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第100話「付与ガチャ」

「さいっきょ~~にかわいい僕のぉ~~"爆散蹴り"!!」


『『『ギャウンッ!』』』


 空中を飛び回っていたアカリが、鋭く落下しながら角の生えた狼たちに強烈な踵落としを食らわせると、轟音と共に爆発が起こり、数体まとめて吹き飛んでいく。


 アカリの戦闘手段は蹴りを主体とした徒手空拳だ。


 左右の足に装備している白と黒のブーツには、付与の巻物によってそれぞれ"空中蹴り"と"爆破"という特殊効果が付与されている。


 空中蹴りは文字通り何もない空中を踏み込めるという効果で、これによって周りに足場がなくても立体的な攻撃を繰り出せるのだ。


 一回のジャンプで一度しか踏み込めないが、一度地面に靴をつけると効果が復活するという仕様になっている。


 そして爆破は、その名の通り蹴りつけた場所に爆発を起こすことのできる効果で、基本はそこまで威力は高くないのだが、靴に込める魔力量によっては今の狼たちのように数体まとめて粉砕してしまうほどの火力を出すことも可能だ。


「えいえいえいえい! テンタクルウィップ乱れ撃ちです!」


『ワフーンッ!?』


 俺たちは現在、森林エリアで遭遇したホーンウルフの群れと戦闘中だった。


 アカリが複数体吹き飛ばしても尚、まだ十数体の狼たちが残っており、俺は黒い鞭を操り奴らの足元をすくって転倒させていく。


 すると俺たちの後方で魔王の封印を解除して力を溜めていた種口くんが、右の拳に禍々しいエネルギーを纏わせて大きく振り上げた。


「くらえっ――――"ハリケーンパンチ"!!」


 種口くんが拳を振り下ろすと、彼の右手から嵐のように渦巻く強烈な衝撃波が放たれ、横たわっている狼たちをずたずたに切り裂いていく。


 辺り一面に光の粒子が舞い散り、先ほどまで響いていた狼たちの喧騒が嘘のように静まり返ると、俺たちは満足げに笑い合った。


「さっすがワンパン男さん! 僕と鈴香のサポートが必要ないくらいお強くなられましたねぇ~!」


「いや、俺一人じゃここまで一方的には倒せなかったよ。二人ともサンキューな」


「ふふ、お役に立てたようでよかったです。しかし徐々に魔王の力も使いこなせるようになってきましたね」


「正直言ってまだまだだよ……。知り合いに調べて貰ったんだけどさ、本当はもっと色々な自然災害を起こしたり凄いことができるらしいんだけど、俺には到底使いこなせそうにないから、今はハリケーンだけをひたすら極めることに専念してるんだ」


 これは八咫烏のみんなで相談して決めたことだ。


 魔術は目覚めた瞬間にどういう能力なのか、感覚的に自分で理解することができるのだが、後天的に身につけた魔王の力はそうはいかない。


 なのでまずは心実の【鑑定眼アンヴェイリング・ゲイズ】で【全てを招くモノ(ストーミーペトレル)】の情報を読み取り、そこからどういった能力なのか分析し、全員でどう活用していくか考えたのである。


 その結果、まずは種口くんのパンチと相性の良さそうなハリケーンだけを集中して習得しようと結論が出たというわけだ。



:ワンパン男強くなったなー

厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)なんだから当然、というか他と比べたらこれでも弱すぎるくらいだが

:スズたそも修練の塔のときと比べて大分強くなった感じがするな

:アカリちゃんは相変わらず華麗な立ち回りがエモすぎる

:やっぱ鈴香もアカリもかわいすぎてヤバいわ

:かわいくて強い……これはもう無敵か!?

:あれ……? なんかホーンウルフが一体復活してね?

:マジだ。なにこの現象、見たことないんだが?



 視聴者の声に釣られてアカリと一緒に周囲を確認すると、光の粒子となって消えたはずのホーンウルフが一体だけ復活していることに気づく。


 しかし俺たちに攻撃してくる様子は一切なく、狼はなんだか邪気の抜けたようなつぶらな瞳で種口くんの方をじっと見つめていた。


「なんですかこれ? 鈴香先生、解説お願いしまぁ~す!」


「これは……もしかしてワンパン男さんの魔王の力ではないでしょうか?」


「そ、そういえば知り合いに調べて貰ったとき、倒したモンスターを極稀に配下にすることができる能力があるって言われたけど、まさか……」


「ああ! あの巨大怪鳥、黒い渦からいっぱいモンスター召喚してましたよね! つまりは"招く"能力の一部ってわけですかー!」


 種口くんがホーンウルフに触れると、その姿が光に包まれて彼の右手の甲にある外魔核の中へと吸い込まれていく。


「うん、なんか感覚的にわかったよ。俺、今こいつを使役したみたいだ」


「おお~、これでいつでも召喚できるようになったというわけですか……。これは今後、モンスターを倒す楽しみが増しますね」


「モンスターを仲間にするとかド〇クエの勇者みたいですごーい! いいなぁ~、僕もその能力ほしいですぅ~!」



:やっぱり厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)はやべーわw

:ゲームみたいで憧れるわー!

:これは羨ましい

:ワイもサキュバス大量に配下にしたいんご……

:おいワンパン男! サキュバスいたら配下にして店を開け!

:↑天才かな?

:ワンパン男さんのサキュバス店にはいつオープンするのですか……?

:おまえら欲望全開すぎだろw



 おっと、視聴者の思考が一気にサキュバスに支配されてしまったようだ。


 モンスターを仲間にできる能力で真っ先にその考えに至るとは、本当に男というのはどうしようもない生き物である。


「ねーねー、ワンパン男さん! 早速さっき仲間にしたホーンウルフ出してみてくださいよぉ~!」


「よ、よし……試してみるか! いでよ! 我が下僕よ!!」


 種口くんが"伊喜利(いきり) 晴武(はれむ)"さながらに右手を突き出し叫ぶと、空中に黒い渦が出現して、そこから先ほど吸収されたばかりのホーンウルフが出現する。


 狼はこちらを見つめると、まるで忠誠を誓うように一声鳴いた。


『ワンッ!』


「「わぁ~、かわいいぃ~~!」」


 俺とアカリは手を合わせてきゃっきゃと喜びながら、種口くんのそばにちょこんと座っているホーンウルフを眺める。


 視聴者に媚びるためにちょっと大げさに振舞ってはいるが、実際にかなりかわいい。敵だったときと違い邪気は完全に消え失せ、瞳もつぶらで鳴き声も普通の子犬のようだ。


 嬉しそうに駆け寄って、もふもふの毛並みを撫でるアカリ。


「うわぁ~! もっふもふで触り心地最高ですぅ~! かわいいなぁ~! ワンパン男さん、名前付けてあげましょうよ!」


「そうだな。うーん、どんなのがいいかな……。佐東さんは何か案ある?」


「そうですねぇ……。角が生えてるから"ツノマル"なんてのはどうでしょう?」


「な、なんか喋る白い馬の漫画を描いてそうな名前だけど、確かに角が生えてて肉球がまん丸だからピッタリかもな……。よし、今日からお前の名前はツノマルだ!」


『ワンッ!』


 気に入ってもらえたのか、ホーンウルフ改め"ツノマル"はぴょんぴょん飛び跳ねながら大喜びしている。


「ところでこの子、どんなことができるんですぅ~?」


「……ちょっと待って、どうやらステータスを確認できるみたいだ」


 う~ん、と少し眉をひそめながら精神を集中させ、目を閉じて思念を巡らせている種口くん。


 すると程なくしてツノマルのステータスが浮かび上がったようで、その内容を俺たちに教えてくれる。


「こいつの能力は……匂いを嗅ぎ分けてモンスターや宝箱を発見してくれるみたいだな」


「わぁ~、それは便利ですねぇ~!」


「……おや、早速なにかを見つけたのか走り出しましたよ?」


 ワンワンと吠えながら森の奥へと駆けていくツノマルの後を追いかけていると、前方に透き通るような綺麗な青色をしたスライムが一匹佇んでいるのが見える。


 あれはストレングスライムだな。いきなりレアモンスターを見つけてくれるとは、もしかしたらかなり優秀な子かもしれないぞ。


「でかしたぞツノマ――」


『プルルルッ! ジュワッ!』


『ワフ!? きゃうぅぅ~~ん……』


 種口くんが褒めるよりも早く、ツノマルはストレングスライムの放った溶解液を浴び、光の粒子となって消えてしまった。


「「「つ、ツノマルーーーー!!」」」



:草

:弱すぎワロタwww

:ワンちゃんもう退場かよw

:仲間にしたら敵だったときより弱くなるパターンかw

:スライム系は中にある核を潰せば余裕だけど、溶解液放ったり毒持ってたりするやつもいるから侮れないんだよな

:ツノマル……短い命だったな……

:消え方からしてたぶん復活できるだろw



「このーーーーッ!」


『プルルルッ!?』


 アカリが怒りを露わにしながら足を振り上げ、ストレングスライムに向かって蹴りを放つ。


 その一撃により、綺麗な青色をしたボディーの中心にあった核が砕け散り、青い体液が爆散して破裂した。


「……迅くん、ツノマルは大丈夫なんでしょうか?」


「うん、倒されても最初は一時間経てば復活できるらしい。育てるとどんどん強くなるみたいだけど、復活までの時間も延びていくっぽいな」


「よかったー……って、ワンパン男さん、鈴香、見て見て! 巻物がドロップしましたよ」


「あ、本当ですね……。しかもこれ、強化じゃなく付与のほうじゃないですか!?」


「マジか!? 中々出ないって聞いてたのに運が良いな!」


 不思議な幾何学模様が描かれている巻物が地面に落ちており、種口くんが興奮しながらそれを拾い上げる。


「誰が使う?」


「はいは~い! 僕が使いたいでーす!」


「私もテンタクルウィップに何らかの能力を追加できれば、と思っているのですが……」


 付与の巻物は、何の能力もない武具にだけでなく、最初から特殊効果が付与されている武器にも一回だけ使えるのだ。


 なので例えばテンタクルウィップにアカリが使っているような爆破機能が追加されたら、自由自在の延びる上に拘束した相手を爆発させたり、広範囲に広げて薙ぎ払えば範囲爆破攻撃みたいなこともできる凶悪な武器となるだろう。


「俺もこの手甲に付与できるならやってみたいんだけどな……」


 アカリが勝手に自分のサインと似顔絵を描いた左手の手甲を、じっと見つめながら呟く種口くん。


 あれは俺が彼に出会った頃から愛用しているもので、ずっと使っているとは思えないくらいに綺麗で、傷一つ見当たらない。


「もしかしてそれって、結構なレアアイテムですか?」


「うん、姉さんが俺が探索者になるときにプレゼントしてくれた物でさ。"祝福の手甲"っていって自動修復機能が付いているんだ。だから壊れる心配がないからめちゃくちゃお世話になってる」


「……え?」


 種口くんから伝えられた情報に、思わず絶句して冷や汗を垂らすアカリ。


 アカリも彼のお姉さんが"全てを飲み込むモノ(ヒュージオリフィス)"に飲み込まれてしまったことを既に知っている。つまり、奴はお姉さんの形見ともいえる品に勝手に落書きをしてしまったわけだ。


「わ、ワンパン男さん。是非この巻物を貴方に使っていただきたいと思いますぅ~……。ね! 鈴香もそれでいいよね!?」


「しょうがないですね~。それでは今回は迅くんに譲りましょう」


「いいの? ……よしっ、じゃあ遠慮なく使わせてもらうぞ!」


 いつもは遠慮がちな種口くんも、さすがに付与ガチャは楽しみなようで、勢いよく巻物を開くと、祝福の手甲をその上に置いた。


 すると手甲全体が淡い金色の光に包まれて、何らかの特殊効果が付与されていく。


 同時に巻物の表面に文字が浮かび上がる。今回付与された能力の詳細がここに記載される仕様なのだ。


 俺たちはワクワクしながらその内容を覗き込んだ。




【能力】:雷耐性(大)


【詳細】:装着者は電気属性に対するダメージを大幅に軽減することができる。




:び、微妙ぅ~~~~!

:耐性(大)だから外れってわけじゃないがなんとも地味だなw

:そもそも雷を使うモンスターはそこまで多くないから汎用性が低い

:俺的には外れだな

:いや、使い方によってはかなり有用じゃね?

:ああ、雷系の武器を手に入れたら一気に化けると思う

:さすがにいきなりチート能力は出てこないかw



 視聴者の反応と同じように、俺たち三人もちょっと微妙な表情になってしまった。


 耐性系の能力は、小、中、大、無効と四段階あって、無効はほぼ報告がないレベルの激レアなので、大でも本当は当たりの部類ではあるのだが……。


 どうしても自分の愛用している装備に使うときは何かチート級の能力が得られることを期待してしまうので、ガッカリ感が大きいのだ。


「うん、期待してたのとはちょっと違うけど、これも立派な強化だ。大切にするよ! ありがとうアカリさん、佐東さん!」


「そ、そうですよね! きっといずれ役に立ちますよぉ~!」


「ふふ……でもいきなり付与の巻物を手に入れられたのは幸先いいですよね。この調子で次のレアアイテムを求めて探索を再開しましょうか!」


「「おおーー!」」

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