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第006話「佐東鈴香の初配信②」

:歩く仕草だけで育ちの良さが伝わってくる

:ほんま可愛いなこの娘

:ナチュラル美少女って感じがする

:声も最高だし歩いて雑談してるだけでも見る価値あるわ

:鈴香たそってもしかしてダン学の生徒?

:十代で魔術師ってダン学のAクラスでもなかなかいないよな?

:Sクラスは全員魔術師らしいけどね



 気を取り直して探索を開始すると、さっそく視聴者からコメントが飛んでくる。


 十代の才能ある若者は、大抵ダンジョン学園に通って探索者としてのいろはを学ぶので、視聴者たちも俺がダン学の生徒だと予想しているようだ。


「いえ、私は学校には行ってませんね。中卒で探索者になったんです」



:中卒wwww

:この容姿で中卒は草

:高校くらい出といたほうがええでw

:そりゃ魔術師なら探索者一本でもやっていけそうやけど、親御さんは反対しなかったのか?

:魔術師ならダン学に入れば将来安泰なのにもったいない



「事情があるんです……。私はお金を稼がないといけなくて……」

 

 鈴香は家族が病気の母親一人であり、その母親の入院費を稼ぎながら、病気を完治させる回復アイテムを入手するために探索者をやっている……という設定だ。


 ちなみに本当の俺も中卒だ! 文句あっか!


 鈴香(おれ)が探索者になった事情を話すと、コメントは同情の声で溢れかえる。



:それは大変やな……

:もしかして癌とかかな

:癌すら治す回復アイテムも高難易度のダンジョンにはあるらしいな

:あーだから傭兵も雇えないのか

:ダン学も学費や制服代とか結構高いしな

:おっちゃんとパーティ組んでくれたらお小遣いくらいはあげるで

:↑ロリコンは帰って



「それで中学校の探索実習で魔術師としての才能があるのがわかって……。それからは、独学で探索者になるための勉強をしました」


 この日本では、子供たち全員が中学校の実習授業で一度裏世界へ潜る機会がある。


 東小金井のような安全な地域に、先生や傭兵、魔力検査官の人たちと一緒に潜り、魔力使いとしての適性があるかどうかを調べるのだ。


 そこで検査官に魔力使いとしての才能がないと判断された子供たちは、探索者になることを諦めるように諭される。


 そうでもしないと才能のない子供が勝手に裏世界へと潜って、そのままモンスターに殺される……というケースが多発してしまうからだ。


 ……まあ、それでも現実を受け入れられずに、才能がないのに探索者になってしまう子供が後を絶たなかったりするんだが。


「――むっ! 前方にモンスターさんらしき姿を発見しました!」


 しばらく探索していると、遂に鈴香の初戦闘の相手となるモンスターを発見した。


 前方にある空き地に、イノシシのような見た目をした、額に小さな一本角を持つ四足歩行のモンスターが佇んでいる。


 俺は鞄からバールのようなもの(・・・・・・・・・)を取り出すと、そ~っと背後から近付いていく。



:モンスターにさん付けwww

:あざといけど素で言ってそう

:鈴香ちゃん可愛いよ~

:でたw バールのようなもの

:初級探索者御用達の武器、バールのようなもの

:ツノブタやね

:東小金井の中でも最弱モンスターのツノブタちゃん

:魔術師の鈴香ちゃんなら余裕やろ



 ツノブタは、初心者スポットの東小金井の中でも最弱のモンスターだ。


 額に生えた小さな角を武器とし、突進が主な攻撃方法である。


 しかし、その攻撃は単調で読みやすいうえに、実際のイノシシよりも動作が遅いので、探索者の中でも初心者はまずこいつで戦闘経験を積むのが一般的だ。

 

 そして俺が持っているバールのようなもの(バールではない)は、鋭い武器であるのに、裏世界に持って行っても銃などのように食べ物に変化してしまわないため、多くの探索者に愛用されている。


 裏世界産の魔法武器を入手した者からこれを卒業するので、これを持っているか否かで大体初心者か中級者かの区別がつく。


『ブルルルル?』


「き、気づかれてしまいました……」



:動き遅いから落ち着いて対処すれば大丈夫

:それでも角は殺傷能力高いから油断は禁物やぞ

:普通の人間ならね

:鈴香たそはもう魔力に目覚めてるから問題ないだろ

:きたぞ!

:腰引けてるけど大丈夫かw

:頑張れ~



 俺を視認したツノブタが、角をこちらに向けて突進してきた。


 まだツノブタとの間合いは十分にあるため、俺は落ち着いて奴が射程に入るまで待機する。


 そしてツノブタが目の前まで来たその瞬間、横に回避してすれ違いざまにバールのようなものを思いっきり振り下ろした。


 ――スカッ



:あっ……

:これはwww

:草

:落ち着けって

:腰が引けすぎて力も入ってへん

:冷静になれば大丈夫だから!



「わ、わかりました。冷静に……ふぅ~……すぅ~……よし、行きますっ!」


 深呼吸をして心を落ち着かせ、再びこちらへ向かって突進してくるツノブタを見据える。


 今度はじっくりと動きを見て、逃げ腰にならずにすれ違うタイミングを計り……先程と同じ要領で攻撃を回避すると同時に、バールのようなものを頭部に叩きつけた。


 ――ドゴッ!!


「や、やりましたっ!」



:馬鹿! 油断すんな!

:まだ動いてるぞ!

:やばっ!

:後ろ後ろ!



「……え? ――きゃああ!」


 突如横腹を襲った強烈な衝撃に、俺の身体は軽々と宙を舞い、そのまま地面を転がった。


 慌てて立ち上がって武器を構えながらツノブタと相対すると、額の角は折れており、頭部から血を流してよろめいている姿がみえる。


「う……うう……っ。わ、私の攻撃であんなに血が出てます……」



:初心者が最初にぶつかる壁やね

:モンスターは生物じゃなくて魔力の塊みたいなものだから気にするな

:倒したら消えるしな

:でも殴った感触と血がリアルやからちょっとビビるよな

:しかし角折れてて助かったな

:くそっ、カメラの位置が微妙でパンツが見えなかった

:これを乗り越えないと探索者としてやってけないぞ

:鈴香ちゃんならできるよ

:お母さんの病気を治すんだろ!



「そ、そうです! こんな所で(つまず)いてる暇はありません!」


『ブルルッ!』


「……ごめんなさい、ツノブタさん。――えぇぇぇい!!」


 頭から血を流しながらも再び向かって来るツノブタに対し、トドメとばかりにバールのようなものを頭部に叩きつける。


 するとモンスターはそのまま地面に倒れ伏し、やがて光の粒子となって消滅した。



:初勝利おめでとう!

:おめっ!

:よくやったぞ鈴香たそ!

:モンスター殺害処女卒業おめ

:↑きえろ、ぶっとばされんうちにな

:実力は余裕のはずなのになんだこの緊張感……



 クソ雑魚モンスター相手に白熱の戦闘を繰り広げ、視聴者も盛り上がってくれたようだ。


 特に一撃で仕留めたと思ったところでカウンターを食らって吹き飛ばされたシーンは、コメントの勢いが凄かった。


 今度はちゃんとカメラの位置を計算してパンツを見せるような不覚は犯さなかったし、視聴者からの反応も上々だから、初戦闘としてはいい滑り出しだろう。


「あっ! アイテムが落ちてます!」


 ツノブタが消えた場所には、大きな葉っぱのようなものに包まれた、骨のついた肉が残されていた。


 いわゆるマンガ肉というような見た目のアイテムだ。



:いきなりドロップアイテム落ちるとか運がいいな

:ツノブタ肉じゃん!

:いいな~

:これくっそ美味いんだよな

:買うと高いけど、自分で狩るとタダやからな

:200グラムくらいあるな

:これだけで一万円はするで



 コメントにもあったが、裏世界のモンスターは魔法生物とでも呼ぶべき存在で、倒すと魔力の粒子となって消滅する。


 そしてまたいつの間にかどこかから現れるのだ。


 なので基本的には動物のように生殖によって数を増やすことはない。


 ……が、生殖器は何故かついているモンスターもおり、女性を性的に襲ったり、中には男性を襲う女性型モンスターもいるので注意が必要だ。


 こういったモンスターは、例外として人間を利用して繁殖することがある。


 また、モンスターは倒すとアイテムを落とすことがあるが、これは確実ではない。


 むしろ倒しても落とさないことのほうが多いし、落とすアイテムにもレア度があり、高レアリティのアイテムほど落とす確率は下がる。


 ツノブタ肉は低レアリティだが、それでも美味しいので人気が高い。いきなりの戦闘でこれをドロップしたのは、かなりの幸運と言えるだろう。


 ちなみに裏世界には宝箱というものも存在し、これも中身を取り出すと消えてしまうのだが、またいつの間にかどこかから現れている。


 ダンジョン以外でも廃墟の中や草むらの陰など、あらゆる場所に出現するので、見落とさないように周囲を確認することが大切だ。


 俺は葉っぱで包まれた肉を鞄にしまうと、探索を続けることにしたのだった。







「えいっ! ……ふぅ~、これでツノブタさんは五体目ですね」



:随分慣れてきたな

:最初はビビって腰引けてたけど、もうちゃんと戦えてるじゃん

:ソロって聞いた時は心配だったけど、大丈夫そうやね

:チャンネル登録したよ!

:くそー、パンツが中々見えないな

:美少女って聞いたから見に来たのにエロなしかよ

:脱がないなら帰ります

:やっぱ声がくっそかわいいわ



 あれから一時間ほど探索を続け、ツノブタを五体ほど倒すことができた。


 バッグからスマホを取り出してちらりと配信画面を見ると、同時接続数はいつの間にか100人を超えていた。初回にしては中々の滑り出しだろう。


 ……が、俺が目指すのは二ヶ月でチャンネル登録者数100万人だ。この程度では到底達成できる目標ではない。


 どこかで、何か仕掛ける必要がある。


「エッチなのは期待しないでくださいね? これからもそういう方向はなしでいきますので」



:ちっ、つまんねーの

:でもこういう娘が理不尽に酷い目に遭うのが裏世界配信の醍醐味やからな

:めちゃくちゃに〇された後に□される展開希望

:最悪なコメント多すぎだろ……

:人増えると変な奴も増えるからしゃーない

:これぞ裏ちゃんねるです

:鈴香ちゃん気にするな

:こういうのは無視するのが吉やで

:それにしても全然人と会わないね



 視聴者が増えるにしたがって、過激なコメントもいくつか流れてくるようになった。


 しかし裏ちゃんねるを見にくる奴らは、半分はこういう輩なので仕方がない。


 最も人気があるのは俺の所属する戦女神の聖域(ヴァルハラ)のようなトップ探索者チームが、危険なモンスターが徘徊する区域や未踏のダンジョンに挑む攻略動画だが、その次に人気なのが、イキった若者が無残な最期を遂げる動画や、美少女が酷い目に遭う動画なのだ。


 ……まあ、これが人間の性というやつなのだろう。


「確かにあまり人に会いませんね……。でも、裏世界は表と同じ広さで人の数は遥かに少ないので、こういうこともありますよ」


 それでも東小金井は人気の初心者スポットなので、普通に探索していれば人と遭遇することは多い。


 人に会わないのは、俺が魔力を探知して意図的に避けているからだ。


 美少女一人で他のパーティと遭遇すると、ナンパされたり予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性があったりで、色々面倒だからな。


「あっ、あそこに大きな建物がありますよ、行ってみましょうか」


 100メートルほど前方にある廃ビルの二階に、四つほどの魔力反応がある。


 肉体を覆う魔力の流れを見るに、二足歩行で大きさは人間の子供くらい。


 ……十中八九ゴブリンだな。


 皆さんご存じのファンタジーお馴染みの雑魚モンスター。小学校低学年くらいの小さな身体に全身が緑がかった肌、そして醜悪な面構え。


 知能は低いがそれでもある程度は武器を使いこなし、群れで行動するため、新人は苦戦を強いられることもある。


 更に特徴的なのは、雄の個体しかおらず、人間の女性をさらっては苗床にするという習性があることだ。なので女性探索者からは蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われている。


「どうやら廃墟みたいですね……」


 反応を見るに、四体のうち一体は少し体格と魔力が大きいな。進化しかけの個体かもしれない。


 いずれにしても、ド初心者(という設定)で人型のモンスターと対峙したことのない鈴香がソロで戦うとしたら、少々厳しい相手だろう。


 ……どうする?


 初回の配信だし、このまま通り過ぎて今日は無難に終わらせるか?


 それとも――


「…………」


 近くにいる人間は……。


 45度の方角180メートル地点に四人。110度の方角215メートル地点に五人。そして一番近くにいるのが、250度の方角130メートル地点にいる二人組のパーティだ。


 いずれもほぼ魔力は持っておらず、初心者であることが窺える。なにかが起こっても短時間でここまで救援に来れるような存在ではない。


 ……やるか?


 いや、迷う必要はない。100万人を目指すなら、無難だなんてぬるいこと言ってないで、初回から一気にぶっ飛ばしていくべきだ。


 あまり過激な方法は清楚系美少女の鈴香としては取りたくないところだが、この状況はまたとない好機!



 ――ここで一気にバズらせる!!



「それじゃあ最後にこの廃墟を探索して今日は終わりにしましょうか。宝箱とかあれば嬉しいですね」


 カメラに向かってにっこり微笑むと、俺はなにも気づいてないような軽快な足取りで、ゴブリンたちの待つ廃墟の中へと足を踏み入れた。

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