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第101話「魔術玉」

 それからしばらくの間、平原エリア、湖エリア、雪山エリアなど様々な場所を巡り続けた俺たちだったが、あれ以降はレアモンスターとの遭遇には恵まれなかった。


 ダンジョン荒らしもまだ姿を現さない。今日はこのダンジョンに来ていないのだろうか?


「う~ん、お腹も減ってきましたし、そろそろお昼休憩にしましょうか」


「さんせーい! 僕、もうお腹ぺこぺこですよぉ~!」


「じゃあ一旦安全な街エリアに戻って昼食にしようか」


 俺たちは再び街エリアへと戻り、三人並んで無人のお食事処の中に入ると、それぞれの弁当を広げ始めた。


 アカリと俺は手作りのお弁当箱を取り出し、種口くんはコンビニで購入したであろうおにぎりやサンドイッチなどの袋を開封していく。


「二人ともすごっ! それって手作り!? めっちゃうまそうだな……!」


「えへへ~、こう見えて僕、料理には自信があるんですよぉ~!」


「私もお料理は好きなので、少しは腕に覚えがありますよ?」


 アカリが自慢げに蓋を開けて中身を見せると、そこには彩り豊かなおかずと丁寧に盛り付けられた海苔ご飯が詰め込まれていた。


 一方俺の弁当箱には、栄養バランスを考えた野菜炒めや煮物、卵焼きなどがぎっしりと詰まっており、いかにも家庭的な雰囲気が漂っている。



:二人とも女子力たけぇーー!

:スズちゃんは見た目通りだけど、アカリちゃんも料理上手いのは意外だな

:美少女たちの手作り弁当は尊い

:ワイにも一口食べさせろください

:どっちの弁当も食べてみたいわ~

:マジでこの子たちと結婚したい……

:アカリも鈴香も俺の嫁



 ふむ……視聴者は騙せたようだが、ガチで料理をする俺の目はごまかせんぞ。


 こいつ、半分以上冷凍食品を使ってやがる……。駄目とは言わんが、それで料理が得意と自称するのはいただけないな。


「鈴香、おかず交換しようよ~。僕、その卵焼き欲しいなぁ~!」


「ふふ、いいですよ。代わりに唐揚げ貰いますね?」


 きゃっきゃとおかずを交換し合う俺たちを、種口くんがじーっと見つめている。


 俺とアカリは目を合わせると、自然にふわスラを動かして一瞬だけ弁当が映らないように画面を遮り、種口くんにおかずを分け与えた。


 彼は「いいの?」と視線で尋ねてくるが、俺たちがこくりと頷くと、嬉しそうに箸で掴んで食べる。


 さすがにカメラの前で俺たちの弁当をあげると視聴者から彼が叩かれる可能性が高いので、こうやってこっそりお裾分けしたわけだ。


 アカリも普段はアホに見えるが、人気配信者なだけあってこういうところはしっかりしている。


「「「ごちそうさまでした~」」」


 お弁当を食べてリフレッシュした俺たちは、午後の探索を開始すべく席を立つ。


「ワンパン男さん、そろそろツノマルが復活する頃じゃないですかぁ?」


「あ、そうだったな。よし、召喚してみるか! ……来いっ、ツノマルっ!!」


 種口くんが声を上げると、彼の前に黒い渦が現れ、ツノマルが飛び出してきた。


『ワンッ!』


「おお、ちゃんと呼び戻せたな!」


「やっぱりかわいい~! でも、今度はすぐにやられちゃわないように気をつけないとですね~」


「……あれ? 街中なのにツノマルが反応していますよ?」


『ワンッ、ワンッ!』


 ツノマルはお食事処の中をうろうろと歩き回り、やがてある物に近づくと尻尾を振って止まった。


 部屋の隅に置かれている埃の被った木箱だ。


 一見すると何の変哲もないダンジョンのオブジェクトに見えるが、まさか……。


「迅くん、アカリさん。出口を塞いでネズミ一匹逃がさないようにしてください」


「……え? あ、ああ。わかった!」


「了解でーす!」


 二人が出口を塞いだのを確認すると、俺は腰からテンタクルウィップを引き抜き、木箱に向かってしならせた。


 鞭の先端が箱の表面を叩くと、埃がブワっと舞い上がってその下に隠されていた銀色の光沢が露わになる。



『にゅーーーーッ!?』



 木箱改め銀色の宝箱は手足を生やして飛び上がると、慌てたように出口の方へと猛ダッシュで逃げ出した。



:トレジャーボックス!!

:しかも銀色やんけ!

:めちゃくちゃレアだぞこれ!

:街中にもいるのかよ! これ拡散されたら低ランク探索者殺到するんじゃね!?

:ツノマルやるやん!

:速すぎぃぃぃ! 捕まえられるのか!?

:でもワンパン男が出口にハリケーン発生させてるから逃げれねぇー!



 種口くんが咄嗟に出口に暴風を起こして塞ぐと、銀色の宝箱は部屋の中を超スピードで逃げ惑う。


 とてつもない速さではあるが、狭い室内ではその機動力を発揮しきれていない。


 それでも必死に逃げ回るトレジャーボックスだったが、俺が地面に鞭を打ち込んで震動を与えてバランスを崩した瞬間、アカリの爆散蹴りが炸裂した。


『にゅにゅ~~ッ!』


 断末魔の叫びとともに、銀の宝箱は光の粒子となって消えていく。


 そして、地面にはコロコロと野球ボールほどの大きさをした銀色の球体が転がった。



:ナイスー!!

:うおぉぉーー!

:銀トレジャー倒したの生で見るの初めてだわ

:やっぱ人気配信者は持ってるなぁ~

:あの銀色の玉なんだろう?

:見たことないしユニークアイテムじゃね!?

:ワクワク……鑑定はよ!



「やりましたね!」


「さすが僕! 褒めて褒めてぇ~!」


「佐東さんもよく気づいたし、アカリさんもナイスな蹴りだったぞ!」


『ワンッ!』


「ああ、ツノマルも良くやったな。お前の鼻がなかったら見つけられなかったよ」


『キュゥン♪』


 嬉しそうにツノマルの頭を撫でながら、種口くんは床に転がる銀色の玉を拾い上げる。


「はい、僕の鑑定の巻物使ってください!」


「ありがとう! じゃあ早速見てみるか……」


 アカリから渡された鑑定の巻物を開き、銀色の玉をその上に乗せる種口くん。


 すると巻物に文字が浮かび上がり、その性能が明らかとなった。




【名称】:魔術玉


【詳細】:これを握りしめて魔術を使うことによって、中にその魔術の効果を保存することができる。なお、特殊条件型のような魔術は保存することができず、シンプルな攻撃系や防御系の魔術だけが対象。保存した魔術は誰にでも使用可能だが、一度使うと中の効力は失われてしまう。魔術が保存されている状態では、玉は銀色から金色へと変化する。中身が空っぽになれば、何度でも使用可能。




:おお、なかなか面白いアイテムやな!

:強い魔術師の仲間がいたら雑魚でも格上のモンスターと戦えるかもしれん

:うーん、でも一個で一回だから微妙じゃね?

:いや、何回も使えるのはでかいだろ

:もっとわかりやすい武器とかがよかったな

:使い方次第ではかなり有用だと思うけど



 視聴者たちがコメントで語っているように、これは仲間に強力な魔術師がいればかなり役立つだろう。


 しかし先ほどの雷耐性と同じように、少し地味な効果なのであまり視聴者には受けが良くなかったようだ。炎を纏った剣とかシンプルに強そうでカッコいいやつのほうがみんな好きなんだろうな。


「確かに便利そうなアイテムだけど……どうする? 二人が欲しいなら譲るけど」


「うーん、僕はそこまで欲しいアイテムってわけではないですねぇ~」


「とりあえず迅くんが持っていてください。後で私たちが必要になったら貸してもらうときもあるかもしれませんが」


「わかったよ。大切に保管しておくね」


 意図せずレアアイテムを入手できた俺たちは、満足気にお食事処から出て探索を再開しようと足を踏み出した。

 

 だが、そのときだった。


 ――ドォオオオン!!!!


 突然、近くで大きな衝撃音が響き渡り、大地が揺れるほどの振動を感じる。


「なんだ!?」


「雪山エリアの方角からでしたよ!?」


「行ってみましょう!」


 俺たちは急いで騒音が聞こえてきた方向へと向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 全長10メートルを超える巨大な白いゴリラの様なモンスターが、咆哮を上げながら辺りを破壊していたのだ。


 モンスターは白い体毛を逆立て、大きな腕で周囲の岩を砕き、狂ったように暴れまわっている。奴の近くには数人の探索者が倒れており、辺りにいる人たちは必死に逃げだそうと四苦八苦していた。



:デカァァーーーイ!

:なんじゃありゃー!?

:イエティか?

:いや、イエティはあんなデカくないだろ

:グンマに出没するグランドスノーゴリラだな

:さすが川越、大魔境グンマほどではないが魔境

:川越ではよくあること

:ねーよw 危険度5の小江戸ダンジョンには出現しないはずのモンスターだぞ

:ってことはまさか……!



「これはダンジョン荒らしの仕業ですねー!」


「ええ、強化の巻物をモンスターに使ってパワーアップさせる。ネットで見た奴の荒らし行為の一つです」


「くっ、とうとう出やがったか。近くに奴がいるかもしれない! 注意していこう!」


 強化の巻物は本来魔道具の武器や防具を強化するアイテムなのだが、モンスターに使うとなんと敵を一段階上のランクに進化させることができるのである。


 もちろんそんなことをわざわざする探索者は普通はいないが、ダンジョン荒らしはこのような手段を使い、低ランクのダンジョンを地獄へと変えてしまうのだ。


 今回はイエティと呼ばれる雪男モンスターに強化の巻物を使用して、強大なグランドスノーゴリラに進化させたと見てまず間違いないだろう。


「周辺に高ランクの探索者はいないようです! ダンジョン荒らしに警戒しつつ、まずは私たちでこいつを倒しましょう!」


「了解ですぅー!」


「ああ、行くぞ!」


 俺たちは態勢を整えると、暴れ狂うグランドスノーゴリラに向けて走り出した。

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