第十九話 勇者クリスとの決闘
第一章完結です!
二人はギルドの外に歩いていく。
「リクが強くなったとはいえ、相手は勇者クリスよ! 皆止めてよ!」
サラが我に返り、アナリスやリリにすがるが、二人は冷静に落ち着かせる。
「大丈夫よ。リクはね、勇者より強いわ」
「ご主人様が負けるとかありえねえ」
ギルドの外でアナリスとリリ、サラ、マーシャ、エルザや他のギルド職員達と冒険者達が見守る中、勇者クリスは背中に背負った剣を抜く。
ゴミ拾いのリクはどれだけ強くなったんだ?
腐っても勇者よ? 危ないんじゃない?
周りの観客がざわめく。
「決闘は……どちらがギブアップを宣言するまでやめない。良いな?」
「良いよ? でもいいの? 雑用係の僕に負けたってなったらもう冒険者なんてできないよ?」
リクは冷静に、だがあえてクリスを煽ることを言う。
それだけリクはサラを斬ろうとしたことを怒っていた。
「貴様ぁあああ!」
クリスは勇者のスキル、俊足を使い、瞬時にリクを斬りつける。
その勢いは、肉厚のオークキングでも一撃で叩き斬るだろう。
――だが。
「効かないよ?」
青いオーラを纏ったリクは片手で長剣を受け止める。
クリスは驚いて、リクの目を見る。
その目の奥には炎が燃えていた。
クリスは怯えながら後ずさる。
リクが使ったのは鎧術(大)。ドラゴンのブレスを受けても無事だろう。
それくらい(大)スキルは強いのだ。
すげえ、あの一撃を防ぐなんて。
あのオーラは何のスキルかしら?
観客たちはざわめく。
「クソクソクソクソ!」
クリスは自身に身体強化(中)をかけて、闘気(中)もかけなおし、リクに迫る。
ヒットアンドアウェイで長剣で斬りつけるが。
「何故、攻撃が通らない! 俺は勇者なのに!」
リクはただ立っているだけ。それなのに、鎧術(大)を越えられない。
クリスは碌にご飯を取っていないため、息切れを始める。
長剣は段々と刃こぼれをしていることにも気づいていない。
「次は僕から行くよ?」
リクは自身に身体強化(大)と闘気(中)をかけて突進(中)で間をつめる。
そしてハルバードではなく、自身の拳をクリスに叩きつける。
「グギャアアア!」
咄嗟にガードポジションを取ったにもかかわらず、腕の骨を折られ、顔は陥没するほど歪む。
身体強化(大)と闘気(中)を使っているにもかかわらずこの威力だ。
クリスはリクの馬鹿げた力に気づき始める。
その後は腕をあげられなくなったクリスをリクが平手ではたく。
「サラに迷惑をかけた分! これは僕が良いように使われてきた分! 僕の大事な人達を物扱いした分!」
リクは三発の平手打ちをしたが、クリスの顔はパンパンに腫れていた。
その様子を見ていた観客たちは笑い始める。
いい気味だぜ!
女を物扱いするクソ勇者!
さっきの声、ゴブリンみたいだったわ!
クリスはもう心が折れかけていたが、ここに来る途中に怪しげな商人からもらった薬を思い出す。
「これがあれば、貴方の事を馬鹿にするものは全員殺せますよ?」
藁にもすがる思いで、クリスはその薬を飲む。
「ぐおおお! 力が力が湧いてくる!」
クリスは体を膨らませ、肉体を肥大化させていく。
体が膨らみ、筋組織がぶちぶちと膨れ上がる。
「みんな下がって!」
「リク! ここからは私たちもやるわ!」
「ご主人様を守るぜ!」
だがリクは首を振る。
「だめだ。まだ決闘は終わってない」
「ぐおおお! リク、コロス!」
クリスは肥大した肉体に黒いオーラを纏っていた。
「これは! 魔物の力が顕現しているの?」
エルザがクリスに起きた変化を見抜く。
クリスはもう魔物になったようだ。
「コロス、コロス、周りの女全員コロシテ、お前もコロス」
リクは覚悟を決める。元勇者を殺す覚悟を。
しまっていたハルバードを構えて、身体強化(大)、俊敏(小)、闘気(中)、鎧術(大)を体にかけて突貫する。
クリスは逃げ遅れたサラに手を伸ばしていた。
残像ができる速さでサラの前に回り込む。
ドンッ!
ハルバードをクリスに叩きつける!
地面がきしみ、クレーターができる。
黒いオーラが霧散し、体がぺしゃんこになる。
——最後の一撃。
思い切り振りかぶって、クリスに振り下ろした一撃は、地割れを起こし、地下深くまでクリスを吹き飛ばして、塵に変えた。
うおおおおお!
リクがやったぞ!
もう「ゴミ拾い」じゃねえ! あいつは英雄だ!
カミスの街の英雄だ!
観衆が湧いている中、騎士たちが走ってくる。
オーガだ! オーガの群れがカミスの街に迫ってる!
「まずいわ。何頭くらいなの?」
エルザが騎士に慌てて聞く。
「おそらく、五百頭は超えています!」
大変だ! 五百頭は流石に倒せねえ!
避難しないと!
町の住民がパニックになる中、リクは冷静に考える。
アナリスとリリを見ると、うんうんと頷いていた。
「すみません。僕一人で何とかできます」
「え? 何を言ってるの? リクは強いけど、一人で五百頭は抑えられないわ」
「大丈夫です」
それからカミスの街は慌ただしい雰囲気に包まれる中、リクとアナリスとリリは城壁の外でオーガを待つ。
ぐおおおおお!
人間コロス!
「あれは……何かに操られてる感じがするわ!」
先頭のオーガキングはただのオーガではなく、ロイヤルオーガキング。
つまり、群れをまとめ上げる長が進化した姿だった。
「リク! あれは倒せないわ! 城壁の中に戻って!」
ギルド長エルザが必死に城壁の上から叫ぶ。
「じゃあ行ってくるよ」
「リク。任せたわよ」
「ご主人様なら余裕だぜ」
身体強化(大)と闘気(中)、鎧術(大)、突進(中)、威圧(大)を掛けて、突進してくるロイヤルオーガキングとぶつかる!
リクの小さい体が十メートルのロイヤルオーガキングを吹き飛ばした。
リクの威圧を含めたスキルでオーガの軍隊は恐慌状態になる。
ロイヤルオーガキングは気づく。ああ、己は王ではない。
ここに王になるべき存在がいると。
「意識を取り戻した?」
「王よ、己はロイヤルオーガキング。何者かに操られ、ここまで来た」
「そう。ちょっと待ってね」
リクは気配察知(小)×2でわずかに感知した気配に向かってハルバードを振り下ろす。
「⁉」
何かを叩き潰したかに感じたが、蝙蝠の姿になり、美形の男性吸血鬼となる。
「全くとんでもない少年になったね」
「やはりお前だったか。ウォーリー」
「勇者をそそのかして、魔物にしたのに、被害も出せないなんて。しかもオーガを従えている。君は何者だい?」
「「ゴミ拾い」のリクだよ」
そのセリフに口笛を吹くウォーリー。
「リク。花嫁にしようと思っていたが君は危険だね。だがここは引かせてもらおう」
「逃がさないわ」
「俺が首を狩るぜ」
リリが隠密(中)で後ろから首を狩る。
アナリスが弓術(大)で光の矢を放つ。
「なっ⁉ ヴァンパイア特攻の矢だと⁉」
首を狩られて、光の矢を受けて体が崩れはじめるウォーリー。
「ウォーリー、悪いけど殺させてもらう」
リクはとどめに強烈な衝撃波を放ち、崩れかけた体を塵にする。
「く、そ……」
ウォーリーは消えていった。
ぐおおおおお!
うおおおおおお!
りくううううう!
オーガ達は新たな王の誕生に沸き立ち、城壁から見守っていた冒険者たちは歓喜の声をあげる。エルザは涙ぐみ、サラは顔を赤らめて見ていた。マーシャは歓喜の舞をしている。
「リク。もう「ゴミ拾い」のリクじゃないわね」
「ご主人様は英雄だぜ」
二人に抱き着かれて、そっと抱きしめ返すリク。
もう雑用係のリクではない。新たな英雄のリクだった。
**
「くそ……リクの事を魔王様に知らせねば」
第一章 「ゴミ拾い」のリク、完結。
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