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第106話「サキュバスパニック」☆

《皆さま、ご覧ください! この圧倒的な人の群れを! ここはコミュケの会場でしょうか? それとも夏休み中のネズミーランドでしょうか!? いいえ違います! 彼らは東京国際転移門の裏側にある"海底神殿"を目指して集まった探索者たちなのですッ!! 若者から年配の方、それに日本人だけではなく外国人と思われる人も多数いらっしゃいますよ! ダンジョンの入り口に並んでいる人数はなんと一万人を突破したとの情報も入っております!!》


 アイちゃんが映してくれた海底神殿前の映像には、もはや島を埋め尽くさんとするほどの男たちがひしめき合っていた。


 テレビ局の報道陣と思われる人たちも大勢集まっており、若い女性アナウンサーがテンション高くダンジョン前の状況を実況している。


《十年前のサキュバスパニック再び……といったところでしょうか! では、集まった人たちに少し話を聞いてみましょう!!》


 アナウンサーは近くにいるダン学の制服を着た男子生徒にマイクを向けた。


《こんにちは! ウニテレビの"八鎌(やかま) 詩衣(しい)"でございます! 皆さんもやはりサキュバスに会いに来たということでよろしいですよね!?》


《はぁ~? サキュバスぅ~? ちげぇよ! 俺たちはダン学の学生だぜ? 年に二回しか浮上しない海底神殿に挑戦しに来ただけだ。サキュバスなんて話、今初めて聞いたぜ。なあ、キモタク?》


《ええ、その通りでござる。まったく……どうしてこんなに人が並んでいるかと思えば……。真面目に攻略しに来た我々からすると迷惑な話ですなぁ~。ねえ、ボブ殿?》


《OH~……。そ、そうデスね……。困ったものデスよ……HAHAHA……》


《なるほどぉ~! さすがダン学の学生さんたちですね~。真面目な若者たちからすると、確かにこのような事態は迷惑この上ないかもしれませんね! 頑張ってください! 応援しております!》


 インタビューを受けていたのは、種口グループの面々だった。


 確か彼らは数日前、自分たちに海底神殿はまだ早いから今回は行かないと言っていたように俺は記憶しているが……何故ここにいるのだろうか?


 ……いや、今はそんなことを気にしている場合ではないか。


「アイちゃん、他の複製の様子は?」


『いくら人数を揃えようと、中層と下層に潜れる実力がある人は限られます。ですが上層の二つはこのままだと発見されそうですね……。見つかりはしませんでしたが、たった今も種口の担当する複製の近くを三人組のパーティが通り過ぎました』


 シンプルな人海戦術。


 されど万を超える人々が一斉に複製を求めてダンジョンの中を徘徊したら、それは驚異的な捜索能力になる。


 しかもまだ24時間以上ある上、探索者の数は増える一方なのだ。とてつもなくアホらしい作戦ではあるが、これがかなり効果的なのには疑いようがない。


 ……アームストロングの奴、堅物で融通が利かなそうなオッサンに見えるくせに、案外ふざけたことを考えやがるぜ。




 そしてそこからさらに7時間が経過し、海底神殿が浮上してちょうど24時間が経った頃だった――。


『迅です! すみません、複製が破壊されました!! 一般の探索者に発見されたので本部の指示に従って場所を移したのですが……それからしばらくして見えない斬撃みたいなものが飛んできて……』


 八咫烏のスマホから種口くんの声が響いてきた。


 遂に一つ目が破壊されてしまったか……。おそらくグリフレットの【次元斬(ヴォイドセヴァー)】だな。


 一度発見されてしまったら、この状況では再度隠すのは難しい。場所を移そうにもそこら中に人がいるので、種口くんが複製を持って逃げたことがすぐにバレてしまうのだ。


 実際SNSでは――



:なんかワンパン男が例の封印守ってるんだかwww

:はぁ~? あいつサキュバス復活阻止勢かよ!?

:なんでやねん! 一緒にサキュバスに犯されようやぁ~!!

:十代男子の風上にも置けない奴め!

:スズたそやアカリちゃんや円樹ちゃんら美少女たちと仲がいい奴は余裕っスねぇ~~!!

:むしろワンパン男がサキュバス独り占めしようとしてんじゃね?

:あり得るww あいつムッツリスケベっぽいもんなw



 などという書き込みが溢れている。


 これで種口くんは探索者たちに完全にマークされてしまったはずだ。もう彼は他の複製の傍で警護をすることも、複製を持って移動することも出来なくなった。


『俺はこれからどう動けばいいですか?』


『迅は処刑人部隊の動向を探って報告してくれ。ただし奴らは、教団の中でもひと際凶悪で残虐で戦闘能力の高い連中だから、接近する際は慎重にな。特に聖王ナンバーズのNo.4"処刑人ジョセフ"、No.9"(たかどの) 桃汰(とうた)"、No.14"爆炎の火焚(ひだき)"には要注意だぞ?』


『了解しました!』


 スマホから雪枝長官と種口くんのやり取りが聞こえてくる。


 後24時間で残り六個を守り抜かなければならない。しかし探索者たちが大挙して押し寄せてきてから7時間で一個だから、守り切れないほどではないだろう。


 それにアイちゃんと八咫烏のネット工作部隊がこれはデマだっていう情報を拡散してくれており、探索者協会からも『サキュバスクイーンは討伐されたので復活するということはありえません』といった公式声明も出ているので、ここからは少しずつではあるがサキュバス目当ての探索者も減るはず――


『スズ! 海底神殿に向かって来ている人の数がさらに勢いを増してます!』


「ええ~……一体なんでまた?」


『スズ、人間っていう生き物は愚かなので、真実より自分の信じたい情報の方を信じるんですよ……。それに、どうも種口が守っていた複製を見つけた探索者に、サキュバスのフリをしたマグマガーが本当にご褒美を与えたらしくて……。その話がどんどん拡散されているみてーです……』


「嘘だろ!? あいつ一般人相手にそこまでやってんの!?」


 女優レベルが天井を突き破って宇宙に到達してる!


 複製を壊したらサキュバスクイーンが復活するという話は嘘だが、発見した人間にクイーンの娘がご褒美をくれるという話はこれで嘘ではなくなってしまったわけだ。


 これは『Half-truthハーフ・トゥルース』と呼ばれる手法で、人は嘘の中に真実が混ざるとそれを信じやすくなってしまう傾向があるらしい。


 それに今現在ここに集まっている奴らにとっては、本当にクイーンが復活するかどうかより、自分がクイーンの娘ご褒美をもらえることを重要視しているはず。


 このままではどんどんアホな男たちが湧いてくるぞ……! この上ないアホな作戦なのに効果が出過ぎだろ!!




 そして、それから5時間後――


『ごめんなさいデス! 私の担当していた複製も破壊されちゃいました……!』


 アスタの悲痛な叫びがスマホ越しに響いてきた。


 破壊までのペースが目に見えて早くなっている……。


 既に海底神殿前はさらに混雑していて、今まで順番待ち列に並んでいた人たちも我先にと中に突入する流れが出来上がってしまい、外は一種の地獄絵図となっていた。


 一つ目を見つけた探索者がマグマガーにしてもらったご褒美動画があまりにもエロいとネットで話題になりすぎており、頭が沸騰しきった男たちが抑えきれなくなってしまったのだ。


 ……これがサキュバスパニック!


 人を殺傷などしない温和なモンスターなのに、サキュバスクイーンが緊急討伐指定モンスターに定められたのも当然だな。


 親父は世間の男たちに叩かれまくっていたようだけど、俺は討伐した彼を支持するぜ。


「これで後五個か……。だけどアイちゃん、破壊されたのは二つとも上層の複製だし、ここからは少しペースが落ちるんじゃないのか?」


『普通に考えたらそうですが、奴らかなり入念に準備してるようなので油断ならねーですよ。サキュバスなんて頭の悪い作戦、天才AIのワタシにも予想できなかったですからね……』


 海底神殿は逆ピラミッド型の構造になっており、上層が一番広く最深部が一番狭いが、危険度では上層が5、中層が6、下層が7、最深部にいたっては8とだんだん激しくなっていく。


 最深部以外は帰還の宝珠があるから基本的に命の危険はないが、有象無象の探索者では上層を逃げ回りながら複製を探すのが精いっぱいで、中層や下層まで進める者となると人数が激減するはずだ。


「いや……待てよ……! アイちゃん、処刑人部隊の動きを探っている種口くんに連絡を頼む! 特に楼の行動を注視しておくようにって!」


『なるほど……直ちに伝えましょう』


 アイちゃんは俺の言いたいことを察してくれたようで、すぐ種口くんにメッセージを送ってくれた。






◇◆◇◆◇◆◇


(迅視点)



『グルルルルァァッ!』


「くっ……! ハリケーンパンチッ!!」


 中層に降りた瞬間、二足歩行の巨大なトドのようなモンスターが襲いかかってきたので、俺は魔王の封印を解いた右拳に風を纏わせて殴り飛ばした。


 バキバキと口元の牙と顎を砕かれながら吹き飛んでいき、やがて光の粒子に変わって消滅していく巨大トド。


「ふう……。もうここまできたら【全てを招くモノ(ストーミーペトレル)】の力抜きじゃ厳しいな……」


 ぴちゃぴちゃと水音の鳴る石畳の道を歩きながら、周囲の様子を窺う。


 上層は如何にも神殿の中って感じだったのに、中層からは神殿の様相は保ってはいるものの、少し薄暗くてじめっとした不気味な雰囲気の空間になった。


 帰還の宝珠があるからいいけど、本来なら一人ではあまり挑戦したくない場所だ。


「アイちゃんの情報によると……奴らはこっちの方向に向かったらしいけど……」


 現在この海底神殿には数え切れないほどの探索者たちがおり、カメラを回して配信をしている人も大勢いる。


 ネットにアップされたらアイちゃんはそれら全ての映像を瞬時に確認することができるので、ダンジョン中に大量の監視カメラが設置されているようなものなのだ。


 だから処刑人部隊の居場所もある程度は把握することが可能だった。


 人が増えたことによる弊害も多いが、このようなメリットも実はあったりする。



「ぎゃぁぁぁぁーーーーーッ!?」



 そのとき、少し離れたところから男性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。


 俺は急いで、しかし"八咫烏のペンダント"を使って最高レベルまで気配を消しながら、その場所へ向かう。


「な、なんだあれは……」


 少し進んだ先にあった大広間の中の光景を見て、俺は慌てて通路に身を潜めた。


 部屋の中にはジョセフや楼、それに真っ赤な髪をした大柄な男を含む十数人ほどの集団がいて、彼らの足元には探索者と思われる二人の男性が倒れている。


 だが、男性の片方は首から上を綺麗に切断されており、もう一方は全身が黒焦げになっていた。どう見ても死んでしまっているのは明らかだ。


 このダンジョンでは帰還の宝珠が支給されるから滅多なことじゃ死ぬことはないはずなのに……一体何が起こったんだ!?


「ちっ、マキシポーションか。悪くはないが消費アイテムだと落胆が強いな。まあ、トレジャーボックスでも銅じゃユニークはなかなか出ないか」


「ギャハハハハ! 『自分たちが先に見つけたのに横取りする気か!』とか舐めたこと言いやがったから、ついぶっ殺しちまったぜ。早い者勝ちに決まってんだろーが! ねえ、ジョセフさん」


「ああ、帰還の宝珠があるから殺されはしないと高を括っていたんだろうが……。俺たちにそんな常識は通用しない。邪魔するやつは問答無用で始末する。それが"処刑人部隊"だ」


 ジョセフと真っ赤な髪の男が会話している。


 あの赤髪が"火焚(ひだき) グレン"――通称"爆炎の火焚(ひだき)"か……。【業火の魔弾(インフェルノスフィア)】と呼ばれる強力な火球を放つ魔術を使うという噂だが……。


 どうやらトレジャーボックスを巡って揉めた結果、二人の探索者を殺害してしまったらしい。


「あ~、ジョセフさんもグレンさんも羨ましいぜ。俺も誰かぶっ殺してーなぁ~。でも今回の任務は帰還の宝珠ありのダンジョンだから、そー簡単にはいかねーんっスよね~」


「ギャハハ! 帰還の宝珠があろうとよぉ~、発動する間もなく即死させればそれで済む話じゃねーか」


「そんなのできるのお二人くらいっスよ~。俺もさっきぶつかってきたムカついた野郎がいたんで心臓にナイフぶっ刺してやったんっスけど、宝珠が発動して逃げられちまいました」


「お前らは詰めが甘いんだよ。……よし、せっかくの機会だ。ゴミみてーにわんさか人がいるんだから、複製の捜索をしながらちょっとでも邪魔する奴がいたら一撃で殺せるように訓練をしていくぞ」


「「「うっす!!」」」


 ジョセフの言葉に、部下の連中がやる気満々の返事をする。


 ……な、なんて奴らだ。


 教団の中でも特に残虐非道な連中とは聞いていたが、まるで人の命を虫か何かのように扱ってやがる。


「ジョセフさん、ゲートが完成しましたよ」


「おう、でかしたぞ桃汰。それじゃあ性欲に塗れた馬鹿な探索者どもを中層に連れて来てやるとするか」


 それまで会話には参加せず、部屋の中央の地面に右手を置いて何かをしていた楼が立ち上がり、ジョセフと話し始めた。


 そして楼が右手から魔力を放つと、地面に直径一メートルほどの黒い穴が出現する。


 奴はその中に飛び込んでいき――しばらくしてから20名ほどの探索者たちと一緒に戻って来た。



「おいおい、マジでショートカットできてんじゃん!」


「上層にはもう封印はないらしいぜ! 中層はまだ殆ど探されてないからチャンスだ!!」


「ネットにアップされてるやつ見たか? 封印を見つけたらマジであの美女サキュバスにエッチなことしてもらえるらしいぞ!」


「うおぉぉぉーーーーッ! 遂に俺が童貞を卒業する日が来たぞーーーーッ!!」


「私、一度でいいからあんな美しいお姉さまと、濃厚な百合の花を咲かせてみたかったのよね……」


「はい、千円。サンキューな、モンスターにやられて地上に戻されたらまた頼むわ!」



 彼らは楼に千円札を渡すと、喜び勇んで部屋から出て行った。


 先ほどアイちゃんから連絡がきて"楼に注意を払ってくれ"と言われていたが……このことだったのか! 


 どうやら奴の魔術で地上から探索者たちを呼び寄せているらしい。


 しかもちゃっかり輸送代まで請求してやがる……! それもかなりリーズナブルで微妙に利用しやすい値段だ!



 心実さんの解析した楼の魔術――――【神出鬼没の傾国顔(シジルトラヴァース)】。


 右手と左手それぞれから『24時間の時間制限はあるが、距離や空間に関係なくどこにでも行き来できるゲート』と『半径1キロ以内という距離制限はあるが、時間制限のないゲート』を一つずつ作ることができる能力らしい。


 てのひらを押し付けて魔力を流すことでその場所にマークを刻み付け、そして一度刻まれたマークは時間経過か楼本人が消去するまで消えないとのことだ。


 右手のほうは、どうやらダンジョンの中まで対応しているらしい。


 神殿の外がパニックになっている割には入って来る探索者たちが一向に減らないと思っていたが……おそらく最初から入口とは別の場所にこいつのゲートがあって、そこからどんどん人が侵入してきていたのだろう。



「よぉ~し! 桃汰、どんどん連れてこい! ついでに表に待機してる教団の連中に、モンスターにやられて戻ってきた奴ら相手にポーションを格安で販売しろとも伝えておけ!」


「はい、わかりました」


 再び楼が去ると、時を置かずに次から次へとぞろぞろ穴の中から出てくる探索者たち。


 このままでは中層の二つが見つけられてしまうのも時間の問題だろう。


「……楼だ。あいつを何とかする必要がある」


 そして、それは他の誰でもなく……俺がすべきことだ。


 複製を守るだけの理由ではない。ここで俺は――あいつとの因縁にケリをつける……!

☆アイちゃんの豆知識コーナー☆


Q.神殿前めっちゃ混沌としてるけど、警察とか介入しないの? てか機動隊とかで島を封鎖しちゃえばいいじゃん。


A.基本的に警察などの公的組織は裏世界での争い事に関与しません。

 おまけコーナーなのでメタ全開のアイちゃんで行きますよ?

 てめーらはもう忘れていると思いますが、2話で世界観について色々解説されており、裏世界は日本であって日本にあらずということで、政府は裏世界を国政の管轄外として扱っています。

 裏世界で起こったことは全て自己責任であり、国が全く介入しない代わりに責任も一切取らないというスタンスを80年以上ずっと貫いているのですね。

 なのでここで犯罪が起ころうが行方不明者が出ようが警察は動きませんし、自衛隊やレスキュー隊などが救助活動を行うこともありません。

 せいぜい探索者協会が報酬を餌に探索者たちに賞金首討伐や救援活動を行わせるくらいですね。

 ですから八咫烏のような公式には存在しない秘密組織が裏世界関連の様々な事件に対処しているわけですが……組織の性質上、どうしても人手不足になりがちなんですよね。

 そのためこのような人海戦術にはめっぽう弱いというわけです。

 ですが、ワタシたちがやられてばかりで終わると思うのは大間違いですので、次の更新をお楽しみにしやがれです。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 他の奴等も大概クズですが、やはり楼とかいうゴミ野郎が一際どす黒いクズ光を放ってますね…。迅くんには手を汚して欲しくはないですが、一読者としては「この楼とかいうカス、そろそろ○んで…
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