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第074話「幻体演奏法」

「そこのオヤジよ、たこ焼きを一つくれぬか」


「あいよ! 嬢ちゃんえらい別嬪さんだし、特別にでっけータコ入れてやるよ!」


「うむ! ありがたいのう!」


 MOONの恰好でリストバンドを掲げて、飲み物や食べ物などをタダで買い漁りながら会場内を練り歩く。


 U・B・Aの出番は真ん中あたりだし、MOONは大トリなのでまだまだ時間がたっぷりあるのだ。


「はふはふ……ほふ~! やはり裏世界で食べる料理は最高じゃのぉ~♪」


 口の中に広がる香ばしい風味に舌鼓(したつづみ)を打つ。


 裏世界に長時間おかれた食材には魔素が染み込みやすく、インネイトの俺としては格別な美味しさを感じることができるのだ。


 特大たこ焼きを口一杯に頬張りながら歩いていると、視線の先に魔道具の出店を見つけたので近づいてみる。


「オヤジ、これもリストバンドで買えるのかの?」


「いや、悪いがダメだな。ウチの商品は高額すぎるからリストバンドの対象商品じゃないんだ」


「そうであったか……。ときにこれは一体幾らじゃ?」


 俺が指差したのは、包帯のようなアイテム。


 黒を基調とし、所々に赤い紋様が刻まれていて、これを巻きつければそれだけで殆どの男の子はイチコロになってしまうであろうほど魅力的な逸品である。


「ふっふっふ……嬢ちゃんお目が高い! これは"封魔繃帯"っていってな、装着者の巻き付けた部分の魔力を完全に遮断する効果を持った魔道具なんだぜ。これさえあれば暴走する右手に怯える日々とはさよならよ!」


「な、なんじゃと!?」


 暴走する右手を抑えることができるだと!?


 なんてカッコいい魔道具なんだ! 使う機会があるかどうかはさておき、ぜひとも欲しい!


「今だけ本来は200万のところを、フェス特別バーゲン価格の100万円で売ってやるぜ!」


「いただくのじゃ!!」


「毎度ありぃ~!」


 俺はすぐさま懐の次元収納袋から100万円の束を取り出して支払いを済ませると、早速右手に"封魔繃帯"を巻きつけてみる。


 すると黒い布地が自動的に動き始め、シュルシュルといい感じで右腕に絡みついていった。


「んほ~! なんとカッコいいのじゃ! これは買いで間違いなかろうて!」


 試しに右手に魔力を流してみると、確かに何も感じられない。


 完璧に阻害されているようだな。素晴らしい性能だ。


 しかも魔力を流した瞬間、赤い紋様が妖しく光るギミック付き。


 っべ~ぞこれ! 100万円とかとんでもない安値で凄まじい掘り出し物を見つけてしまったぜ!


 ……ただMOONや円樹ら女性キャラがこれをつけるのはセンス的にあまりよくないな。これはスズキ用にするとしよう。今からこれを巻きつけてスズキが登場したときの視聴者の反応が楽しみだ。



 良い買い物をした満足感に浸りながらも更に会場内を巡っていると、ふと前方に見覚えのある二人組の姿を見つけた。


 MOONは彼らと初対面なので、俺は再び魔力探知で人のいない死角に入りカメレオンリングを使って透明になると、近くのトイレで円樹の姿に変身してから二人にそっと近づいていく。


「久しぶりね、種口」


「あっ! え、円樹さん! お久しぶりです!」


 驚愕の表情とともにこちらを振り返る種口くん。


 隣にはニナの姿もあり、どうやら俺の渡したチケットで一緒に来たようだ。


 ……まあ、彼の周りには男ばかりしかいないので、鈴香に断られた場合必然的にニナ以外に誘える女子はいないだろうから当然ではあるが。


「わ~……仁和円樹だぁ~。かわいい~、顔ちっちゃ~」


 ニナは興味津々といった様子で俺を上から下まで眺めてきた後、握手とサインを求めてきた。


 俺は快く承諾し、色紙にサインを書く。


「ありがとうございます! えへへ~、あとで鈴香に自慢しよっ~と」


 せんでいいわ。


 そいつも俺だし。


「種口、あたしの腕輪(・・・・・・)、使い心地はどうかしら?」


「正直めちゃくちゃ助かってます。これのおかげで何度危機を乗り越えられたことか……」


「そう。それは良かったわ。あんたはきっと伸びるから、これからも精進しなさいよ」


「は、はい! 頑張ります!」


「……む~。迅、ちょっと円樹さんにデレデレしすぎじゃない?」


「し、してないって! この人は俺の命の恩人で尊敬してるんだから、かしこまっちゃうのは仕方ないだろ!」


「ふふ、彼女さんを嫉妬させちゃったかしら? 青春よね~」


「ち、違いますよ! この子はただの友達です!」


「……そうなんだけど『ただの』を強調したりとかしてちょっと必死に否定しすぎじゃない? もしかして円樹さんに彼女がいるって思われたくなかったりする?」


「いっ、いやいやいや! 別にそういう訳じゃなく!」


 ニナに冷やかされて慌てる種口くんを見てクスクスと笑う。  


 彼もあの恐竜ワンパン事件からずっとトラブル続きだったが、ようやく落ち着いた生活を送れているようで一安心だ。


 これなら俺がサポートすることはもう必要ないかもしれないな。


 ……といっても、彼には厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)を倒すという大目標があるので、これからも苦難の道が続くだろうが。



「あ~! あそこにいるのU・B・Aの仁和円樹ちゃんじゃね?」


「わ~かわいい~! 握手してください!」


「写真撮ってもいいですか!?」


「円樹様! サインください!」



 種口くんたちと話していたら、いつの間にか周囲に大勢のギャラリーができてしまっていた。


「はいはい、もちろんOKよ」


 俺は右のツインテールをにゅっと伸ばして、髪の毛の先端でサインペンを持ち、何人もの色紙やTシャツにサインを書いていく。


 同時に左のツインテールを手の形に変形させて握手を行い、並行してカメラを持つ人たちに向けて次々とポーズをとってあげた。


「す、すげぇ……。全てのファンサを同時進行してるぞ……」


「円樹様さすがですわ……!」


「魔力操作の技術が凄すぎる……」


「これが次期Sランク候補筆頭の"四つ手の円樹"か……」


 周りで驚嘆の声を漏らす人々を尻目に次々とファンサービスに応える。


 だが、いつまでもここに留まっていては延々と人が押し寄せて来るので、ある程度捌いたところで種口くんとニナに向き直る。


「じゃああたしはもう行くわね。種口もニナさんも楽しんでってちょうだい」


「はい、チケットありがとうございました!」


「円樹さんもライブ頑張ってください!」



 二人に手を振って別れると、俺は休憩のために再びバックステージの方へと戻る。 


「……まだ少し時間はあるし、せっかくだから他の出演者のライブでも見ておこうかしら」


 舞台袖からちょこんと顔を覗かせて会場内を眺めると、ちょうど次の出演者がステージへと現れたところだった。



『続いてのアーティストはこの方! 世界的に活躍するシンガーソングライターの"ノエル・フィオーリ"さんです! 彼女の"ソロ"にして"トゥッティ"なステージパフォーマンスをどうぞご覧あれ!』



 マイクを通した司会の声が響き渡ると同時に、会場内が大きな歓声に包まれる。 


 ステージに上がったのは、水色の髪と赤い瞳を持つ二十代前半と思しき女性だ。


 彼女はたった一人だけのはずなのに、舞台上にはピアノやギターなどの様々な楽器が配置されている。


『行きます――――【幻体演奏法(ソロオーケストラ)】』


 ノエルと呼ばれた女性は、宣言と共に大きく息を吸い込むと、次々と魔力でできた自身の分身体を作り出し始めた。


 しかも分身はまったく同じというわけではなく、小学生、中学生、高校生といった様々な年代の姿で出現しており、それぞれ異なる楽器を持ってステージの各所に散らばっていく。


 本体はマイクスタンドの前に立つと歌唱を開始し、伴奏は分身たちがが担当するというスタイルのようだ。


 透き通るような美しい歌声に、リズミカルな演奏が合わさって聴衆たちを魅了していく。


「へぇ~……これがノエル・フィオーリの魔術――【幻体演奏法(ソロオーケストラ)】か。……見事なものね」


 ミラースライムによって作られたドッペルゲンガーとは違い、分身を自分で遠隔操作するタイプの能力だな。これは相当の魔力操作技術が要求されるだろう。


 現在ステージ上には五人のノエルがいるが、全員の魔力が均等だ。


 彼女は最初の一人だったときと比べると大体五分の一ほどの魔力量になっており、おそらく魔力を分割することで分身体を作り出しているのだと思われる。


 つまり分身を増やすほどに本体の魔力も比例して減っていくというデメリットがあるようだな。


 戦闘面ではなかなか辛い能力だが、こうして演奏に使う分には文句なしの絶技と言えるだろう。



『ノエルさんありがとうございましたー! 続きましては――』



 数曲を歌い終えたノエルが拍手喝采を受けながらステージを退場していくと、またすぐに別のアーティストが登壇する。


 その後もいろいろな歌手たちが次々と歌を披露していき、ついにU・B・Aの出番が迫ってきたので、俺は控室に戻ることにした。


「円樹遅いよ! もうみんなスタンバイしてるよ」


「ごめんごめん。ちょっとファンサとかしてたら遅くなっちゃったわ」


 扉を開けて中に入るなり、忍に軽く怒られてしまった。


 急いで本番用の衣装に着替えてメイクチェックをすると、最後に鏡の前で髪型を整える。


 ……うん、バッチリだ。


「よし! みんな行くわよ! あたしに付いてきなさい!!」


「なんで遅れてきたあんたが仕切ってんのよ……」


 花音が呆れたように呟いたが、そんな突っ込みを気にせずに先頭に立って意気揚々とステージに向かう。


 俺たちU・B・Aの48名が並んで登壇した途端、今日一番の割れんばかりの大歓声が会場内に響き渡る。



『さあいよいよですよ! 皆さんお待ちかねのU・B・Aの皆さんの登場です!』



「こんにちはーーー!! U・B・Aの黒鵜忍です!! 今日はみんな盛り上がって行こうねぇー!!」


「仁和円樹よ! あたしの美声に酔いしれるといいわ!」


「どうも~妹尾アスタデス。みなさん楽しんでいってくださいネ」


「姉石花音だよー! みんなよろしくねー!」  


「あらあら~凄い数ね~。マイア・ブランシェットで~す。本日も精一杯歌わせていただきますのでよろしくお願いしますね~」


 五傑の面々がそれぞれ挨拶を済ませると、会場は更なる熱狂に包まれていく。


 そんな中、俺たちの後ろに控えていた43名のメンバーから突如一人の少女が進み出てきてマイクを握った。


「すぅ……すぅ……みんな元気ーーッ!? テンション上がってるぅーー!? 僕は僕は! 新入りのアカリでーす! U・B・Aに入ってはじめてのステージで緊張してますけど頑張りますので応援よろしくおねがいしまーす!! どうかみんな僕に……力をわけてくれェェエー!!」


「新入りが出しゃばるんじゃないわよ!」


「――ぶげぇっ!?」


 勝手に前に出て大声を張り上げたアカリの脇腹にツインテールをめり込ませてやると、奴は間抜けな声をあげながらぐるんぐるんと空中で回転した後にステージに頭から突き刺さった。


 その様子を見た客席からは大爆笑が起こり、ステージ上のメンバーたちも肩を震わせる。


 アスタと花音がずっぷしと地面に突き刺さったアカリを引っ張り出して助けてやると、忍がマイクを握って叫んだ。


「それじゃあ、まずは一曲目! 私たちU・B・Aの代表曲でもある――"Brave Heart Angel"をお届けします!!」









「お疲れ様~! みんな凄く良かったよ!」


「忍もお疲れ、やっぱあんたがセンターだと締まるわね」


「円樹は相変わらずアドリブが多くて合わせるのが大変なのデス」


「それについていけるアスタもアスタよ……。あんたたちやっぱ化け物だわ」


「ふふふ……みんなお疲れ様~。若い子たちは元気でいいわね~。お姉さんはちょっと疲れたからお先にシャワー浴びてくるわねぇ~」


「僕は僕は!? 僕はどうでしたか!? 初めてのステージでしたが最高じゃなかったですか!? これはもうランキング1位いっちゃいましたかね!? いっちゃいましたよね!?」


 無事にU・B・Aのステージを終えてバックステージに戻ってきた俺たちは、互いの健闘を称え合っていた。 


 やっぱりこいつらはレベルが高くて一緒にステージをやってて楽しいな。


 特に忍とアスタは群を抜いてすごい。俺が適当なタイミングでアドリブを入れてもバシッと食らいついてくるし、最高にテンションが上がるぜ。


 アカリもまあ……発言はうざいけどパフォーマンスは五傑に引けを取らないし、客受けもいいから十分合格点だな。 


 そんなこんなでステージ終わりの興奮覚めやらぬままにしばし談笑を交わしていたのだが……突然にこやかに微笑んでいた忍の身体がビクンッと激しく跳ねた。


「っ……! ごめんみんな! 私と円樹は少し席を外すね!」


「忍? 一体何事――」


 彼女はまるで別人のように険しい表情となると、俺の腕を掴んで控室を飛び出す。


 そしてそのまま人気のない通路まで俺を連れてくると、忍は立ち止まり、周囲に人がいないことを確認しながら焦燥を滲ませた声で叫んだ。



「円樹! この後会場に――――厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)が現れる!!」

 ストックがなくなってきたので次回から隔日更新とさせていただきます。

 もう最後まで構想は全て出来上がっていまして、大体これで半分を過ぎたあたりです。

 伏線回収してしっかり完結させるつもりなので、少しペースは落ちますが最後まで付き合っていただけると幸いです。

 ……皆さんの応援が作者の原動力になります。面白いなと思ったらコメントとかいいねとか色々くださいね!

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