第22話 聖騎士と魔女③
夏の初め頃、養子に出されたキースは里親の家に行かず、クラスメイトの家を渡り歩いていた。
しかし、いつまでもそんなことは続けていられない。
新しい親が、魔法女学園の学費を払ってくれるのかわからなかったが、行き場をなくしたキースは学園の寮へとやって来ていた。
学園に来たキースに、妹の担任であるボワロンからの呼び出しがあった。
キースはそれに応じる形で、実の母親と妹と共に、養母としてたくさんの子を育てた経験を持つステア・オルストリアの家に行くことになった。
◇
キースとディタの実の母、レフール・レモネーシアは、ボワロンから娘2人が養子に出された事を知らされて、夫と離婚した。
そして、娘の親権を取り戻す。
支配的で威圧的な親戚たちから解放されたためか、レフールはやや元気になってきていたが、親としての自信を喪失しており、どのように子供に接すればいいのかわからなくなっていた。
退院できることになったものの、まだ病が治りきらないレフールに、ボワロンから「3人で、ステアのところへしばらく行ってみてはどうか」と提案された。
経験豊富なステアに相談したい事もあったし、レフールは世話になることにした。
3人が家に着くと、彼女は優しく出迎えた。
まずは全員で昼食を取ることにした。
◇
母レフールは娘が聖騎士学院に落ちたことから、聖騎士以外は一族とは認めない態度の親戚からいびり倒され、精神を病んで入院していたので、家族との食事は久しぶりだった。
それはキースにとってもディタにとっても同じだった。
母が入院してからというもの、父と食卓を囲むことはなかった。
ディタは祖母に懐いていたため、祖母の家でよく食事をしていたが、その祖母も昨年亡くなっていた。
「……」
「……うん」
「……あの」
久々に母と子で食卓を囲んだ3人は何を話していいのかわからなかった。
ステアはニコニコしているだけで何も話してくれない。
学園で友人たちと食事している時のことを思い出して、ディタが話しだした。
「これ、美味しいですわ。お母様」
「え? ええ、そうね。ステアさんこれはなんという料理なのかしら?」
「ただのパンケーキですね」
ただのパンケーキだった。
別段、褒めるところもない。
「そ、そう。でも普通のパンケーキとは一味違う気がしますわ。き、キースもそう思わない?」
「……」
無言で食べ続けるキース。
「ぅ、……」
娘に無視されショックを受ける母レフール。
「お、お母様、姉様はこうおっしゃりたいのだと思いますわ。言葉にできないほど美味しいと」
ディタがフォローするように言うと、
ガシャンッ!
テーブルに拳を叩きつけ、キースは立ち上がり、自室として貸し出された部屋へと向かって出ていった。
静まり返る室内。
「じゃあ、食事を続けましょうか」
ステアが相変わらずの笑顔で言った。
「え、ええ」
落ち込むレフール。
「はい……」
暗い表情のディタ。
それから無言で食事をした。
◇
その日の深夜。
母レフールは寝付けず、お昼を食べたテーブルでココアを飲んでいた。
夕食の際、キースはみんなと食事せず、一人、部屋で食べることを選んだ。
ステアによれば、急に環境が変わってキースは混乱してると思われるとの事だった。
「あなたが優しく抱いて、ゆすってあげれば落ち着くと思います」と言われたが、近づき方すらわからなかった。
(どうすればいいのかしら)
考えても答えは見つからない。
ガチャ
「!?」
急に部屋のドアが開けられ誰かとそちらを見ると、キースが立っていた。
「え? キース?」
何かフラフラしていて様子が変だ。
よく見ると寝ぼけているようだった。
「え? え?」
よろよろと近づいてきてキースは、レフールの膝の上に座った。
「お、おう……」
レフールの膝の上で寝息を立てるキース。
キースの両肩に手を添えて、レフールはなんとなく顔を覗き込んだ。
昼間よりも幼く見える。
まだ、11才なのだから年相応といえばそうかもしれない。
(こんな幼い子をあんな屋敷に置いていたなんて、私はどうかしていたわ)
今思えば、親戚たちに洗脳されていたと言ってもいいような状況だった。
彼らの言葉が全て正しいのだと信じ込まされ、相談もできないように心理的な視野も狭められていた。
(もっと早く、二人を連れ出してあげていれば……)
後悔しても遅かった。
ともかく、今後二人の娘たちが健やかに成長するために必要なことなら、なんでもやってあげたかった。
(えーっと、どうしましょう……)
とはいえ、意外な状況に戸惑うレフール。
(ステアさんの言っていたことを、やってみようかしら)
目の前でキースの髪が揺れる。
(そういえば昔、娘たちはよく私の膝の上に座ってたっけ)
娘二人が、自身の膝の上を取り合っていたのを思い出した。
そのままキースを抱き抱えた。
(庭の花壇に置いたテーブルで、3人で作ったお菓子を食べて……)
起こさないように、ゆすってみる。
(あの頃は、よく笑っていたわね)
ゆらゆら揺れる二人。
しばらくそうしていた。




