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第24話 聖騎士と魔女⑤



 ドアを挟んで母と一悶着あった日から、2日後。


「魔女を舐めないでください」


 校長室で姫に啖呵を切ったキースは、教室へ向かって歩いていた。


(あと3週間で、二年生全員が藁を斬れなければ私は落第する。どうやれば、あのボンクラどもに技を教えられる?)


 姫にああ言ったものの、全くの無策だった。

 教室に着くと、何だかいつもと雰囲気が違うように感じた。


「今後のことなんだけど、剣術の練習は夕方4時からやるから、遅れないように体育館に来ること。みんなわかった?」


 クラスメイトに言って聞かせるキース。


「……」


 静まり返る教室。


「ねえ、返事は? なんで黙ってるの?」


 誰もキースと目を合わさない。


「いい加減にしろよ、なんか言えよ」


 声のトーンを落とすキース。

 銀の苺のブローチをつけた生徒、ロザリエ・タリアグラスが口を開いた。


「みんなあんたには、もうついていけないってさ」


 ロザリエが椅子から立ち上がりキースを見た。


「あんたが今までやってきたことの結果だよ、これが」


 正面からキースを見つめロザリエが言った。


「ああ? もう一回言ってみろ」


 睨みつけながら、キースはツカツカとロザリエに近づいた。


「そうやって、切れれば何でも言うこと聞くと思ってるところが最悪だって言ってんの」


 今にも襲い掛かりそうなキース。

 怯まないロザリエ。


「お前なんか簡単に——」

「ああ、怖い怖い、3週間後が待ちどおしいわー」


 肩をすくめて言うロザリエに、はっ、と我に帰るキース。


(くそっ、こいつら……)


 自信過剰なキースは、みんなが言うことを聞かないなどとは、微塵も思っていなかった。

 周りを見回すと、クラスメイトたちは完全に冷めた目でキースを見ていた。

 何だか居づらくなって、キースは教室を出た。





「はあー、怖かった、何よあれ」


 キースが居なくなって、安堵感に包まれる二年生の教室。


「あんな子と一緒に学園生活してたなんて、よく耐えてたよね私たち」

「ホントにね、私たちに今まで酷いことしたぶん、報いを受けろって感じよー」


 心底嬉しそうなクラスメイトたち。


「ロザリエ、あんたもカッコよかったよ」

「そうそう、すっきりしたわー」


 ロザリエは、やや嬉しそうに手で答えた。

 それから踊りを踊り出すものまで現れ、ワイワイ言いながら、クラスは幸せな雰囲気に包まれた。


「そういえば、マルシュどこ行ったんだろ?」


 誰かが言った。





 教室を出たキースは、姫の授業が今日の最終授業だったというの事もあって、帰路についていた。


 家に帰ると、妹のディタと母が楽しそうに話していた。

 一年生は、授業時間が短いため早く帰ってきていたのだ。

「今日の分のおまじない」などと言ってハグまでする始末。


(気持ち悪い)


「あ、キースおかえり」

「姉様おかえりなさい」


「今日はカップケーキを焼いたの、どう? 一緒に」

「……」


 無視して自室に入る。

 鍵をかけると、ベッドに倒れ込み枕に頭を埋めた。


(くそ、あいつら……)


 クラスメイトたちを呪った。

 そんなことをしても、どうにもならないことはわかっている。

 しかし、いい方法など何も思い浮かばない。


(このままでは落第だ。妹と同じ学年になる。それだけは嫌だ!)


 聖騎士に負けたくないという思いが自分を追い込んだ。


(私はバカだ。魔女が聖騎士に勝てるわけないのに……)


 その事実を思い出すたびに、胸が苦しくなった。

 自分を存在しないもののように扱った、親戚の顔を思い出した。


(明日、姫さまに謝罪して条件を取り下げてもらおう。その方がマシだ)


 そんなことを考えていると、ドアがノックされた。


「カップケーキ、ここに置いておくわね」


 キースは慌てて布団を被り、その声が聞こえないようにした。

 この家からも追い出されるんじゃないか、なぜかそんなことを考えていた。





 校長室。

 キースが姫に啖呵を切って出ていったあと。

 ソファーに座る、姫、校長、2年の担任プラリネ。


「落第させるという条件は取り下げても良いが、この程度できないようではいずれこの学園はなくなるぞ? 噂は知っておるか?」


 姫がプラリネを見た。


「この学園を取り壊して、聖騎士学院の第二校舎を作るって話ですか? まさかあれ本当なんですか……?」


 プラリネの問いかけに姫はうなずいて答えた。


「キルスターシュ家のものが画策しておってな、あいつら魔女の存在を消そうとしておるぞ。大王に取り入っておるからわらわでも手が出せんし……。だから、実力で黙らせる必要がある」

「……」


 黙り込むプラリネ。


「実は、大王さまが一ヶ月後に視察にくるという連絡が入っているの。藁斬りをみたいとの事よ」


 達観した表情の校長。


「母上が生きていたらな……。500年前、創世の女王さまが建てられたこの学園をわらわも潰したくはないのじゃ。それに、気になる言い伝えもあるしな」


 立ち上がって窓の外を眺めながら姫が言った。


「……姫さま。今の言葉、信じます。けど……」


 言葉を切り、同じく立って姫の方を向くプラリネ。


「けど、明らかに楽しんでますよね?」


 プラリネの言葉を受け、背を向けていた姫が振り返った。


「さすが、プラリネは鋭いのー!」


 そして屈託のない笑顔を見せた。





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