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第13話 口聞かないっ③


 苺のレアチーズケーキの上に立つランセ。


 ピノが先生の側まで戻ってきた。


 ランセは飛んでいいのか分からなくなっていた。


 飛ぶことは学園を去る事を意味していた。

 実技試験の合格書を持って帰ればおそらく祖母も許してくれる。


 ピノの部屋に入ったとき、ランセは見てしまった。

 ピノがランセの誕生日の飾り付けなどの準備をしているのを。


 故郷のみんなとパーティーをしたかった。

 でも学園のみんなのことも好きだった。


 故郷でのパーティーに参加して、ピノが準備しているパーティーに参加しなかったら、この先ずっとピノは口を聞いてくれないのかもしれない。

 そう思うと、飛ぶことが出来なかった。


 でも、飛ばないと故郷のみんなとは会えない。

 故郷の誕生パーティーにも参加したい。


 どうすればいいのか分からなかった。

 

 どうすればいいのか分からなすぎて、ランセはとうとう泣き出してしまった。


「えーん」


 号泣するランセ。


「ええ!? どうしたヴァレリアンヌ。何泣いてんだ。どっか痛いのか!?」


 ボワロンの問いかけにも、ランセは泣いて答えなかった。





 ピノとランセが初めて会った時のこと——。


 入学式を終えて教室に入り自分の席に着いたピノ。


 何だかそわそわしながら座っていると、ピノの前の席に座っていたランセが後ろを振り返り、笑って話しかけてきた。


 ふたりの出会いはそのようにして始まった。


 特別印象に残るような出来事でもない。


 ただ、知らない子だらけの初めての場所で、不安な気持ちの中、何だか安心したのをピノは覚えていた。


 笑って話しかけてきた、そのランセが泣いていた。


 泣いてるところなんて初めて見た。


 いつも割と笑顔なのに何で泣いてるんだろう。


 お腹でも痛いのだろうか?


 ピノは自分の気持ちと向き合うと、自然と声をかけた。


「おーい、ランセ、なに泣いてんの? 大丈夫かー」


 ピノが声をかけると、ランセが一瞬泣き止んだ。


「ピノちゃん……」


 ランセは続けてピノを見ながら言った。


「ピノちゃん、わたしの故郷で、みんなと一緒に誕生パーティー、しようよ。ピノちゃんも、それに来てよ。ピノちゃんの、準備してくれてる、パーティーには参加出来なく、なるけど、わたしのこと、嫌いにならないでー!」


 ランセは夢の内容と現実がごちゃ混ぜになっていた。


 ピノは何のことを言われているのか分からなかったし、なんか調子のいい内容なのでは? とも思ったが、必死で訴えてこられたので、


「わかったよ」


と答えた。


「わかったから、泣いてないで飛びな。飛ばないことには故郷に帰れないんだし」


 ピノは笑って言った。


「うん……」


 ランセは涙と鼻水を拭った。


「話は終わったかー? 体調に問題ないなら試験再開するぞー」


 ボワロンが言った。


 ランセはボワロンを見て大きくうなずき、前を向いた。


「よーし……」


 目を閉じ銀のフォークの長杖に魔力を込めた。


 自分の体が目に見えない粒子となって、大気中に溶け出すところをイメージした。

 体が粒子となってどんどん流れ出ていく。その度に体がどんどん薄く透明になっていった。

 完全に体が透明になると、大気と一体化したような感覚になった。


 目を開けると宙に浮いていた。

 意識を前に向けるとヒューンと進んだ。

 

 あっという間にショートケーキに到着した。


「やった……!」

「よーし、合格」

「やったね」


 ランセは実技試験に合格した。





 試験を終えて校舎に向かって歩くふたり。


「ランセ、その……倒れてた時、助けてくれてありがとね」


 ピノがランセにお礼を言うと、


「ううん、こっちこそピノちゃんが話し掛けてるのちゃんと聞かなくてごめんなさい」


ランセも謝った。

 ピノは何の事だっけ? と思ったが口にはせず受け取った。


「そういえば故郷でやるパーティーにはどうやって行けばいいの?」


 ピノが聞くと、ランセがああだこうだ説明した。


「じゃあ夏休みのちょうど真ん中の日に、ここに集合ってことね?」

「うん」


 などとふたりは話していたが、ひととき話題がなくなった。

 しばらくそのまま歩いていた。

 すると前からビートがやって来た。


「ランセちゃんも、ピノちゃんも嫌い!」


 ビートがいきなり言った。


「え?」

「お?」


「どうしたのビート。ランセ何かビートに酷いことしたの?」

「え、わかんない、ピノちゃんこそ何かしたんじゃないの?」


 普通にふたりが喋っているのを見たビートは、


「あ、あれ、仲直りしたの?」


少し慌てて聞いた。


「うん、さっき仲直りできたんだ」

「仲直りというか、よく分からん流れというか」


 ふたりが答えを返すと、


「あ、そうなんだ。ごめん、じゃあさっきのは忘れて。ふたりのこと嫌いじゃないし」


珍しく冷や汗を浮かべて去っていくビート。


「何だったんだろう」

「不思議ちゃんだからビートは」


 なんとなく納得するふたりだった。









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