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第068話「U・B・A」

「昨日のスクランブル交差点の戦いを見たでござろう!? やはり拙者の言った通り歌姫MOON氏は吸血鬼だったでござるよ!」


 翌日学園に登校すると、キモタクが種口くんらいつものメンバーの前で大声を張り上げていた。


 彼以外にも教室中で昨日の事件の話題ばかりが飛び交っており、クラスの皆が興奮した様子でスマホの画面を見せ合っている。


「皆さんおはようございます。やっぱり昨日のお話ですか?」


「あ、おはよう佐東さん。うん、昨日のスクランブル交差点の話題で持ちきりだよ」


 席に着いて種口くんに挨拶すると、彼も少し興奮しながら返事をしてくる。


「これマジで本物なのか? 絶対AIだと思ったんだがなぁ……」


「今回は目撃者も沢山いるし、ウニテレビが間近で撮ってた映像もあるからね」


「それに背中に羽が生えてて飛んでたぜ。あんなの人間じゃありえないって」


 不良三連星もスマホを覗き込みながら、そんな会話をしている。


 どうやら英一はMOONのMVがAIだと疑ってたらしいが、今回の件でようやくその認識が改まったらしい。セレネの作戦は見事に成功したってわけだ。


「まだ売れ残っていた裏世界音楽フェスティバルのスイート席のチケットも一瞬で完売になったらしいデスよ。ネットのオークションでは一般席のチケットもとんでもない価格になっているトカ……」


「拙者も推しである忍殿の生ライブが観たかったでござるが……競争が熾烈過ぎて無理だったでござるよ」


 まあ、元々今回のフェスはU・B・Aアンダーワールド・バトル・エンジェルスらの出演によって大注目を集めていたイベントだ。


 そこに突然本物の吸血鬼疑惑のある歌姫MOONが参戦となれば、盛り上がらないはずがない。


 現在も教室中の生徒たちが生で見たかったと嘆いているが、残念ながらチケットを入手できた者はいなそうだ。


「え、え~と……。俺、実はこのフェスのチケット持ってるんだよね……」


「「「えっ!?」」」


 種口くんがぽつりと発した一言に教室内にいた全員が反応し、一斉に彼へと視線が集まる。


 ……これは意外だな。このフェスのチケットは相当な倍率だったと思うが。コネでもない限り、余程の運がないと手に入れることはできないはずなんだけど。


「どどど、どういうことでござるか種口氏!? 一体いつ抽選を申し込んだのでござるか!?」


「いや、抽選は申し込んでないぞ」


「ならどこからゲットしたんデスカ? 種口サン」


「前にワカラセマンと戦ったことがあっただろう? 実はあのとき円樹さんが『頑張ったご褒美よ』って俺にフェスのチケットをくれたんだよ」


 ……あっ! そうだった!! 俺があげたんじゃん!


 ま、マズい!! このフェスU・B・Aも出演するんだった! 吸血姫MOONの活動に夢中ですっかり忘れてた!!


 この前アメリカツアーもサボったばかりだし、今回も参加しないのはNo.2として問題があるぞ!


 キモタクが広げているパンフレットを横目に見ると、U・B・Aは真ん中くらいでMOONは大トリか。これならダブルブッキングでも何とかなりそうだな。


 かなりタイトなスケジュールにはなりそうだが……。


「そのチケット……ペアチケットではござらんか!? せ、拙者も連れて行ってほしいでござる! お願いでござるよ!!」


「いや……これ男女限定ペアチケットだから」


「なら拙者は今日から女子(おなご)でござる! キモタク改めキモ子と呼んでくだされダーリン!」


「や、やめろ! くっつくな暑苦しい! そ、そうだ! ……さ、佐東さん、いつもお世話になってるし……よければ一緒に行かない?」


「……私を過労死させる気ですか?」


「え、え!? ごめん! ……じゃ、じゃあ爾那でも誘おうかな……」


 思わずギロリと睨みつけてしまい、種口くんはびくっと肩を跳ねさせて震え上がってしまった。


 ……おっと、いかんいかん。


 フェス当日に一人三役するイメージが頭の中をよぎり、それがあまりにもハードだったから咄嗟に強い口調になっちゃったよ。ごめんなさい。


「ははっ! 種口、どさくさに紛れてデート誘ったのに振られてやんの!」


「う、うるさいぞ英一! いつものお礼って思っただけで他意はないって!」


「うーむ、種口サンくらい仲が良くても二人きりのデートはまだ駄目ですか。佐東サンは中々に攻略が難しそうデスね~。HAHAHAHA!!」


「ボブまで! 誤解だってば!」


 わいわいと騒ぐ男たちを尻目に、俺は荷物を持って席を立つ。


 ……久々にU・B・Aの拠点にでも顔を出しておくか。


 フェスの打ち合わせもあるし、そろそろ新メンバーも加入してる頃合いだろうから一度顔見せしておかないとな。







 学校に来たばかりなのに即座に早退した俺は、円樹の恰好に着替えて都内某所にあるU・B・Aの拠点を訪れた。


 この巨大な施設にはライブ用のステージに、ダンスレッスンやレコーディング用のスタジオ、更には大浴場やプールにジムといった設備まで備わっており、地下には魔呼器が完備されていて、魔力を使って戦闘訓練ができる空間まである。


 U・B・AとU・L・Aのメンバー用の宿泊施設も併設されており、食堂や売店もあり、ここだけでも百人以上が生活できそうな規模の建物だ。


 入口にいる屈強な男性警備員以外、スタッフや清掃員、給仕係に至るまで全てが女性で構成されており、まさに男子禁制の女の園ともいうべき場所である。


「……ん? あの人たちは」


 俺が正門に向かって歩いていると、中から二人の女性が出てきたので思わず足を止める。


 どちらも二十代半ばくらいだろうか。一人は清楚な雰囲気の黒髪をショートヘアにした美女であり、もう片方は長身で鍛え抜かれた肉体をしている褐色肌で赤髪の女性だ。


 二人とも表世界だというのに全身に大量の魔力を纏っており、魔核持ちで相当の手練れであることが伺える。


「あら? あなたは……」


「ランキング2位の仁和円樹だな、オレたちとは初めてだよな?」


「……ええ、どうも」


 話しかけられてしまったので、無視するわけにもいかず軽く会釈をする。


 この人たちは……元U・B・Aの"花咲里(かざり) 姫奈(ひめな)"と"スカーレット・ベイリー"だな。


 現在は【アマゾンガーデン】という、成人女性しか加入できないパーティのリーダーと副リーダーを務めている二人だ。


 U・B・Aは十代の少女しか所属できないアイドルパーティなので、卒業しても探索者を続ける者は先輩たちが立ち上げたここに移ることが多い。


 人気では若く華のあるU・B・Aの方が上だが、アマゾンガーデンはもうアイドルとしての活動は行わず、探索者一本に絞って活動しているパーティなので、実力では圧倒的にこちらの方が上だ。


 実際U・B・Aに忍一人しかいないSランクの称号を、彼女たち二人は揃って有しているのだから。


 ……おそらく今日は古巣の訪問と、そろそろ卒業が近いメンバーの引き抜きにでも来ていたんだろう。


「あたしに何か御用?」


「おーおー、オレを前にしても全くビビらねぇどころか偉そうな態度を崩さねぇのか。噂通り生意気なヤツだな、おチビちゃんよぉ?」


「……もう一度その呼び方したら、先輩と言えどぶちのめすわよ?」


「いい度胸じゃねぇか! やり合ってみるか!?」


 俺がツインテールをブワっと逆立てて牙を剥き出しにすると、スカーレットは心底楽しそうな表情を浮かべながら、腰元の次元収納袋の中から一振りの大剣を取り出して構えた。


 ……これが噂に聞く"破邪大剣ガラティーン"か。メサイアレリックではないが、凄まじい量の聖属性魔力が込められた伝説級の魔道具だ。


 それを扱うスカーレットの魔力量も規格外だし、歴代のU・B・Aのメンバーの中でもトップクラスの戦闘能力と言われるのは伊達じゃないみたいだな。


 ……てかここ表世界だし銃刀法違反だろ。警備員も見て見ぬフリは感心しないぞ。


「スカーレット、やめなさい。円樹ちゃんが迷惑しているでしょう」


「おいおい姫奈ぁ……。折角久しぶりに骨のありそうな後輩に出会えたんだぜ? ちょっとくらい遊ばせてくれてもいいだろぉ!?」


「私たちはこの後、"ダンジョン荒らし"の討伐をしなくてはいけないんですよ? 今から暴れて消耗するなんて馬鹿のすることです。相手は正体不明の犯罪者なんですから、万全を期して全力で向かいましょう」


「ちぇっ……オレたちが苦戦するような相手とは思えねぇけどなぁ~」


「私は昔油断して酷い目に遭いましたから、もう二度とそういう失敗は犯さないようにと心掛けているんです。……さあ行きますよ」


 姫奈に促されてスカーレットは渋々武器を収納袋の中にしまう。


 そして軽く俺の頭をポンと叩いてから、鼻息を吐き出しながら颯爽と去っていった。


「すみませんね円樹ちゃん。うちの馬鹿が失礼しました」


「ふん、あなたが謝ることじゃないわ。でもリーダーならちゃんと躾けておくことね」


「ふふっ……面白い子ですね。忍ちゃんが可愛がってるのも理解できます。また会う機会もあるでしょうし、そのときはお茶でもしながらゆっくりお話しましょう。ではごきげんよう」


 スカーレットの後を追いかけ、姫奈も足早に去っていく。


 ……ふむ、"ダンジョン荒らし"か。


 最近話題に上がっている犯罪者だな。ダンジョン内で迷惑行為を繰り返している謎の人物で、配信等もしておらずその目的は一切不明。


 しかし少なくない被害者が出ているようだし、遂にトップクラスの探索者パーティであるアマゾンガーデンにまで依頼が行くことになったようだ。


 でもまあ、彼女たちに任せておけばすぐに解決するだろう。俺が気にする必要はないか。



 二人の姿が完全に見えなくなったことを確認すると、俺はツインテールを靡かせながら警備員に手を振って顔パスで拠点の中に入る。


 そしてエレベーターに乗って最上階を目指していく。


 エレベーターの扉が開くと、高級感あふれる絨毯の敷かれた長い廊下を歩き、ランキング上位のメンバーしか入れない一番奥の特別室の扉を開いた。


 部屋の中には、四名の美少女たちが思い思いにくつろいでいる姿が見える。


「おはよー。久しぶりね、みんな元気?」


 俺が声をかけると彼女たちは一斉に振り向き、そのうちの一人が目を吊り上げながらつかつかとこちらに歩いてきた。


「久しぶりね、じゃないわよ! 円樹、あんたいくらなんでもグループの活動サボりすぎでしょ!? もうちょっと真面目にやれないの!?」


「ちょ、痛いって花音。おでこつつくのやめてよ」


「いーえ! もっとつついて反省させてあげるわ!」


 俺のおでこを人差し指でぐりぐりとつつきながらくどくどと説教を垂れる――黒髪をサイドポニーにまとめた勝ち気そうな眼付きをした少女。


 彼女はランキング4位の"姉石(あねいし) 花音(かのん)"。


 年齢は17歳で俺よりも一つ上。パーティのお姉ちゃん的立ち位置のしっかり者だが、いつも円樹(オレ)に対して当たりが強いのが玉に瑕だ。


「まあまあ~花音ちゃん。円樹ちゃんもこう見えて色々考えて行動してるのよ~。だから怒らないであげて~」


「むぎゅっ!」


 後ろから俺の頭を豊満な胸で挟み込むように抱きしめてきたのは、ランキング5位の"マイア・ブランシェット"。


 オーストラリア出身で、ダークブロンドの髪をショートに切り揃えた18歳の美少女だが、何より特筆すべきはその爆乳だ。


 俺の知り合いの女性陣の中でも間違いなくNo.1のサイズで、本人曰くJカップらしい。


 性格も喋り方も穏やかでおっとりしていて、まだ十代でありながら包容力に溢れたママキャラであり、多くのファンをバブらせて幼児退行させている危険な存在だ。


 ……俺もこうしているとなんだか目がトロンとしてきて眠くなってきてしまう。


「円樹はこれでいいのデス。彼女のこういうところがファンに受けて人気があるのデスから。真面目になってしまったら面白味がなくなるのデス。私はもっと自由にやらせてもいいくらいだと思いマス」


「あら、さすがアスタ。話が分かるわね」


 マイアの胸から脱出し、俺はソファーに座って本を読んでいた少女の隣に座ると、彼女の銀髪のおかっぱ頭をよしよしと撫でる。


 彼女はランキング3位の"妹尾(せお) アスタ"。


 スウェーデン人とのハーフで14歳。パーティの妹的ポジションで、俺より小さいし空気も読めるので俺の中ではかなり好感度高めだ。


「あんたアスタにだけは異様に甘いわよね……」


「この子は花音と違ってぐちぐち文句言わないからね~」


「なんですってぇ!?」


「はいはい、そこまで~。せっかく久々に五人が集まったんだから仲良くね?」


 パンパンっと手を叩きながら場を収めたのは、ランキング1位にして俺たちU・B・Aのリーダー"黒鵜(くろう) (しのぶ)"だ。


 ふわふわの茶髪にふにゃりとした柔和な表情、小さな身体に不釣り合いな凶悪なおっぱい。身長も小さいし顔も幼いので中学生だとよく勘違いされるが、16歳で俺と同い年のれっきとした現役JKである。


 U・B・Aはアイドルとしての実力と探索者としての実力の両方を高いレベルで求められる。


 顔が良くて歌が上手いだけでもダメだし、強くても可愛くなければダメだ。


 下部組織のU・L・Aアンダーワールド・リトル・エンジェルスですら、容姿や歌の実力は勿論、プロの探索者であることが加入の最低条件となっており、入るだけでも並外れた才能が必要となる狭き門なのだ。


 そしてメンバーは十代の少女限定なので、この両方を高い水準で維持するのは非常に難しい。


 このパーティにはこうした基準を満たすメンバーが48名所属しているが、その中でも特別容姿に優れ、歌、ダンス、戦闘のどれをとっても最高レベルでこなせるのは、"五傑"と呼ばれるこの五人だけだ。



 ランキング1位――"黒鵜(くろう) (しのぶ)"。Sランク。


 ランキング2位――"仁和(にわ) 円樹(えんじゅ)"。Aランク。※次期Sランク候補筆頭。


 ランキング3位――"妹尾(せお) アスタ"。Aランク。※史上2番目の速さでAランクに昇格。


 ランキング4位――"姉石(あねいし) 花音(かのん)"。Aランク。


 ランキング5位――"マイア・ブランシェット"。Aランク。



 この五人は紛れもなく裏世界トップレベルの美少女でありながら、いずれも探索者としてトップランカーとして名を馳せるほどの実力を持ち合わせているスーパーガールなのだ。


 ……え? 一人だけガールじゃない? こまけぇことはいいんだよ!

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