第26話 二年生②
その日の放課後。
教壇の前に立つキース。
「みんな、今までごめん!」
いきなり頭を下げて謝った。
「落第したくないとか関係なく、今までのことを謝りたい。本当にごめん」
クラスメイトたちは呆気に取られていた。
「私は姫さまの出した条件に失敗したら、転校しようと思ってる」
襟につけた銀の苺のブローチが揺れる。
「でもその前に、ちゃんと謝りたかった」
静まり返る教室。
「私の元の家は聖騎士ばかりの家系で、私は親戚たちからバカにされていた。それでイライラしてみんなに酷いことをしてしまってた。本当にごめん」
頭を下げたままキースは言った。
「言いたかったのはそれだけ。私は体育館で練習してるから、もしよかったら来てよ。技を覚えてもらいたいから」
キースの独りよがりで下手くそな謝罪は終わった。
そして教室を出て、体育館へ向かう。
キースのいなくなった教室で、
「技を覚えてもらいたいって言われてもね……」
「剣術、あんまり興味ないかな」
「っていうかびっくりなんだけど、謝ったよ? あのキースが」
「ねー、どうしたんだろ急に」
「やっぱり落第したくないんじゃない? 普通に」
「私も聖騎士学院落ちてここに来てるから、気持ちはわからなくもないけど……」
やいのやいの話すクラスメイトたち。
学年で成績優秀な3名に送られる銀の苺のブローチをつけたロザリエが、やや不貞腐れたような表情で窓の外を眺めていた。
もう一人の銀の苺の魔女、マルシュ・オウレドは机に座って下を向いたまま固まっていた。
◇
体育館。
一人、木剣を構えるキース。
(やれるだけ、やるんだ)
クラスメイトたちに許してもらえなくても、できる限りのことをやろうと思っていた。
集中し木剣を振るう。
「レ、レモネーシアさん!」
いきなり大きな声で呼ばれて驚くキース。
振り返ると一人のクラスメイトが立っていた。
「ごめん、何回も呼んだんだけど、すごい集中してたみたいだったから」
「え? ああ、気づかなくて、こっちこそごめん」
クラスメイトの、ユズ・シャンペルノが来てくれた。
ユズは、前髪をばつんと切り揃えたブロンドのショートカットで、どことなくハリネズミっぽい愛敬のある顔をしていた。
「っていうか来てくれたんだ。ありがとう」
「うん、でも、みんなを連れてこられなくてごめんね」
ユズの成績は、学年で最下位だった。
本人は努力していたが、なかなか結果にあらわれていなかった。
「いや、誰も来ないと思ってたから嬉しいよ」
「本当に? よかった。嫌われてたらどうしょうかと思ってた」
笑顔になるユズ。
キースも笑顔で返す。
「じゃあ、早速教えて!」
「わかった。まず、一回打ち込んでみて」
木剣を構えるユズ。
呼吸を整えると、藁束に勢いよく振り下ろした。
ボフッ!
それはへっぴり腰で、不恰好だった。
(これは……)
なんて言おうか考えるキース。
「あ、あの、どうかな?」
「うんいいよ。もっと姿勢を整えてみて」
(一回、私のを見てもらった方がいいのかな)
どうやって教えるのか無策だった事を、キースは思い出した。
ボフっ!
再び、キレの無い音が響いた。
◇
二時間後。
「ふーっ」
手にできたマメを見て、手首を振るユズ。
「もう終わりにしようか」
「まだまだー!」
まだやる気のようだ。
「いきなりやりすぎても、怪我するだけだから、明日にしよう」
キースがユズの木剣を抑えて言った。
「え?そうなの?」
「明日は筋肉痛だよ、多分」
「げ、やばい、でも頑張る」
引きつった笑顔を浮かべるユズ。
「剣術の本によれば一日にたくさんやって次の日休むより、毎日少しづつでもやる事の方が重要みたいだし」
キースは「木剣を渡して」というようなジャスチャーをしながら言った。
「うーん、そういうものか。一つ謎が解けたぜー」
木剣を渡すユズ。
「っていうか、なんでそんなに頑張るの? 私のため、じゃないよね」
キースがユズから木剣を受け取り、片付けながら聞いた。
「私の家、レモネーシアさんと一緒で、親戚に聖騎士の人が多くて集まりがあるたびに、わたし馬鹿にされてるの」
一瞬固まるキース。
「で、落ち込んでたんだけど、レモネーシアさんも一緒なんだと思ってなんだか嬉しくなったし、私もだよー! 一緒に頑張ろー! って思って来ちゃったの。私も魔女を諦めたくないって思ってる。レモネーシアさんもそうだよね? ええと、だからレモネーシアさんの為でもあり、自分の為でもあるから、頑張るの」
その答えを聞いてキースは単純に驚いた。
同じようなことで悩んでいる人がいる、そんな事は想像もしなかった。
驚くと同時に、なんだか自身の悩みが少し小さくなった気がした。
「なるほど、わかったよ」
うつむき気味に言った。
「実は、とっておきの話があってね」
顔を上げ、キースは不適な笑みを浮かべた。
「おお!? なになに?」
二人の話はしばらく続いた。




