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第2話 ショートケーキの魔女①

 入学してから二カ月が経っていた。いまだクラスで飛行魔法が使えないのはランセともう一人、ビート・クリスタリーゼという少女だけだった。


「おーい、クリスタリーゼ、お前は無理しなくていいぞー」


 魔法実技の授業中、先生が言った。


「ランセ、あんたはもっと無理しろって先生が言ってる」

「言ってない言ってない、汲み取りすぎだよピノちゃんは!」


 ランセが必死に自分をフォローしている横で、ビートは苦しそうに息を荒らげていた。

 ビートは前髪を下ろした黒のショートカットで、短い爪に黒ネイルの細身の女の子。

 あまり誰とも話さない。

 いつも教室の窓際の席で本を読んでいた。


 ある昼休み、ランセは見てしまった。ずっと続きが出るのを楽しみにしていた『子鹿のドーナツ』先生の『花冠のミルフィーユ』最新刊をビートが読んでいるのを。


(じぃー)


 本を読むビートの机の前にしゃがみ込んで、へばりつく様にして表紙を眺めていた。

 それに気づいたビートが、本をゆっくり右にスライドさせるとランセがそれにくっついてきた。

 今度は左に勢いよく


「ほッ、はッ、やッ!」


 上や下や右や左や、素早く動かす。ランセは完璧についてくる。帯に書かれた文字でも読んでいるのだろうか。


「あんた達、何やってるの?」


 本を間にはさんで謎のやり取りをする二人にピノが声をかけた。


「あ、ピノちゃん」

「……。」


 ビートは無言で本の続きを読もうとする。ピノの方を向こうともしない。

 我に帰ったランセがビートに話しかけた。


「クリスタリーゼさん、わたし『小鹿のドーナツ』先生の大ファンなんだ。だからその本読み終わったら貸してくれない?」


 ビートは言いよるランセに少し驚いた様な表情をした。だがすぐに普段のポーカーフェイスに戻ると、頭を右に傾け、少し口元を緩めて言った。


「嫌、だってあなた土臭いし、田舎者がうつりそうなんだもん」


「え? すみません、もう一度お願いできますか?」


「だから、貸さないって」


「はぁー!?」


 本を貸す貸さないは本人の自由だが、今の言い方は無いんじゃないだろうか。

 また、自分なら同じ趣味の友達ができて、色々話したくなるのになとピノは思った。一人でいて寂しくないのだろうか、とも。


「ほら、嫌だって言ってるんだからやめな」


 ピノはランセの手を取ってビートの席から離れる。


 ランセは黙ってしまった。


 気持ちもわからなくはない。あんな言い方はない。一言言い返してやればよかったのかも知れない。


「あの子、みんなにああいう態度なんだよね。何か訳ありなのかな」


 廊下へ出たところで同じクラスのズコットが話しかけてきた。

 ズコットは名前に違わずクラスのまとめ役だ。ピンクの髪をポニーテールにしていて、丸みを帯びたがっちりした体型は謎の安心感があった。みんな何かあると姉御肌のズコットのところに相談にいく。


「あの子に話しかけた子は、みんな嫌なこと言われたみたいなんだよね。私も一回声をかけた事があるんだけど、人を寄せ付けない様なところがあるというか。でも、そんなに悪い子には見えないんだけど」


「一人でいるのが好きなんじゃないの」


 ピノが答えた。

 聞かれてもわからないし、理由を詮索するつもりもなかった。


「あー! 思い出した! なんか聞いたことあると思ったら『天使が通る』のセリフだ!」


 ランセが唐突に言った。


「……なんの話?」


 困惑した表情でピノはランセを見た。


「さっきのクリスタリーゼさんが言った言葉だよ!」

「土臭い田舎者ってやつ? それがどうかしたの?」


「うん、『天使が通る』っていう『小鹿のドーナツ』先生の昔の作品の悪役のセリフなんだよ。何回も言うの。んで最後は仲良くなんの」


 ピノは状況が飲み込めない。ズコットも困惑していた。


「なんでその悪役のセリフを言ったの?」


 ピノは思わず聞いた。


「え? わかんない」


 期待したのにー、とピノは思った。


「本当は仲良くなりたいんじゃねーの?」


 廊下の窓から外を眺めていたクラス一の不良、エレルが会話に入ってきた。青い髪のウルフカットで目つきは鋭い。また、不良といっても言葉遣いが悪いという程度の不良だった、あと喧嘩っ早い。


「盗み聞きしないでください」


 ランセが言うと。


「うるせー、ポンコツ魔女見習い」

「なんだー、やるかー!」


 二人はあまり仲が良くなかった。

 ランセもエレルだけには喧嘩っ早く、ズカズカと近づいて、おでこどうしを押し当てて睨み合う。


「ほら、二人ともやめなって」


 ズコットが軽々と二人を持ち上げ、引き離した。


「こら、ズコットはなせ!」

「ズコットちゃんはなしてください!」


 二人は空中でワシワシともがいたが、その握力からは逃れることは出来ない。

 もう昼休みも終わりの時間に近づいていたので、先生がやってきた。


「こら、ズコット! 友達二人をそんな風に持ち上げるな! トレーニング器具じゃないんだぞ!」


 先生のズレた注意を受けてピノが


「先生、二人がまた喧嘩しそうになったんです。ズコットはそれを止めてくれたんです」

「なんだー、そうだったのかー。二人ともズコットに謝れ」


 ズコットは二人を下ろすと、先生を持ち上げ教室へと入って行った。


「ズコットちゃん怒ってた?」

「知らねーけど、オレあいつ怖いんだよ」

「ほら、二人とも授業始まるよー」


 三人は机の上で正座させられている先生の待つ教室へと入った。




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