第103話「どぅええぇぇぇぇっぇぇ!?」☆
「――――【貧乏神はあっちいけ】!」
いつものように魔術を発動させた瞬間、アタシに憑いていた貧乏神がスゥ~ッと吸い寄せられるようにアカリちゃんに向かって一直線に飛んでいき――
――バチッ!!
「……へ?」
ピンク色の髪をした少女にぶつかった貧乏神は何故か弾かれ、しかも三体に分裂してアタシに向かって凄い速さで戻ってきた。
「どぅええぇぇぇぇっぇぇ!?」
な、な、な、なんでぇ~~~っ!?
どうなってんのこれ!? 擦り付け失敗???
いやいやいやいや! どう見てもあの娘、アタシより若く、美しく、幸せな、女でしょーが! 全く意味わかんないんですけどーーーーっ!?
『グルルーーーーッ!』
「はっ! ま、まずい!」
貧乏神が戻って来たことによって、狂暴化したイエティは標的をアタシから別の誰かに変えずに、そのままこちらに向かって突っ込んでくる。
しかも魔術の発動が失敗した影響か、身体が一瞬硬直してしまっていた。このままでは確実に食らってしまう!
なぜ失敗したのか分からないが、誰かにまた擦り付けないと! でもアタシの魔術は同じ人物に連続で発動することはできない。
し、仕方ないわ! 今度は佐東鈴香ちゃんに押し付けるしか――
「――――【貧乏神はあっちいけ】!!」
イエティに殴られる既の所で硬直状態から脱出すると、慌てて再び魔術を発動させる。
するとアタシに憑いていた三体の貧乏神が黒髪の美少女に向かって飛んで行き――
――バチ! バチッ!! バチィッ!!!
「ほげぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッッ!?」
一体ずつ弾かれた貧乏神がそれぞれ三体に分裂して、今度は九体になってアタシに向かって戻ってくる。
ど、どういうことぉ~~ッ!? なんで二回連続で失敗してんのッ!?
魔術が発現して2年間で一度もこんなことは起こらなかったのに、何があったっていうのよぉーーーーッ!?
『グウォォォーーッ!!』
「ぎょえぇぇぇぇーーーーーーッ!?」
イエティのパンチがアタシの顔面にクリーンヒットし、思いっきり吹き飛ばされて雪原の大地に顔からダイブする。
真っ白な積雪の上にポタポタと鼻血を垂れ流しながら、アタシは今起こった出来事の原因に必死で頭を巡らせていた。
「い、いやっ……まさか……そんな……」
……な、なんてこと!? そういうことなの!?
ま、間違いないわ……。彼女たち……あれほどの美少女でありながら――
「――――アタシより不幸だっていうの!?」
それしか考えられないわ!
彼女たちは二人とも、誰がどう見てもアタシより若く、美しい、女であることは明らか!
それなのに魔術が失敗したということは……目に見えない部分、不幸という一点に引っかかったとしか考えられない……!
そ、相当よ……それって。
あれだけの美少女でアタシより不幸だなんて、公衆便所で生まれて親に捨てられ、引き取られた家で虐待に遭い、学校ではいじめられた挙句、義理の両親に売春を強要されてるとか……そういうレベルなんじゃないの!?
もしかしたら……それだけじゃなく重病を患っていて余命いくばくもないとか、そんなこともあり得るかも……!
だから誰にも頼らず自分一人の力で生きて行くために、そして病気を治す薬を得るために、裏世界で配信者兼探索者として活動してるんじゃないのかしら……。
な、なんてことなの……! アタシは面白半分でそんな少女たちに不幸を押し付けようとしたというの……ッ!?
――ドォオオン!!
そのとき、雪原エリアの上の方で大きな爆発音が響いた。
さっき若者たちが倒れていた場所の近くからだ。おそらく彼らがグランドスノーゴリラにやられた際に辺りに散らばった爆破玉が爆発したのだろう。
そして、当然というべきか……それによってなだれが起きてしまう。
「あ、あああぁ……!」
アタシの身体は雪に呑み込まれ、一瞬で山肌を滑落し始めた。
運の悪いことに雪に岩や倒木が混じっていたのか、それが全身に容赦なく打ち付けられ、骨が砕けていく感触が伝わってくる。
……これが、報いってわけね。
因果応報、身から出た錆。アタシのこれまでの行為が自分に降り注いでいるというわけか。悪党に相応しい末路だわ。
死を覚悟し、意識が遠ざかりかけたそのときだった――。
誰かがアタシの足を掴んで、雪の中から引っ張り上げてくれる。
「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
「君は……ワンパン男……くん……?」
そこには汗だくで息を切らしている"ワンパン男"くんがいて、その両隣にはさっきまで不幸を押し付けようとしていた美少女二人が、心配そうな表情でアタシのことを見守っていた。
彼らの傍らには、横たわって光の粒子に変化していくグランドスノーゴリラの姿がある。どうやらこの子たちが討伐したようだ。
「迅くん、この人がたぶんダンジョン荒らしですよ」
「……え? そうなのか?」
「はい、僕もこの人から攻撃をされた感覚が一瞬ありました」
「ええ!? 二人とも大丈夫だったの!?」
「一瞬だけ凄い嫌な感じはしましたけど、別に何ともないです。ねぇ、アカリさん?」
「うん、なんだったんですかねぇ~。身代わり藁人形も壊れてないみたいですし」
「う~ん、よくわからないな。この人も普通の探索者のおばちゃんって感じだし、しかも何故か瀕死の大怪我を負ってるし……」
少女二人はジッとアタシを見つめてくる。その瞳には邪気は微塵も感じられず、ただ純粋にアタシの身を案じているようだった。
……ああ、アタシは間違ってたのね。美少女が全員、憎むべき敵だと思ってた。
大切なのは、心だったのよ……。アタシはいつの間にかあの幸良美姫と同じように、心まで醜くなってしまっていたのね……。
「アカリ……ちゃん……鈴香ちゃん……希望を捨てちゃ駄目よ……。どんな不幸な人生だって、きっと良いことも待っているから……。あなたたちの……未来は……明るいはずだから……。決してアタシみたいにならないように……ね。強く……生きるのよ? ……グフッ!」
そう言い終えた瞬間、アタシの意識は真っ暗闇の中に沈んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇
「――強く……生きるのよ? ……グフッ!」
ダンジョン荒らしと思われるおばさんは、慈愛に満ちた瞳で俺とアカリに意味不明な忠告を残すと、ガクッと気を失ってしまう。
……一体この人は何だったのだろうか?
色々準備してきたのになんか勝手に自滅した挙句、訳の分からないことを言い残して倒れてしまった。
「死んじゃったんですかぁ~?」
「ふむ……全身の骨が砕けているようですが、迅くんが早めに救出してくれたおかげで一命は取り留めたようですね。このまま拘束して、表世界に連れて行ってからポーションで治してあげましょう」
「治しちゃって大丈夫か? この人、これでも超A級賞金首らしいけど……」
「魔核は持ってないようなので、表世界だとただのおばさんですよ。拘束さえしていれば何も問題ありません」
このまま探索者協会に引き渡してもいいが……一応雪枝のおじさんに連絡しておくか。
高ランクの賞金首はレアな魔術を持っていることが多いので、殺さずに捕らえた場合、その能力を買われ、首輪をつけられ八咫烏で裏エージェントとして雇用される場合があるのだ。
もちろん犯罪者なので色々な制限は付くし、例えばワカラセマンのような凶悪な人物にはそんな温情は与えられることはないが……このおばさんなら可能性はあるかもしれない。
……とにかく、色々あったけど今回はこれにて一件落着かな。
俺とアカリは見つめ合ってコクリと頷くと、再び頬をぷにっとくっつけ合ってカメラに向き直る。
「アカリと――」
「鈴香の――」
「「年末特別企画! 突撃! 小江戸ダンジョンコラボ配信〜!!」」
「ダンジョン荒らしも無事確保したことですし、これにて今日の配信は終了となります!」
「みなさま、今年一年ありがとうございましたぁ〜! 来年も僕たちのチャンネルをよろしくお願いしますね〜! よいお年を〜!!」
:まさかダンジョン荒らしまで捕まえるとは思ってなかったわw
:付与の巻物に銀トレジャー、そして超A級賞金首を捕らえるとは……この面子持ってる過ぎるだろ!
:マジで面白かったわ~
:おつー! 来年も頑張ってくれよな
:よいお年を〜!
:アカリちゃんとスズちゃんの組み合わせ最高でした!
:ワンパン男もよかったぞ!
:あっという間の時間だったぜぇ~
:年末なのに最後まで面白い配信をありがとう!
:新年最初の配信も楽しみにしてます!
俺たちの元気いっぱいの挨拶とともに、視聴者から沢山の反応が返ってくる。
こうして今年最後の配信は、大盛況のまま幕を閉じたのだった。




