールはひどい熱を出して苦しんでいる。
「リク、あれを使うのだな?」
「はい」
シェンナ様に確認されて、リクはセリーナに近づき、天使の回復魔法(極)を使う。
セリーナの体中にできていた、黒い痣が天使の回復魔法(極)によって消えていく。
「やった! 娘が助かった!」
「いえ……これを見てください」
一旦は消えたかと思われた黒い痣がまたうっすらとでき始めていた。
外傷は治せるが、病や呪いには効果がないのだ。
リクは肩を落とす。
しかし、セリーナは目を覚まし、リクの顔を見る。
「まあ素敵な王子様。私が死ぬ前に素敵な夢でも見ているのかしら?」
「セリーナよ。これは夢ではない。気をしっかり持て」
「フフフ、お父様、わかっていますわ。ですが先程よりは体がましになりましたわ」
リクはどこでこのような呪いを受けたか心当たりはあるかと問う。
「そういえば、数日前にミライクリス教の教徒様から素敵なお人形を頂きましたの」
「何だと⁉ それはどこにある」
セリーナは部屋の隅の所を指さす。
それはセリーナにとても似た精巧な人形だった。
「この人形は、呪われています。僕は真の勇者という二つ名を持ちますが、この人形が呪いの元凶です」
「何だと! これを破壊すればよいのではないか?」
ヴィクトール伯爵は興奮して叫ぶ。
だがハクが制止する。
「ダメじゃ。この人形は呪いをかけて、その状態を映し出しているにすぎん。この人形を破壊するとこの娘も死んでしまう」
「そんな。じゃあどうすれば」
ヴィクトール伯爵は涙をこらえつつ、目を擦る。
「聖光魔法を使える者がおれば、呪いは解けるじゃろう」
それを聞いたリクは閃く。
「ヴィクトール伯爵、この街の近くに聖なる魔物は住んでいませんか?」
「それなら、聖なる海のダンジョンがヴェネツィアの近くにある。だが娘は、もう三日も持たないと言われているのだ」
「僕が回復魔法を掛けながら一緒に行けば、持つはずです。そしてそこで治療をします」
ヴィクトール伯爵は訝し気にリクを見る。
スキルの事は明かせない。だが信じてほしいと強い目で見ると、ヴィクトール伯爵は折れたように首を振る。
「娘の事はリクに託す。だから娘を助けてほしい」
「はい。必ず助けます」
次話、聖なる海のダンジョンにシェンナ様とセリーナと新クランのメンバーで潜入!
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