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第23話 聖騎士と魔女④



 母レフールの膝の上で眠るキース。


 しばらくして、


「……ぅ、……ん」


キースが目を開けた。


「……?」


 うつろな瞳で辺りを見る。


「……え?」


 母の膝の上に座っていることに気づいた。


「あ、えっと、起こしちゃったわね」


 状況が飲み込めないキース。


「寝ぼけてここまできたのよ」


 母の言葉を聞く前に、キースは抱かれた手を振り解いて、即座に立ち上がる。


「あ、待って」


 そのまま急いで出ていってしまった。

 レフールは話したいことがあったのだが、またの機会となった。





 自身の部屋に戻ったキースは薄手の布団にくるまった。

 先ほどのことを思い出していた。


 寝ぼけていたとはいえ不覚だった。

 母とは一切関わらないつもりだったのだ。


 キースは、食事と寝る場所の確保のためだけにここに来ていた。


(今までほったらかしにしていたくせに、母親づらするなんて許せない)


 母への怒り。


 キースは、母が親戚からひどい扱いを受けていたことを知っていた。

 精神を病み、入院するほど辛かったのだろう事も。


 それでも、親戚たちに「養子に出したらどうか」と言われたとき、何も言い返してくれなかったこと、守ってくれなかったことが悲しかった。


 その悲しみを覆い隠すために、怒りを身に纏っていた。


(もう、親とは思わない)


 そう決意していた。


 ひとしきり怒りの感情を自由にさせた後、それがどこかへ行ってしまうと、やけに落ち着いた気持ちになった。

 いつもは途切れ途切れに目が覚めるのだが、その日はよく眠れた。





 あの日以来、キースと母レフールの接触はなかった。

 ぎこちないまま、3人の親子の夏休みが終わった。


 キースとディタは家族との時間が大切だとのことで、学園からは寮を使うのではなく、ステアの家から通うよう言われていた。


 始業式が終わった後、昼は学園で食べ、寄り道をして、しぶしぶ家に帰ってくるキース。


 玄関のドアを開けると、母レフールとステアが出迎える。

 妹はいないようだ。

 遊びにでも行っているのだろうか。


 ふいに、甘い香りがした。

 懐かしい香りだった。


「クッキーを焼いたの。一枚どう?」


 レフールが出来立てであろう、星型のクッキーを見せて聞いた。


「……」


 キースはそれを一度見た後すぐに目を逸らし、無言で自室に向かった。

 部屋に入り鍵をかけると、ベッドに倒れ込んだ。


(私が好きなのはハート型のクッキーだ。星型は妹が好きな形。やはり何もわかってない)


 少し休憩した後、ベッドから起き上がると魔力を練る鍛錬を始めた。


 魔力を練りながらゆっくりと決められた動作を行う。

 動きの中で体内の魔力を感じ、指先に集める。


 上位者ならば全身の魔力以外に、この世界に溢れる力も一点に集めることができるというが、キースには自身の心臓から腕にかけての魔力を集めるのが精一杯だった。


 だが、キースは自分と向き合うこの鍛錬が好きだった。

 魔力をうまく制御できた時はとても嬉しい気持ちになった。


 自分の体をうまく扱えている、出来なかったことがだんだんと出来るようになっていく、それが楽しかった。


(今日は、両手で同時にやってみよう)


 集中して取り組んでいると、ドアがノックされた。


「クッキーを置いておくわね。よかったら食べて」


 母レフールの声がした。

 その声に対してキースは、腹を立てた。


(せっかく集中していたのに、どうでもいいことで邪魔するな)


 そう思いつつも鍛練に戻ろうとするとクッキーのことが気になって、集中できなくなっていた。

 お腹が空いていたのだ。


 再び集中するためにも何か食べておくかと思ったキースは、ドアを開けた。


「あ、」

「え?」


 ドアの前で母は待っていた。


 一瞬驚いたキースだが、次の瞬間には怒りを露わにしていた。


(待ち伏せなんて気持ち悪い)


「クッキーなんか持ってくるな!」


 思わずそう言って、すぐドアを閉めるキース。


「あ、ちょっと!」


 レフールはクッキーの入った皿を手で横にずらすと、ドアを開けようとした。

 それに気づいて慌てて押し返すキース。


「ぐぐぐ、ちょ、ひとつだけ言っておきたいことがあるのっ」

「くっ……!」


 ドアを挟んで押し合うふたり。


「ちょっと、だけでいいから、話を聞いてっ」

「ぐぐっ……!」


 ともかく、母はそのまま話し始めた。


「家の事情でっ、私は聖騎士学園に入った、けどっ」

「くっ……!」


 病床に臥していた母より、娘の方がやや力が強かった。


「私は本当はっ、魔女に、なりたかったのっ、だからっ」

「ぐっっっ……!」


 キースが押し切りドアは閉められた。

 すぐに鍵をかける。


「だから、あなたが魔法女学園に入学することになった時、はあはあ、嬉しかったのよ」

「……」


「言いたかったのはそれだけよ。無理にドアを開けようとしてごめんなさい。どうしても顔を見て言いたくて」

「……」


 言い終わって少ししてから、足音が離れていくのが聞こえた。


(あの時は何も言わなかったくせに。今さら何?)


 キースは、しばらくドアの前で立ったままでいた。





 3時間後、夕飯をドアの前に置きに行くと、クッキーの入っていた皿が空っぽになって置かれていた。


(食べてくれたのかな?)


 レフールの心は少し弾んだ。


「夕飯、置いておくわね」


 ドアをノックしていつもと同じ声の調子で言うと、夕飯を置いた。

 そして、空っぽになったクッキーの皿を持つと、スキップしそうな勢いで台所へと戻った。





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