表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/29

第024話「JK三人組」

『ふむ、なるほど……。それは確かにスズの責任が大きそうだね。僕のデータによると、彼が今後トラブルに巻きこまれる可能性はかなり高いとみるよ』


 リビングのテーブルにノートPCを置き、リノと二人で画面越しにアーサーと対面する。


 今俺が置かれている状況を説明すると、彼は顎に手をやりながら難しそうな顔でそう答えた。


『ドジですわ! ドジっ子ですわぁ~! またスズがドジってますわ! オーッホッホッホ~ッ!』


「なんでレイコまでいるんですか。アーサーだけでよかったんですけど……」


 アーサーの後ろから、にゅっと顔を出して高笑いをするレイコ。お前は頭脳担当じゃないので大人しくしていてほしい。


 マサルは……どうやらいつものように筋トレでいないみたいだ。


「それで、なにかいい案がないかとお伺いを立てたのですが……」


『とりあえず協会には封印石の下にダンジョンが在ったことと、それを偶然(・・)見つけたリノとスズが消してしまったことは報告しておくけど、SNSでこれほど話題になっているし、彼がSランク級だという噂が完全消滅するのは難しいだろうね』


「やはりそうですか……」


『どのような状況であったにせよ、モンスターを倒したのは彼が自分の意思で勝手にやったことですし、スズが責任を感じる必要はないのではなくて? 放っておいても問題ないと思いますけれど』


 ……まったく。能天気なやつはいいよな。


 俺は借りは返さなくちゃ気が済まないたちなんだよ。それが恩であっても、怨であっても、だ。


『ところで君、実家でも鈴香ちゃんの変装を解かないのかい?』


「私にも事情があるんですよ。……で、どうしましょう? このままだと種口くんが酷い目に遭ってしまうかもしれません。それはちょっと寝ざめが悪いというか……」


 最悪でも鈴香が実力を隠していたことがバレて叩かれるというだけで、一人も被害者を出さずになんとかできるという油断が頭にあったせいで、判断が遅れて種口くんの寿命を削らせてしまった。


 SNSでの噂も俺に責任の一端があるし、なんとかしてあげたいが……。


 しかしスズキは彼と接点がないし、鈴香も彼と同じアパートに住んでいるという程度の関係でしかないので、やれることにも限界がある。


『閃きましたわ! 佐東鈴香がその種口くんに四六時中付きまとって、問題が起こらないように影からサポートして差し上げればいいんですのよ!』


 俺とアーサーが真剣に話し合っていると、突如レイコが漫画本を片手にそんな提案をしてきた。


 やれやれ……アホはいきなり突拍子もないことを言い出すから困る。なんで大人気美少女配信者キャラの鈴香が、そんなストーカーみたいな真似をせにゃならんのだ。


『わたくしが今読んでる漫画では、日本一のアイドルの美少女が平凡な少年にちょっとしたピンチを助けられただけで、その少年にガチ恋してストーカーみたいに追い回してますわよ。それをスズがやっても不自然ではないのではなくて?』


「不自然過ぎるだろっ!?」


「あっ、スズが女の子の恰好してるのに素に戻るの珍しい」


 思わずツッコミを入れてしまい、リノにくすくすと笑われてしまう。


 ……いや、だっておかしいでしょ。


 いくら恩義があるからといって、有名人の美少女がいきなりそんなクソデカ感情を抱いて、それまで特に親しくもなかった平凡な少年に付きまとい始めたら……。


『追い回すというのは言い過ぎだけど、スズが彼のことを密かにサポートしてあげるというのは名案かもしれないね』


「アーサーまで……。でもサポートといっても、彼はダン学の生徒ですし私とはあまり接点がないのですが……」


『この際だから、スズもダン学に編入すればいいんじゃないかな。僕なら理事の権限で無理矢理ねじ込むことができるよ』


 アーサーは冗談なのか本気なのかよくわからない提案をしてくる。


 戸籍の存在しない架空のキャラである佐東鈴香でも、こいつの権力があれば本当に編入することもできてしまうだろうが……。


『わたくし、スズの制服姿見たいですわぁ~!』


「スズがダン学通うなら、私もちょっとは学校行こうかな……」


「あのですね? ご存じかと思いますが、私はこう見えて結構忙しいんですよ。学校に行ってるような余裕はないのですが……」


 鈴香として配信もしなければならないし、他にもやることが山積みなのだ。


 中卒だけど、ただ家でゴロゴロしてるだけのニートとは違うのだよ。


『今回の件で佐東鈴香のチャンネル登録者数は跳ね上がったし、もう放っておいても目標は達成できるんじゃないかな? それにダン学は普通の高校と違って毎日登校する必要もないしね』


「私だって殆ど通ってないけど十分に単位取れてるしね~」


「むむむ……。しかし男の影がちらつくと、せっかく伸びた登録数がまた下がってしまうかもしれませんし……」


『そこはそれも試練だと思って頑張るしかないね』


 う~む、確かに同じ学校に通えば種口くんと距離を詰めても不自然じゃないし、俺がやらかした分くらいはサポートしてあげたいとは思っている。


 しかしダン学には曲者揃いの探索者たちが大勢いるので、俺の正体がバレてしまう危険性もゼロではない。


『それに、実はスズに調査してほしいこともあるんだよ』


「調査……ですか?」


『うん、実は近年ダン学で行方不明者の数が増加傾向にあってね。その原因を探ってもらいたいんだ』


「行方不明者って、ダン学の生徒は全員探索者で頻繁に裏世界へ潜ってるんだから、珍しい事でもないんじゃないですか?」


『いや、最近の子たちは意外と慎重だし、中でもダン学の生徒は優秀だから安全マージンをしっかりとって行動してる子が多い。だから行方不明者が出るなんて滅多にないはずなんだよ。これには人為的なものが絡んでいる可能性があるんだ』


「人為的……ですか。リノはそういうのには向かないですしね」


 インネイトでずば抜けた魔力を持っているし、角が生えてて魔術もカッコいいが、それ以外ではリノは本当に普通の女の子だ。


 調査とか隠密行動とか、そういった器用なことができるやつではない。


「ダン学の制服持ってきましたわよ~!」


 と、そこにレイコがダン学の女子用の制服を胸に抱えて、涼木家のリビングに飛び込んできた。


 さっきまで画面の向こうのアーサーの後ろにいたはずなんだが……。相変わらず神出鬼没なやつだな。


「あ~、でもやっぱりダン学の制服かわいい! 着てみてもいいですか?」


「だから感性が完全に女子なんだよなぁ……」


 うるさいな……。かわいい服は着こなしたくなっちゃうんだからしょうがないだろ。


 レイコから紺チェックのスカートと紺のブレザー、白いシャツにスカートと同じ柄のネクタイという制服を受け取ると、俺はその場でピンク色の寝巻を脱ぎ捨てて下着姿になった。


「相変わらず美しすぎる身体ですわねぇ~。腰もほっそいですし、所々に偽装を施してるとはいえ、どう見ても男の子には見えませんわ……」


「めちゃくちゃかわいいピンクのブラとショーツをナチュラルに身につけてる癖に、全然不自然さがないのが凄いよね。私でもそのレベルの下着を履こうと思ったら、結構勇気がいるのに」


 下着姿を女二人に間近でじろじろ見られると流石に恥ずかしいので、さっさと着替えてしまうことにする。


 ちなみにアーサーは画面の中でちゃんと後ろを向いていた。俺は本当に男だと何度も言ってるのに、律儀なやつである。


「……あ、このシャツとても着心地がいいですね」


 肌触りが凄く滑らかで気持ちいいし、通気性もいいから夏場でも快適に過ごせそうだ。さすがダン学の制服だな。


 シャツだけでなくスカートやブレザー、それに別売りのニーソなんかも裏世界製の特殊な素材でできているらしく、見た目より頑丈で魔力の伝導率も抜群だ。


 ダン学の制服はそのまま裏世界やダンジョンで使える戦闘服でもあるので、そのお値段はなんと一式で百万円を超える。


 しかもダン学の生徒でないと購入できないので、この服がオークションに出品された際には、世界中からコレクターが詰めかけて凄まじい金額で落札されるらしい。


「じゃ~ん! どうでしょうか、似合ってます?」


「「かわいい(ですわ~)!」」


 制服に着替えてその場でくるりと一回転すると、リノとレイコはやんややんやと手を叩いて褒めてくれた。


『どうだい? 学校に行く気になったかな?』


「……そうですね、この際なのでちょっとくらいは学校に通うのも悪くないかもしれません」


 ずっとというわけにはいかないだろうが、やはり少しくらいは種口くんのサポートをする義務が俺にはあるだろう。


 それに……本当の俺は学校に通いたくても通えない身だから、学校の制服が着られるのはちょっと嬉しい。女子のだけど……。


『それはよかった。まあ、辞めたくなればいつでも辞められるし、気楽にやってみるといいよ。調査のほうは手が空いたときにやってくれる程度で構わない。自分の目的を最優先にしてくれたまえ』


「はい、わかりました」


『それとパーティの活動のほうだけど、奈落の攻略準備に思ったより時間がかかりそうでね。罰ゲームを達成し終わったら、もう少しゆっくりと学園生活を満喫してくれて構わないからね。君は本来ならまだ学校に通っているような年齢なんだし、青春は大事にしたほうがいい』


 アーサーは俺の事情を知っているので、そう気遣ってくれる。本当にいい奴だし、頼りになるリーダーだ。


 俺とリノが二人で殺伐とした生活を送っていたとき、彼が一緒にパーティを組もうと誘ってくれたおかげで、ここまで楽しくやれている。


「せっかくだし私も久々に制服着てこよーっと!」


 パタパタとスリッパを鳴らして自室に駆け込んでいくリノ。

 

 そしてすぐに制服姿になって戻ってくると、ぴょんぴょんとジャンプしながら満面の笑みで俺に抱き着いてきた。


「スズと一緒に学校通えるの楽しみ!」


「いや……鈴香とリノは赤の他人という設定ですし、クラスの格も違い過ぎるのであまり一緒にいれないですよ?」


「そうだった……。それに学校行くと【ダン学Sクラス】から勧誘されて面倒くさいし……」


 リノはがっくりと肩を落とし、しょんぼりとした表情になった。


 現在ダン学にはSランクのライセンスを持つ探索者がリノを含めて四名おり、そのうち二名が【ダン学Sクラス】という超人気パーティに所属している。


 彼らはダン学の生徒たちだけで最強のパーティを作るという野望を持っていて、リノともう一人のSランクを仲間に引き入れようと躍起になっているらしい。


「見てくださいまし~。わたくしも制服着てみましたわ~! これでJK三人組の完成ですわね~!」


 いつの間にか俺たちと同じようにダン学の女子用制服を着込んだレイコが、リノの後ろからひょっこり顔を出す。


 しかしその胸元はパツパツになっており、今にもボタンが弾け飛びそうだし、太ももはむちむちで完全にスカートの丈が足りてないので、今にもパンツが見えてしまいそうだ。


「さすがにレイコがJKは無理があるんじゃないでしょうか……」


「わ、わたくしだってまだいけますわよ! 20歳はJKコスが許されるギリギリのラインですわ!」


「いや……JK三人組って、そもそも本当にJKなの私だけなんだけど……」


 などとわいわい騒ぎながら、俺たちは制服のまま夜通し女子トークに花を咲かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ