第054話「ドッペルゲンガー」
鏡に映したかのような、そっくりそのまま鈴香の姿をした存在であった。
髪色も長さも完璧で、胸の膨らみ具合や腰つきまで完全に再現されている。服装まで現在俺が身につけているかわいい水着という忠実ぶりだ。
「おおー……素晴らしいクオリティですね。本当に私がもう一人いるみたいです」
もう問題ないとわかったので、カメラをスッと自分の正面に戻す。
:ええええーー!?
:俺の嫁が二人に増えた!!
:どっちのスズちゃんに抱かれたらいいんだ!!!
:俺は右のスズちゃんだ!
:いや左のスズちゃんだね! あのおっぱいの揺れ方は本物だ!
:ウチにも一人くれぇぇぇぇーー!!
:ていうかマジでミラースライムすげー!
:ああ、全裸でコピーされたらマズいからカメラ後ろに向けたのかなw
:簡単に倒せるのにわざわざ自分のドッペルゲンガー作るとか配信者魂溢れすぎw
「見てください迅くん、凄い再現度ですよ?」
まだ知能もなくボケ~っとしているドッペルゲンガーの胸を、ツンツンと突いてみるが、柔らかさも弾力も本物と比べて遜色がない。
繋ぎ目も全くない、俺の偽装がそのまま完璧に再現されているのだ。
……う~む、素晴らしいぞこれ。
「ほら、触ってみてください。ほらほらほら!」
「ちょ、ちょ、ちょ、いいって! 俺はいいから!」
種口くんは顔を真っ赤にして全力で後方へ下がっていく。
……なんだよ、遠慮しなくていいのに。あくまでコピーだから触っても犯罪にはならないぞ?
「ふ~む……服の中はどうなっているんでしょうか?」
「――え? 佐東さん?」
好奇心を抑えきれなくなった俺は、鞭を操ってドッペルゲンガーの水着の上をビシっと弾き飛ばした。
ふわりと舞う布切れ。そしてぷるるんっと勢いよく飛び出す――
「ああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!」
種口くんがカメラとドッペルゲンガーの間に凄い勢いで割り込んできた。
そして両腕を広げて、大事な部分が視聴者たちの目に晒される寸前で隠す。
:おいどけよぉぉ!!!
:スズたそのおっぱい隠すんじゃねぇぇ!!
:邪魔過ぎるぞワンパン男!!
:はやく見せろぉぉーー!!
:ああぁぁぁーー! ピンクの部分が見えそうで見えねぇーー!!
:40過ぎのおっさんのワイ、10代のガキにガチで殺意を抱く
:僕も小学生だけどこれは許せませんね
:お前らあくまでもこれはコピーで本人じゃないからなw
「これは凄い……。中まで完璧な再現度ですよ。ほら、迅くんもよく見てください」
「見るわけないでしょぉぉ!? なんで脱がしてんのぉぉぉぉッ!?」
「どれだけ再現されているのかな……と、学術的興味です」
「きょ、興味はいいけど全世界配信中だよ!? とにかく早く――」
「――下も見ておきましょう」
ビシビシっと鞭でパレオごと水着の下を剥ぎ取る俺。
ドッペルゲンガーは抵抗もできないまま全裸にひん剥かれてしまった。
「くぁwせdrftgyふじこlpああぁぁぁっぁああああああぁっぁーーーーッ!?」
突如ドッペルゲンガーに抱き着くようにして覆いかぶさる種口くん。
そのまま二人で床をゴロゴロと転がり、カメラからも俺の視界からもフレームアウトしてしまう。
「ちょっと迅くん、なにやってるんですか……。見えないでしょう」
「なにやってんのはこっちの台詞だからぁぁ!? 天然だとは思っていたけど想像以上なんだけどこの人ぉぉーーッ!?」
:どけぇぇワンパン男ぉぉぉーーッ!
:ああぁぁーー!! あとちょっとなのにぃぃーー!!
:こっちはさっきから全裸待機してんだぞ!
:お尻がちょっとだけ見えたぞ!
:ワンパン男の野郎を消す方法教えてください
:ワカラセマン、はやくきてくれーーーーッ!!!!
:ああああスズちゃんの乳○がみたいよぉぉ!!
:ところでサモナーさん放置なんですがw
「うるせぇぇぇーーーーッ! お前ら佐東さんのファンなんだろうがッ! 彼女の裸がその辺の汚いおっさんに見られるのが嫌だって思わねぇのか!?」
:それは確かに嫌やな……
:ああ、俺は見たいけど他の奴らには見せたくない
:そう考えるとワンパン男ナイスブロックなんじゃ……
:ちょっと興奮しすぎて冷静さを失ってたわすまんな……
:なんか……ありがとうワンパン男……
:ワイ、40過ぎの汚いおっさんだけど見たくてしょうがないんやが?
:僕も小学生だけど見たいです!
:↑汚いおっさんと小学生はそろそろ黙れw
「ほら! 佐東さんもさっさとこいつを倒して! ほら早くッッ!!」
「……あ、はい」
そ、そんなに怒らなくてもいいのに……。種口くんって怒ると結構怖いんだなぁ。
俺としては偽装の肉体の更にそれをコピーしたものなので恥ずかしさは皆無なんだが、まあこれ以上種口くんを困らせたくないので終わらせようか。
少しだけしょんぼりしながらも、俺はテンタクルウィップを振るいドッペルゲンガーの首に巻き付けて締め上げる。
するとコピーは白目をむいてガクンガクンと痙攣して股間からちょろちょろと謎の液体を垂れ流した後、その身体は塵となって崩れ去り、水着も含めて綺麗さっぱり消滅してしまった。
……ふむ、凄い再現度だな。謎の液体もそうだし、最後にちょっとだけ下半身の部分が見えたが、そこの偽装も完璧だったぞ。満足満足。
「さあ、終わりましたよ迅くん。サモナーを倒しましょう」
「……うん」
すっくと起き上がった種口くんは、少し前かがみになりながら歩き始めた。
………?
ああ、カメラには映らなかったけど、コピーと接触していた彼にはたぶん見えていたんだろうなぁ。
俺の能力は質感も完璧に再現できるから、おっぱいとかお尻とか股の間とかもそうだし、触れると温かい感触がありリアルな凹凸を感じられてしまうのである。
……いやぁ~悪いことをしてしまったよ。
「くたばれやオラァァァーー!」
『グギャギャァァァーーッ!』
種口くんが渾身の一撃をお見舞いしてサモナーが倒される。
しかしいつも温厚な彼が叫び声をあげて攻撃するのは珍しい光景だなぁ。よっぽどお怒りのご様子……。ごめんなさい。でも反省はしておりません。
:うわぁ……鬼のような形相だ……
:こうしてみるとワンパン男も大変だなw
:スズちゃん天然だからパーティ組むと疲れるだろうなw
:ううぅっ……結局見えんかった……
:スズたその生Fカップおっぱいがみたかった……
:でも他の男に推しの大事な部分を見られるくらいなら……俺は耐えるよ
:そうだね……俺たちはおとなしく諦めよう
:俺たちは真面目なスズたそのファンだからな
:お前ら……( ;∀;)
:大事な部分は見えんかったけどコピーが床に液体を撒いたの見れたからボク満足!
:最後のアヘ顔も最高だったな!
:全部見えてたら初回を超える永久保存版の神回になったんだけど惜しいなw
裏ちゃんねるに投稿された動画は、これくらいのエロなら削除されずに残ることが多い。
ただし、あまりにも過激で刺激が強すぎるエログロ動画や、本人や家族から要請があった場合はさすがに消されてしまうのだが。
それにしても鈴香のファン層って一部を除いて意外と紳士が多いんだな。ありがたいことである。
……あと俺は天然じゃないぞ!
奥の扉が開いたので、俺はどっと疲れた様子の種口くんを引き連れて意気揚々とその先に進んでいくのであった。




