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第021話「Sランク探索者」

 空間の裂け目を抜けると、そこは数メートル先しか見えないような真っ暗な場所だった。


 どんよりとした空気が漂い、そこかしこから不気味な唸り声が聞こえてくる。魔素は非常に濃密であり、俺の体感では危険度8から9のエリアとほぼ遜色ない。


 地面は綺麗に均された石床のようで、俺たちが歩くたびにコツコツと硬質な足音が響く。


「たぶん大部屋型だね」


「だなぁ~……なんかそこら中にデカいモンスターがうじゃうじゃいるし」


 二人で魔力探知をして半径一キロほどを確認してみたが、通路や階段のような道は一切なく、下は地面のみで上は天井がわからないほど高い。ただただ広大な部屋にモンスターが密集しているような印象を受けた。


 これは典型的な大部屋型と呼ばれるダンジョンの特徴で、俺たちが今いる空間以外に他の部屋や階層が存在せず、言ってしまえば入った瞬間にボス戦が始まってしまうモンスターハウスのようなダンジョンのことだ。


 短期で決着がつくというメリットはあるが、ダンジョンのモンスター全てが一部屋に集まっていて逃げ場もないことから、難易度は高めと言わざるをえないだろう。


「とりあえず光源飛ばしてみるね~」


「おう」


 リノが左手を前に突き出して魔力を集中させる。


 すると、彼女の手の甲に刻まれていた六芒星が淡く発光し、そこから光り輝く球体が三つほど飛び出して空中をふよふよと漂い始めた。


 この六芒星はリノの魔術……というわけではなく、【メサイアレリック《No.33》――"ダビデの宝物庫"】という次元収納系のアイテムだ。


 触れて魔力を流した対象を光の粒子に変換して異空間に収納し、任意のタイミングで取り出すことができる機能があり、その容量は東京ドーム一個分ほどにも及ぶ。


 一つあたり十トンまでの物体を収納することができ、更には時間停止機能も備わっている。生物を収納することだけはできないが、それでも次元収納系のアイテムの中ではトップレベルの性能といって差し支えないだろう。


 タトゥーシールのように皮膚に張り付くタイプだから、盗まれる心配がないのもポイントが高い。


 リノは戦女神の聖域(ヴァルハラ)の倉庫番のような役割もしており、パーティのレアなアイテムをいくつもこの中に収納しているのだ。


 ちなみに今飛び出した球体は、"光ふわスラ"という、なんてことはないただ明るく光るだけのちょっとレアなふわスラである。


「うげぇ……」


「うわっ、きもっ!」


 上空に浮かび上がったふわスラの光によって明らかになったその空間は、まるで地獄絵図のような有様だった。


 あの黒いティラノサウルスのようなモンスターの集団が、その巨体で所狭しとひしめき合っていたのだ。


 小さいもので3メートルほどの個体から、大きいものでは種口くんが倒した15メートル級を超える個体もおり、その全てがちょっとだけ人間に似た不気味な顔を持っている。


『グルルルル……』


『グオォォッ!!』


『ゴギャアァァァァーーーーッ!!』


 モンスターたちは光源で露わになった俺たちの姿を見つけると、一斉にけたたましい雄叫びをあげながら突進してきた。


「しゃーねーな。んじゃ、やりますかぁ!」


「りょーかい!」


 毛むくじゃらの腕を振り回しながら飛びかかってくる黒ティラノたちを、俺たちは魔力を纏った拳と脚で殴り、蹴り飛ばす。


 その一撃で奴らの巨大な身体はいとも簡単に吹き飛び、後方にいた仲間と激突してドミノ倒しで転がっていったり、壁にめり込んでグシャリと潰れたりして、次々と光の粒子となって消えていった。


 しかし、倒しても倒しても奴らの数は一向に減る気配がなく、絶え間なく俺たちに襲いかかってくる。


「キリがねーな!」


「もしかしたらボスが雑魚を生み出すタイプなのかも!」


 二人で背中合わせに高速移動しながら、襲いかかってくるモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げる。


 どうやらただ図体がデカいだけで特殊な攻撃もしてこないようなので、この程度なら俺たちであればいくら数が多くても問題ないのだが……いつまでもこの調子が続くと、さすがに面倒臭いな。


「お前能力使えよ。さっさとボスを倒そうぜ。このままじゃ夜が明けちまう」


「う~ん……そうだね。じゃあ一気に蹴散らしちゃうよ!」


 リノは空中に飛ばしていたふわスラを"ダビデの宝物庫"へと回収すると、頭に巻いていたヘアバンドをずらし、二本の角を露わにした。


 その瞬間、パリパリッと放電するような音が鳴り響き、リノの周囲を紫電が駆け巡る。



「咲き乱れよ――――【万鈞(ばんきん)雷花(らいか)】」



 リノが両手を広げながらくるりと回転すると、彼女の身体から放出されていた紫電が、光輝く無数の小さな花となって周囲に広がり、部屋の中を浮遊し始めた。


 暗闇に閉ざされたダンジョンの中を、煌めく紫電の花々が舞うその姿は、まさに幻想的という言葉が相応しい。


 そして、一体の黒ティラノが不思議そうな目でその花に手を伸ばした途端――


『ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃッ!!!』


 バヂィッという凄まじい音が鳴り響き、嫌な臭いのする煙を上げながら、一瞬で全身が黒焦げになって絶命する。


 それを見た他の黒ティラノが花から距離を置こうと慌てて後ろに下がるが、今度は上空に舞い上がった花からまるで落雷のような激しい電撃が降り注ぎ――


『『『ゴギャァアァァァーーーーッ!?』』』


 辺り一面にモンスターたちの無残な黒焦げ死体が量産されていった。



 ――これがリノの魔術、【万鈞(ばんきん)雷花(らいか)】だ。



 自らの魔力を雷の花に変換し、それを自在に操る能力。


 雷花は触れると一瞬で敵を消し炭にするほどの超火力を秘めており、触れずとも花から放出される雷は、並みのモンスターなら一撃で感電死させてしまうほどの威力がある。


 射程距離はリノの魔力探知範囲と同じ約1500メートル。


 そして現在こいつが同時に具現化できる雷花の数は実に117個であり、その全てをリノの意のままにコントロールできるというのだから、まさに一騎当千の魔術と言っていいだろう。


「相変わらずえげつね~な……」


「う~ん、今日はあまり咲きが良くないかも。ここの空気が悪いのかな?」


 これだけの雷花を具現化しておいて、あまり良くないときたか……。


 しかし、これがSランクの探索者が有する、圧倒的なまでの力なのだ。リノだけでなく、戦女神の聖域(ヴァルハラ)の他のメンバー、アーサー、レイコ、マサルの三人も、それぞれリノに勝るとも劣らない強力な魔術を行使できる。


 ……え? 他の三人がリノと同等なら俺の魔術だけしょぼくないかって?


 やれやれ、わかってないね。子供や考えの浅い大人は戦闘に役立つ能力ばかりを称賛する傾向にありますが、そんな偏った考え方は実にナンセンスですよ?


 俺の能力の真髄はそこじゃないんだよ。いいかね? 人間の人生というのは戦ってない時間のほうが圧倒的に長いんだ。つまりは日常的に使える能力こそが――


「スズ、なにぼ~っとしてるの? ほら、あれがボスじゃない?」


「お? どれどれ……」


 先ほどまで周囲を埋め尽くしていたモンスターたちはリノによって一掃され、ついでに雷花の光によってダンジョンの様相もより鮮明に見えるようになった。


 遠くにひと際巨大で、そして異様な存在感を放っている黒い物体が見える。おそらくあれがこのダンジョンのボスだろう。


「おお、確かにあれがボスっぽいな。さっさと倒して帰るか!」


「うん、そうしよう!」


 俺たちは頷き合うと、雷花で照らされた大部屋を駆け抜けて、ボスのいる場所まで一気に突き進んだ。

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