第1話 パルフェ魔法女学園
苺のケーキの上を少女が走っていた。
(今日こそ飛ぶ)
もうじき10才になる少女の決意は堅かった。どのぐらい堅いかって? まあそこそこ。
『パルフェ魔法女学園』の飛行魔法練習台は、苺のレアチーズケーキを模した形をしていて、高さは3mほど。
天面にはゼリーの中にカットした苺を敷き詰めた様なみずみずしいオブジェが乗っている。
500年前に絶大な権力を誇った女王が、この国の建物全てをスイーツに見立てた物にした。
その名残が今も残っていて、苺が名産のこの国では公の建物のほとんどが苺が乗ったケーキの形をしていた。
「とう!」
白苺の意匠の入った体操着を着て走る少女は、丸みを帯びた銀のフォーク形の魔法の杖にまたがると、飛行台からジャンプした。
ボスンッ!
直後、1mほどの厚みのあるマットの上に落下した。
「むぐ、むぐぐ」
次の生徒が飛んでくるので、落ち込むまもなく少女はマットから這い出そうと足掻いたがなかなか出られない。
見かねた先生が、つり竿魔法でマットに埋もれた少女を引き上げた。
「今日はよく釣れるなー」
先生は笑いながら言ったが、少女は泣きそうだった。
「うう、飛べない……」
地面に降ろしてもらった先で崩れていると、
「おーい、大丈夫かー」
友人のピノが掛けよって来た。
ピノは明るいグリーンのボブヘアで、黒縁メガネをかけている。
「私才能ない……」
「そうだね。なんて言っていいかわかんないけど、お疲れ、故郷へ帰んな」
冷たく突き放された。
「故郷の土、踏んだらダメって言われた……」
少女は涙目で友人を見た。
「はー、知ってるよ。もー練習するしかないじゃん!いちいち落ち込むなって!」
怒られた。
「うん、そうだった。やるしかないんだった。うおーやってやるー!!」
「そうそう、その意気その意気!」
少女の名は、ランセ・ヴァレリアンヌ。この学園の初等科の一年生。
寝癖のついたオレンジ色のセミロングの髪に、タヌキ顔の彼女の祖母は、世界最強の魔法使いだった。
遊ぶことに夢中なランセはどれだけ言っても一つの魔法も覚えないので、とうとう全寮制のこの学園に放り込まれてしまったのだ。
「卒業するまでは、故郷の土は踏ませないよ」
祖母の恐ろしい言葉を思い出す。
何とか故郷に帰りたい、それがランセの願いだった。
もうじき誕生日だし、故郷のみんなと誕生パーティーをしたかった。
飛行魔法なら土を踏まずに故郷に帰ることができる。9才なので言葉のあやが理解できず、独自の解釈で乗り切ろうとしていた。
◇
校舎からランセを眺める少女がいた。名は、レイ・フランベール、初等科の三年生で学園はじまって以来の天才と言われていた。肩にかからない程度のウェイブのかかった栗色の髪に、切れ長の目、長身、12才にしては大人びていた。
ランセを見つめるレイに友人のベルが話しかけてきた。
「なに、あんたもやっぱりあの子が気になんの? ミリ・ヴァレリアンヌ様のお孫さんだもんね」
「別に、そんなんじゃないよ」
水を刺されたためか、そそくさとその場を後にするレイ。
「ちょっとー、まってよー」
レイを追いかけて覆い被さる様に肩を組むベル。レイは迷惑そうな表情を浮かべているが払いのけはせずそのまま歩いた。二人は幼なじみだった。
お読みくださりありがとうございます!
4話でひと段落するので、そこまで進んで頂けると雰囲気が掴めると思います。よければ目安にしてみてください。




