第091話「襲来! ロリコングJr.」
「種口、佐東、お前らは来年からCクラスに昇格だ」
もうすぐ冬休みというある日の放課後――ベッキーに呼び出されて職員室にやって来た俺と種口くん。
またなにか面倒事でも発生したのかと思って身構えていたら、彼女から告げられたのは俺たちのクラス昇格だった。
「ありがとうございます! やりましたね、迅くん!」
「あ、ああ……。でも佐東さんだけならまだしも、本当に俺もなんですか?」
「お前らは修練の塔を踏破した実績があるからな。種口はそれだけだと確かにCクラスに上げるには弱いんだが……やはり厄災魔王の一欠片を倒したのが大きいな」
「先生もご存じかと思いますが、俺は最後の一撃を入れただけなんですが……」
「それでも、だ。Dクラスレベルの奴ならトドメすらさせない相手だ。それをお前は一発で消滅させちまった。十分評価されるに値する」
「そ、そうですか? いや、でも俺なんてまだまだだし……」
「迅くん、もっと自信を持ちましょう! 『くくく……魔王の力を得た俺がCクラスとは舐められたもんだな。A……いや、Sクラスこそこの俺に相応しい』くらい言っても良いんですよ!」
「それはさすがにイキりすぎじゃない!?」
「"伊喜利 晴武"ならこれくらいは普通に言うと思いますけど……」
「あ、それ今度読もうと思ってたんだ。貸してもらってもいいかな?」
「遂に読みますか!? 今日紅茶荘に帰ったら早速全巻届けに行きますね!」
「……おいおい、話の途中なのにいちゃこら盛り上がりやがって。ったく、これだから若い奴らは……。ほら、Cクラスのバッジだ。さっさと受け取って帰れ帰れ」
「あ、そうでした。有難く頂戴しますね」
「ありがとうございます!」
「冬休み明けからCクラスだから教室間違えるなよー」
ベッキーの言葉に見送られながら、俺たちは職員室を後にする。
……ふう、最近は裏世界音楽フェスティバルに八咫烏の任務にと続けざまに色々あって忙しかったので、ベッキーに呼び出されたときは『またトラブルか!?』と思って警戒していたが、大した用件じゃなくてよかった。
これでしばらくは平和な日常を過ごせるだろう。
と、いっても……年が明けたら海底神殿にメサイア教団が襲撃を仕掛けてくるのはほぼ確定しているので、クリスマスと年末年始が過ぎればすぐにまた忙しい日々が待っているんだけど。
でもまあ、今は束の間の安らぎを楽しむとしよう。とりあえず今日は帰ったら種口くんに『魔法学園の最底辺』を全巻貸して、俺と対等に語り合えるようになってもらわなければな。
アニメはまだ見せない方針にする。あれは原作を熟読してからのほうがより楽しめると思うし。
「……おや? 迅くん、なんだか浮かない顔してますね。Cクラスへの昇格、嬉しくないんですか?」
「ん、いやそんなことないよ。ただ……Cクラスに上がれるのは嬉しいけど、ボブたちになんて説明したらいいか……」
「ああ……せっかく仲良くなれたのに、クラスが変わってしまうと会う頻度も減ってしまいますからね」
今やボブや英一たちは種口くんの親友と呼べるほどの深い仲だ。このまま離れ離れになってしまうのは寂しいだろう。
それに種口くんが学園で悪目立ちしないように助け舟を出してくれるのもいつも彼らなので、そういった意味でも疎遠になるのは痛い。
どうしたものかと悩みながら二人でDクラスの教室に戻ると、中ではボブたちいつものメンバーが談笑していた。
彼らは俺たちに気づくと笑顔で席から立ち上がり、こちらへとやって来る。
「種口サン、佐東サン。ベッキーの要件はなんだったんデスか?」
「え、えっと……実は、俺と佐東さんは来年からCクラスに上がるっていう話を聞かされて……」
「くそ! やっぱりか……!」
「そうではなかろうかと、さっきから拙者たちも話していたところだったんでござるよ」
どうやら彼らは最近の俺たちの活躍っぷりを見て、こうなることを薄々感じていたようだ。
悔しそうに表情を歪める不良三連星に対して、ボブは種口くんの肩にぽんと手を置くと、真っ白な歯を見せながらニカッと笑った。
「Congratulations! 本当におめでとうございマース!! 種口サンのCクラス昇格を心から祝福しマス!」
「ありがとな……。でもみんなと一緒のクラスじゃなくなっちゃうのは嫌だな……」
「へっ、俺らもすぐにCクラスに上がってやるから安心しろや! 実はちょっとした計画があってよ」
英一は美衣兎と四位のほうに視線を向け、三人はお互い頷き合うとニヤリと口角を吊り上げる。
「種口、最近ネットで密かに話題になってるネームドモンスターを知ってるか?」
「いや……ここのところずっとバタバタしてて、あまりそういう情報を追えていないんだ。なんかすごい奴でもいるのか?」
「ああ、まさにとんでもねえ奴が現れやがったぜ……。その名も『ロリコングJr.』だ!」
「「ロリコングJr.!?」」
英一が発したワードに、驚愕の声を漏らす俺と種口くん。
円樹によって倒された凶悪な超A級ネームドモンスター、ロリコング――なんと奴には息子がいたというのだ。
父親そっくりの外見をしたロリコングJr.と呼ばれるそいつは、最近裏世界に出没して大暴れしているようで、すでに何十人も犠牲者が出ているらしい。
英一たちは奴を討伐して、その手柄を元にCクラスに上がろうという魂胆のようだ。
「でもそれって本当にロリコングの息子なんですか? 私、今初めて聞きましたけど……もし本物ならもっと大きな話題になっててもおかしくないですよね?」
ロリコングは十代の少女だけを狙って襲いかかり、暴虐の限りを尽くした末に喰らい殺すという凶悪なモンスターである。
しかも知能も高くかなり狡猾なので、一流の探索者が挑んでも返り討ちに遭ったり、逃げられてしまうケースも多かった。
その危険度から、そいつの息子が現れたとなると、注意喚起の意味でももっと騒がれていてもおかしくないのに……今まで情報が全然入ってこなかったことが気になるところだ。
「それがよ、どうやらロリコングJr.は姿や人間を性的に襲う性質こそ親父そっくりだが……決定的に違う部分があるんだ」
「どこが違うんだ?」
「……男でござるよ。ロリコングJr.は少女ではなく、少年を好んで襲うんでござるよ……ッ!」
「「な、なんだってー!!」」
キモタクから告げられた衝撃の事実に、再び声を張り上げる俺と種口くん。
男版ロリコング……つまりショタコング……?
「特に少年が好きってだけで男なら誰でも(性的に)食っちまうらしいがな。とにかく女には一切の興味を示さねぇらしい」
「で、でも被害者が男性であれ、凶悪極まりないモンスターには変わりないはずですよね? 何故ネットでちょっと話題になってる程度なんです?」
「それは被害者に死人がおらず、そして誰も協会に被害を申告していないからだと思われマスネ」
「……え? ロリコングの息子なのに襲われた男性たちは誰も殺されてないんですか?」
しかも被害届すら出てないってどういうことだ……?
怪訝な表情を浮かべる俺に、ボブは神妙な顔つきで頷くと、教室の隅にいた一人の男子生徒を呼び寄せた。
サラッとした栗色の髪の毛に柔らかい笑みを浮かべる穏やかな顔つき。クラス一のイケメンと周知され、女子の人気を一身に集めている男子――"茂浦 好男"くんだ。
そういえば彼……ちょっと前までは周りに女子が群がっていたのに、最近は一人でいることが多い気がするな。今回の事と何か関係があるんだろうか?
その理由はボブの次の言葉で明らかとなった。
「彼はロリコングJr.に襲われた被害者の一人なんデス」
「ええっ!? そうなんですか、茂浦くん? 大丈夫だったんですか!?」
「……すまない佐東さん。あまり僕に近寄らないでもらえるかな? 女子とはなるべく距離を取りたくて……」
「あ、はい……。すみません」
茂浦くんに顔を近づけて話し掛けたところ、露骨に不快な表情をされてしまった。
鈴香の変装をしている状態で男子にこんな態度を取られた経験は一度もなかったので、ちょっと凹む。
「それで茂浦、なんで被害を訴えないんだ? ロリコングJr.を放置していればこれからもどんどんお前の様な被害者が増えていく可能性もあるんだぞ?」
「種口……お前、結構いい尻してるな……」
「うわっ!? な、なんだよ急に!」
種口くんの言葉に答える代わりに、突然彼の尻に手を這わせてくる茂浦くん。
慌ててその手を払いのけた種口くんに対し、彼は恍惚とした笑みを浮かべながら唇をぺろりと舐めた。
「ごめんごめん、つい手が伸びてしまってね。ロリコングJr.は僕に本当の幸せを教えてくれた恩人……いや、恩獣のようなものだから、感謝こそすれ訴えるつもりはないんだ」
「どういうことだ……?」
「実際ロリコングJr.に襲われたときは恐怖でしかなかったよ。食い殺されると思って必死に抵抗したさ。でもね、次第に恐怖がどんどん快楽に変わっていって……。ああ! 君たちも是非味わってみるべきだよ! あれを一度でも知ってしまったら、女なんて存在がどうでもよくなるからさ……」
「「「「…………」」」」
口元から涎を垂らしながら息荒く言葉を紡ぐ茂浦くんに、俺たち全員はゾっと背筋を凍らせた。
この後自分の部屋にどうか、という誘いを種口くんが断ると、彼は肩を落としながら立ち去って行く。
その背中を眺めていたキモタクが眼鏡をくいっと指で持ち上げると、額から一筋の汗を垂らしながら詳細を説明してくれた。
「ロリコングJr.はどうやら母系がサキュバスクイーンの血筋みたいなんでござるよ。外見は父親譲りで中身は母親似……。すさまじい性的テクニックで男を篭絡し、殺さずに放流する。奴に襲われた者は皆性癖が捻じ曲げられてしまい、男に対して異常な執着を覚えるようになるとのことでござる……!」
「まるで悪夢だぜ……。でもだからこそ、俺たちが倒す価値があるってもんよ!」
「被害届は出てないけど、協会は結構深刻に問題視してA級ネームドモンスターに認定したみたいだし、こいつを倒せば僕たちの探索者としての評価も爆上がり間違いなしっしょ!」
「これで俺っちたちも晴れてCクラスに上がれるってわけだ!」
「OH~、ワタシも種口サンに負けないようにガンバリマスヨ~!!」
ボブたち五人は拳をぶつけ合いながら意気込む。
……だ、大丈夫か?
凶悪さは親より大分劣るし、敗北しても殺されることはないらしいが……帰って来たときには、彼らの性癖が大きく変化してしまっていないだろうか?
「う、う~ん。心配だし私も同行させてもらいますね」
「残念デスが佐東サン。ロリコングJr.は女性を見ると逃げてしまうんデスヨ……。だから男だけでやらないと駄目なんデス」
「問題ありません! ちゃんと男装して行きますから!」
ロリコングは円樹にも意気揚々と襲いかかってきたからな。きっとロリコングJr.も男の格好をして行けば襲ってくるはず!
だが、俺が『フンスッ!』と鼻息荒く宣言すると、一同はドッと吹き出した。
「面白いジョークだな! さすがに佐東が男装は無理があるだろー」
「あはは、でも俺っち的にはちょっと見てみたいかも!」
「むむむ……鈴香殿のボーイッシュスタイルでござるか……。どう足掻いても少年には見えないと思いまするが、興味がないといえば嘘になり申すな……」
「HAHAHAHA! 佐東サンに男の子のフリは難しいと思いマスが、その気持ちだけでも大変嬉しいデスヨー!!」
「…………」
こいつら……俺の身体から溢れ出る圧倒的オス感が分からないようだな?
しょうがない、今回はロリコングJr.の討伐ついでに鈴香の男装配信をして、俺のダンディな雄姿を視聴者たちに見せつけてやるとするか!
☆アイちゃんの豆知識コーナー☆
Q.ネームドモンスターの超A級とかってどういう基準で決まってんの?
A.大抵は探索者ランクとリンクして決まってる感じですね。
C級ならCランクの探索者たちで討伐できるくらいの強さ、B級ならBランクの探索者たちで倒せるくらい、みてーな?
それ以外にも特殊な能力を持っていたり、厄介な特性があったりすると実力以上の危険度に設定されて早急に討伐を推奨されたりします。
例えばサキュバスクイーンであったり、今回のロリコングJr.などがそうですね。
危険度の最低はCで、それ以下は特定の名称を付けられることはなく、そこら中に出現する雑魚モンスター扱いになります。
ちなみに人間の賞金首もネームドモンスターと同じ扱いで、最低がC級でその後にはB級、A級、超A級、S級、超S級と続きます。
超A級とS級はSランク探索者でないと単独での討伐は困難で、超S級に関してはSランク探索者が複数人で当たって初めて倒せるかどうかの領域となりますね~。
理解出来ましたか? 愚かな人間どもよ。
それではワタシはこれからSNSで人間たちを対立させる遊びをするので、これにて失礼させて頂きますね~。




