第055話「万物の全ては私の剣」
「あっ! 鈴香、迅、無事だったんだね!」
「お待たせしました、ニナ。遅くなって申し訳ありません」
21階の広間に足を踏み入れると、案の定先に到着していたニナが手を振りながらこちらへと駆け寄ってきた。
部屋の中には監督役の教師の他にいくつかのグループが見受けられたが、11階のときと違ってかなり人数は少ない。
ここより上を攻略できる実力を持った生徒たちの数は限られているので、そろそろAクラスや彼らとパーティを組んでいる者以外は離脱していく段階なのだろう。
「鈴香がDクラスとは思えないくらい強いのは一緒に訓練したから知ってたけどさ。迅も一緒だし、20階のボスが倒せるかちょっと心配してたんだよね」
「運もありましたが、私と迅くんなら楽勝でしたよ」
「さすがだね~! これ終わったらもうCクラス昇級確定じゃない?」
「えへへ~、それはどうでしょう」
「……ところで二人とも、なんで水着なの?」
「それがここに来るまでの道が地底湖エリアだったんですよ~。濡れちゃうし魚臭いしで大変でした」
「それは災難だったねー。……迅、やたら疲れた顔してるけど大丈夫? ここからが本番なんだから頑張ってよ?」
「……精神的な疲れだから大丈夫。ただ、少し休憩させてほしいかな」
「そうですね。私もお腹が減ってきましたし、小休止といきましょう」
「じゃあ簡単なお昼を用意しておくから、まずは向こうで着替えてきなよ」
「ああ……」
「は~い!」
……
…………
………………
部屋の隅でラップタオルに包まりながら水着を脱ぎ捨て、再びダン学の制服に着替えた俺は、床にシートを敷き、お弁当の準備をしているニナの元へと戻る。
用意されていたのはコンビニのおにぎりやパンだが、ダンジョンでこういったジャンクフードを食べるのは意外と悪くないものだ。
種口くんも着替え終わったようで、俺たちは三人並んで床に座り昼食をとり始めた。
「……さてと、何とか20階の難所は乗り越えられたわけだけど……問題はこれからだよね」
「ええ、この先は雑魚敵ですらそれなりの強さですからね。一気に難易度が上がってきます」
「もう俺は壁役としてくらいしか役に立てなさそうだなぁ……」
「ボス部屋までは私が火力になるから平気。迅と鈴香は上手く敵を分散させつつ注意を逸らしてくれればOKだよ」
「ニナってそんなに火力あるんですか?」
「あるよ。爾那の魔術はダン学の一年じゃたぶんSクラスを除いて一番威力が高いんじゃないかって評判だし。……爾那、佐東さんに見せてあげたら?」
「う~ん……隠すような魔術でもないし、別にいいか」
……ああ、やっぱり魔術師なんだ。さすが今年の一年Aクラス最強と呼ばれる期待の新人なだけある。
ニナは紙パックのオレンジジュースをストローでジュルルっと飲み干して立ち上がると、パックから伸びたストローを引き抜いて魔力を注ぎ込んだ。
するとストローは突然巨大化していき――
『――――【万物の全ては私の剣】』
長さ一メートルほどの白銀に輝く剣へと姿を変えた。
そして彼女がそれをシュバっと振り下ろすと、剣はまるでストローの様に大きくしなり、床面をザリザリザリっと抉りながら斬り裂いてしまう。
「――ふっ!」
続いて手を伸ばして剣を突き出すように構えると、剣の先端から勢いよく水弾が飛び出して遠くにあるダンジョンの壁へと直撃し、壁面を大きく穿つ。
部屋の中にいた教師や生徒たちは、それを見て一様に感嘆の溜め息をを漏らしていた。
:すげぇぇぇーーーー!
:ポニテの子の魔術カッコよすぎんだろ!
:え? 待って。もしかしてこの三人全員魔術師なの?
:やっぱダン学の生徒ってすげぇなぁ~
:あぁぁぁぁ! ワイも魔術使ってみたいんじゃー!
:普通の人間は一生かかっても発現できないんだよなぁ……
:魔術師になれたら毎日裏世界行くだけで楽しいだろうな
:やっぱ魔術みると探索者に憧れちゃうよな
「こんな感じ。どう?」
「凄いですね……。もしかしてなんでも剣に変えてしまう能力ですか?」
「棒状の物限定だけどね。剣化する物によって威力とか性能が変わってくるんだ。裏世界のレアな植物の枝とか使えば、格上相手にも通用する武器を造れるよ。ただ、一度剣化してしまったものは壊れてしまうのがデメリットだけど」
そう言ってニナは手元の剣をストローに戻すと、それは粉微塵になって砕け散ってしまった。
……なるほど、これは素晴らしい能力だ。
あのしなるような剣身と先端から飛び出た水弾は、おそらくストローの特性を反映しているのだろう。量産品のストローでこの威力なら、もっと貴重な素材を使ったときは相当なものになりそうだ。
攻撃力だけでなく汎用性もあるし、上手く使えば格上相手にも勝利し得る可能性を秘めた魔術と言えよう。それに能力の詳細がバレても殆どデメリットがないのもポイントが高い。
能力だけでなくニナ自身も剣士として一流なので、Aクラス内でトップと評価されるのも納得である。
これなら種口くんという荷物を抱えた状態でも、最上階まで到達するのは容易いかもしれない。
「もっきゅもっきゅ……。なるほろ、その竹刀入れに色々な種類の棒状の物が入っているんですね」
「そそ。ふふ……鈴香、ほっぺに海苔が付いてるよ」
「あわわ。と、取ってください」
「しょうがないなあ……」
「……む~」
「はい、取れた」
:尊い……
:スズたそたまにめちゃくちゃ子供っぽくなるのほんと可愛い
:特にご飯食べてるとき無防備になるよな
:こっちの方が配信のときより素っぽいよね
:前に探索者協会でお子様ランチ食ってたみたいだしなw
:妹にしたいわぁ~
:ワンパン男こういうとき発言しないしカメラにも映らないように配慮してるしやっぱ俺こいつ嫌いじゃないわww
:意外と空気読めるよなこいつw
おっと、いかんいかん……。
カメラが回っているのを忘れてニナにリノにするように甘えてしまった。
食事中はつい気が緩んでしまう癖は直さないと。以後気をつけなければ。
「もきゅもきゅ……ごくんっ。さて、そろそろ行きましょうか!」
「ええ、なんとしてもクリアして犬瀬くんをぎゃふんと言わせてやるわよ!」
「ああ、頑張ろう!」
俺たち三人は天高く拳を掲げると、決意と共に最上階を目指して歩き出した。




