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第26話 二年生②



 その日の放課後。

 教壇の前に立つキース。


「みんな、今までごめん!」


 いきなり頭を下げて謝った。


「落第したくないとか関係なく、今までのことを謝りたい。本当にごめん」


 クラスメイトたちは呆気に取られていた。


「私は姫さまの出した条件に失敗したら、転校しようと思ってる」


 襟につけた銀の苺のブローチが揺れる。


「でもその前に、ちゃんと謝りたかった」


 静まり返る教室。


「私の元の家は聖騎士ばかりの家系で、私は親戚たちからバカにされていた。それでイライラしてみんなに酷いことをしてしまってた。本当にごめん」


 頭を下げたままキースは言った。


「言いたかったのはそれだけ。私は体育館で練習してるから、もしよかったら来てよ。技を覚えてもらいたいから」


 キースの独りよがりで下手くそな謝罪は終わった。

 そして教室を出て、体育館へ向かう。


 キースのいなくなった教室で、


「技を覚えてもらいたいって言われてもね……」

「剣術、あんまり興味ないかな」


「っていうかびっくりなんだけど、謝ったよ? あのキースが」

「ねー、どうしたんだろ急に」


「やっぱり落第したくないんじゃない? 普通に」

「私も聖騎士学院落ちてここに来てるから、気持ちはわからなくもないけど……」


 やいのやいの話すクラスメイトたち。


 学年で成績優秀な3名に送られる銀の苺のブローチをつけたロザリエが、やや不貞腐れたような表情で窓の外を眺めていた。

 もう一人の銀の苺の魔女、マルシュ・オウレドは机に座って下を向いたまま固まっていた。





 体育館。

 一人、木剣を構えるキース。


(やれるだけ、やるんだ)


 クラスメイトたちに許してもらえなくても、できる限りのことをやろうと思っていた。

 集中し木剣を振るう。


「レ、レモネーシアさん!」


 いきなり大きな声で呼ばれて驚くキース。

 振り返ると一人のクラスメイトが立っていた。


「ごめん、何回も呼んだんだけど、すごい集中してたみたいだったから」

「え? ああ、気づかなくて、こっちこそごめん」


 クラスメイトの、ユズ・シャンペルノが来てくれた。

 ユズは、前髪をばつんと切り揃えたブロンドのショートカットで、どことなくハリネズミっぽい愛敬のある顔をしていた。


「っていうか来てくれたんだ。ありがとう」

「うん、でも、みんなを連れてこられなくてごめんね」


 ユズの成績は、学年で最下位だった。

 本人は努力していたが、なかなか結果にあらわれていなかった。


「いや、誰も来ないと思ってたから嬉しいよ」

「本当に? よかった。嫌われてたらどうしょうかと思ってた」


 笑顔になるユズ。

 キースも笑顔で返す。


「じゃあ、早速教えて!」

「わかった。まず、一回打ち込んでみて」


 木剣を構えるユズ。

 呼吸を整えると、藁束に勢いよく振り下ろした。


ボフッ!


 それはへっぴり腰で、不恰好だった。


(これは……)


 なんて言おうか考えるキース。


「あ、あの、どうかな?」

「うんいいよ。もっと姿勢を整えてみて」


(一回、私のを見てもらった方がいいのかな)


 どうやって教えるのか無策だった事を、キースは思い出した。


ボフっ!


 再び、キレの無い音が響いた。





 二時間後。


「ふーっ」


 手にできたマメを見て、手首を振るユズ。


「もう終わりにしようか」

「まだまだー!」


 まだやる気のようだ。


「いきなりやりすぎても、怪我するだけだから、明日にしよう」


 キースがユズの木剣を抑えて言った。


「え?そうなの?」

「明日は筋肉痛だよ、多分」


「げ、やばい、でも頑張る」


 引きつった笑顔を浮かべるユズ。


「剣術の本によれば一日にたくさんやって次の日休むより、毎日少しづつでもやる事の方が重要みたいだし」


キースは「木剣を渡して」というようなジャスチャーをしながら言った。


「うーん、そういうものか。一つ謎が解けたぜー」


 木剣を渡すユズ。


「っていうか、なんでそんなに頑張るの? 私のため、じゃないよね」


 キースがユズから木剣を受け取り、片付けながら聞いた。


「私の家、レモネーシアさんと一緒で、親戚に聖騎士の人が多くて集まりがあるたびに、わたし馬鹿にされてるの」


 一瞬固まるキース。


「で、落ち込んでたんだけど、レモネーシアさんも一緒なんだと思ってなんだか嬉しくなったし、私もだよー! 一緒に頑張ろー! って思って来ちゃったの。私も魔女を諦めたくないって思ってる。レモネーシアさんもそうだよね? ええと、だからレモネーシアさんの為でもあり、自分の為でもあるから、頑張るの」


 その答えを聞いてキースは単純に驚いた。

 同じようなことで悩んでいる人がいる、そんな事は想像もしなかった。

 驚くと同時に、なんだか自身の悩みが少し小さくなった気がした。


「なるほど、わかったよ」


 うつむき気味に言った。


「実は、とっておきの話があってね」


 顔を上げ、キースは不適な笑みを浮かべた。


「おお!? なになに?」


 二人の話はしばらく続いた。






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