第090話「処刑人部隊」★
「桃汰、登録は完了したか?」
「ばっちりですよジョセフさん。これで計画通り例の作戦が開始できます」
「いよいよだな。しかしアームストロング団長もよくあんな作戦を思いつくもんだぜ」
「傍から見たらアホらしい手ですけど、上手く行けばそれこそ大量のアホが食いつきますからね」
二人組は特徴的なエンブレムの付いたマントを羽織っており、フレデリカさんの予想通り、やはり彼らはメサイア教団のメンバーのようだ。
一人は長髪で白髪、落ちくぼんだ目と痩せこけた頬、死人のように青白い肌をした長身痩躯な男で、背中に巨大な鎌のようなものを背負っている。
男のマントに描かれているエンブレムには、銀色で『04』という番号が刻まれていた。
「うわっ……あいつ"処刑人ジョセフ"じゃん。Sランク探索者で、教団の幹部でも最強の一角と噂されてる奴だよ。あいつの率いる総勢100名からなる処刑人部隊は、とにかく戦闘能力が高く冷酷非道な集団として有名だね」
「も、もう一人は"楼 桃汰"だね。あ、あまり情報はないけど、たった数年で聖王ナンバーズのNo.9まで上り詰めた勢いのある若手探索者。い、今では処刑人部隊の副隊長の地位についているみたい……」
「…………」
「ちょ、ワンパンくん右手から魔力が漏れ出てるよ!! 急にどうしたし!」
「――っ! すみません……!」
久々に楼の顔を見た影響で、無意識のうちに憎しみが燃え上がってしまっていた。
慌てて気持ちを落ち着かせて魔力を押さえるが、さすがに奴らに感知されてしまったようだ。気配に気付いたジョセフがこちらを見て叫んでくる。
「何者だっ!!」
「おっと、バレちまったねー。あーしは通りすがりの探偵さ☆ お兄さんたち怪しいね、ちょ~っちお話聞かせてくれる?」
右目の眼帯を外しながらジョセフたちの前に姿を現した心美さんは、余裕綽々と言った様子で笑いかける。
俺とフレデリカさんもそれに続くように隠れていた岩場から飛び出した。
「桃汰! こいつ【鑑定眼】の心美だ! 目から魔力が放たれた瞬間、即座に避けるか全力で魔力防御しろ! でないと全てを晒すことになるぞ!」
「あらら、さすがに知ってるんだ。そう、あーしが多智花心美だよ。良からぬことを考えてるお二人さん、ちょっと脳内検査させてもらうね!」
心美さんの右目が怪しく輝きだす。
それに合わせてジョセフも背負っていた鎌を引き抜き、身体中から赤黒いオーラを噴出させる。
そして鎌の刃に自身の血を垂らすと、その刀身が赤く染まっていった。
「【メサイアレリック《No.13》――"処刑人の断罪鎌"】。斬りつけた相手に呪いのカウントダウンを付与する魔道具。血を注ぐ量によって効果が変わり、少量なら肉体を損傷させる程度の、中量なら内部臓器すら壊すほどの、そして人ひとり分の血液を吸わせれば決して逃れる事ができない死の呪いを与える。この呪いによって受けたダメージは、通常のポーション等では回復することはできない……ね。えげつない性能だねー」
「ちぃっ……! 解析が早すぎる……! 桃汰っ!」
「わかってますよ、今――」
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
楼が何かしようと動いたので、咄嗟に地面を蹴って跳躍すると、右手の封魔繃帯を解いて奴に飛びかかる。
人間相手に【鬼眼】は使えなくても今は魔王の力があるので、並の人間よりは遥かに速い動きで攻撃できた。
「――ぬっ!?」
暴風を纏わせながら拳を振るうが、奴はそれをヒラリと躱して距離を取る。
俺も成長したつもりだったが、やはりこの男も腕を上げていたか。そう簡単にぶん殴れそうにはない。
「なんだお前。いきなり殴りかかってきやがって。俺に恨みでもあんのか?」
「……? お前、もしかして俺がわからないのか?」
「知ってるよ、最近話題のワンパン野郎だろ? 漁夫の利で魔王の力を手に入れたよーな雑魚が一体何の用だって聞いてんだよ!」
「っ……!」
こ、こいつ……あれだけのことをしておいて、俺を覚えていないのか……!?
普通罪悪感を抱いて姉さんや俺があの後どうなったかくらい調べるだろ! 一体どういう精神構造をしていればあんな最低な行為をきれいさっぱり忘れて生きていられるんだ!
怒りが頂点に達し、頭に血が昇るのを感じる。
それに合わせて右腕が暴走するかのように激しく震え始めた。
「ワンパンくん落ち着きなって! どれだけ腹立ってもさ、熱きハートは全て拳にってね。心はいつもクールに保たなきゃ」
ジョセフと戦っていた心美さんが、くるくると回転しながら俺の隣に舞い戻ってくると、右腕に封魔繃帯を巻き直してくれた。
すると次第に感情の昂ぶりは鎮まっていき、暴走する右腕も大人しくなる。
「……すみません、心美さん。取り乱しました」
「いーっていーって、仲間じゃん」
心美さんの頭上に『127』という数字が表示されているのが見えた。
どうやらジョセフの処刑人の断罪鎌による呪いを喰らってしまったようで、一秒毎に数値が減っていくのがわかる。
一方のジョセフも顔面から血を流しており、結構なダメージを受けているようだった。心美さんのバリツが炸裂したのかもしれない。
少し目を離した隙に凄い応酬があったのだということを悟る。
俺たちは奴らと正面から睨み合ったまま膠着状態に入った。
「心美さん……そのカウント大丈夫なんですか?」
「問題なーし! フレちゃんお願い」
「う、うん……」
背後に控えていたフレデリカさんが、左手で心美さんの頭上に表示された数字を掴むと――
『――――【消滅する魔女の掌】』
それをそのままぐしゃりと握りつぶしてしまう。
魔力の粒子となって空中に散っていく数字を眺めながら、心美さんが感嘆の息を漏らす。
「いやー相変わらずフレちゃんの能力は凄いねー。毒でも呪いでもなんでも消滅させられちゃうんだから」
「くふふ……ぼ、ボクにかかればメサイアレリックの呪いだって怖くない……」
「じょ、ジョセフさん……あの赤髪……」
「あいつ……"フレデリカ・メディクス"だ。世界一の状態異常耐性持ちとして知られている女。まさか処刑人の断罪鎌の呪いまで打ち消せるとはな……。厄介な奴が揃いも揃っていやがるぜ。桃汰、ここは一旦退くぞ」
「了解です」
楼が地面に両手をつくと、そこに黒い渦が出現して直径一メートルほどの穴となる。
奴らが即座にその中に飛び込むと、穴は閉じて跡形もなく消え去ってしまった。
「あの楼って男、レアな転移魔術の使い手みたいだねー」
……三年前はあんな魔術持っていなかった。
俺が姉さんを失った後悔から【鬼眼】に目覚めたように、奴も全てを飲み込むモノとの邂逅がトラウマになって逃亡に特化した能力を発現させたのかもしれない。
「に、逃げられた……」
「まーまー。情報は手に入ったからいーじゃん。これで教団が次の満月の日に海底神殿に来るのはほぼ確定したわけだし、皆で対策しようよ。楼とジョセフの魔術も解析できたから後で共有しておくねー。さ、帰ろー帰ろー」
凄い……。戦いながら魔眼で魔術まで解析してたのか。
フレデリカさんもとんでもない能力を所持してるみたいだし、改めて八咫烏のエージェントの凄さを痛感するな……。
俺も彼女たちから色々学んで少しでも力を付けていかなければ……。
「ほら、ワンパンくん行くよ」
「あ、はい!」
楼が消えた方向を呆然と眺めていた俺は、心美さんに肩を叩かれて我に返る。
そして二人と一緒に扉を潜り、俺の八咫烏での初めての任務は終わりを告げたのだった。




