第099話「小江戸ダンジョン」
「それにしても、ダンジョンの中にもこんなに人がいるなんてびっくりだな……」
ダンジョンの中に入っても周りに沢山の人影があったので、種口くんが驚愕しながら呟く。
「関東で一番人気ってだけありますよねぇ~。鈴香、このダンジョンを知らない視聴者やワンパン男さんのために、概要説明をお願いできますかぁ~?」
「お任せくださいアカリさん! ここは危険度5の非消滅型ダンジョンで、大きく分けて三つの特徴があります」
ダンジョン内を三人で歩きながら、俺は女教師がかけるようなスクエア型のメガネを装着すると、ふわスラのカメラに視線を向けつつ人差し指を立てて解説を始めた。
「まず一つ目は、色々なエリアがあるということですね。今私たちがいる街エリアは殆どモンスターの出現しない安全地帯で、休憩できるスペースや、なんとトイレまで完備されています」
「それは超助かりますねぇ~。普通のダンジョンだと用を足すのも大変なんでぇ~」
……といっても、お食事処など色々なお店があっても中は無人だし、買い物とかはできない。完全に雰囲気を楽しんだり休憩したりするためだけのエリアだ。
トイレも江戸時代っぽいぼっとん式のやつだし、そこまで便利なわけではない。
まあ便器の下に排泄物やティッシュを分解してくれるスライムがいるから、衛生面は問題ないけれど。
「そして一歩街の外に出ると、平原エリア、湖エリア、森林エリア、山岳エリアなど複数のステージが広がっていて、そこに様々な種類のモンスターが出現するんです」
「つまり一つのダンジョンでぇ~、いろんな景色やモンスターを楽しめちゃうってことですねぇ~?」
「はい、色々なモンスターがいるということは、それだけ多種多様なドロップアイテムも入手できることを意味しますから、とてもお得なダンジョンと言えるでしょう」
アカリと二人で軽快なトークを繰り広げると、視聴者たちから感嘆のコメントが寄せられる。
:さすが鈴香先生!
:俺、アカリちゃんの視聴者だけど説明担当いると助かるわ~
:僕もアカリファンだけど鈴香ちゃんめっちゃ可愛くてもう好きになった
:この二人案外相性良さそうだな
:眼鏡スズたそかわいすぎワロタw
:ワイもスズちゃん先生のエッチな授業受けたいよぉぉ~
:ダンジョンなのに街や自然の景色が綺麗で最高の場所だよな
:関西地区にも似たようなダンジョンが欲しいぜ……
「で、特徴の二つ目は、"ストレングスライム"という特別なスライムが稀に出現することですね」
「透き通るような綺麗な青色をしたスライムで、強さは普通のスライムと変わりないんですけどぉ~、それを倒すと"強化の巻物"をドロップすることがあるんですよねぇ~」
「はい、強化の巻物は使用すると魔道具の武器や防具などの性能を永続的に強化してくれるという、とても便利なアイテムなんです。最初から強い高レアリティの魔道具には効果がないんですが、低レアなら数回、中レアのものでも一回は使えるので、探索者の中では大人気なんですよね」
「高尾山のモヒカンザルから入手したノーマルの剣とかでも、この巻物で鍛えたら結構な強さになりますからねー」
「さらにストレングスライムのレアドロップに"付与の巻物"という希少なアイテムがあって、これがこのダンジョンに上級者が集まる理由の一つなんです」
「上級者まで欲しがるなんてなんだか凄そうだけど、どんなアイテムなんですか~? 鈴香先生教えてくださぁ~い」
「ふふふ、いい質問ですね、アカリさん。付与の巻物は、武器や防具やアクセサリーなどにランダムで特殊効果を追加してくれる魔道具なんです。同じアイテムには一度しか使えませんが、運次第で何の変哲もない武器が伝説級の武器になることもあるんですよ?」
「ガチャ! まさにガチャですね! 僕もガチャ大好きですぅ~。これはこのダンジョンに人が群がるのも納得ですねぇ~」
:付与の巻物は本当に素晴らしいガチャだよな
:たまーにスゲー効果がつくからドキドキする
:俺も一回くらい使ってみたいけど、レア過ぎて一度も手に入れられてない……
:みんな絶対自分で使うから市場にも流れないしな
:高尾山でモヒカンザルから武器や防具を入手→小江戸ダンジョンで強化の巻物と付与の巻物を狙うの流れはもはや関東の探索者のテンプレだよな
:あ~、俺も早く小江戸ダンジョン行けるレベルになりてー!
:羨ましい……Eランクの俺には縁のない話だ
:プロになったらDでもギリギリ行けるで。危険度5だけど街の周辺はそんな凶悪なモンスター出ないし、たまにだけどストレングスライムも出現するからね
:このダンジョンは周りに他の探索者が沢山いるから死ぬ前に助けて貰えるしな
俺たちの解説に、視聴者の間で賑やかなやり取りが飛び交う。
みんなガチャ大好きだからな。探索者としてトップオブトップの戦女神の聖域のメンバーですら、付与の巻物を使うときはみんなワクワクしてるくらいだし。
「それで、最後の一つは何なんですかぁ~?」
「三つ目もまさに今話題になったガチャ要素ですね。このダンジョンでは一定確率で"トレジャーボックス"というモンスターが出現するんです」
「またしてもレアモンスターですか。どんなモンスターなんですかね~?」
「手足が生えた宝箱のようなモンスターです。戦闘能力は皆無ですが、非常に素早く探索者を見ると即座に逃亡するという特徴があって、銅、銀、金の三種類が存在し、倒すと希少な魔道具を落とすんです」
「なるほどぉ~。いわゆるお宝モンスターってわけですねぇ~。銅が一番レアリティが低くて、金が一番高いって感じですか?」
「そうですね。金は本当に滅多に出現しないので、見たことない人も多いと思います。ですが銅ですら結構レアなアイテムを落としますし、中にはこのモンスターしか落とさない世界で唯一のユニークなアイテムもあると言われていますから、見かけたらなんとしてでも討伐したいところですね」
:危険度5なのに、このダンジョンの金トレジャーからエリクサーが出た報告もあるよな
:そりゃ上級者も集まるわ
:でも本当に滅多に出現しないからあまり期待しないほうがいいぞ
:ストレングスライム狙いでトレジャーボックスはついでの感覚でいい
:銅トレジャー見たことあるけど早すぎて倒すの無理だったわ……
:あぁぁぁ! 俺も早くここに行きたいよぉぉ~
:アカリちゃん、スズちゃん、そろそろ探索開始しようぜ!
:ああ、この二人ならなんかトレジャーボックスと邂逅できそうな気がするわ~
:お前ら、喋ってないからってワンパン男のこと忘れてやるなよw
と、このような三つの特徴から、小江戸ダンジョンに行けるくらいまで成長した探索者たちは、こぞってこの場所に集まって来るわけだ。
……さて、これで概要説明も終わったし、そろそろ視聴者も痺れを切らしているようなので、早速ダンジョン攻略を始めていくことにしよう。
ダンジョン荒らしの討伐も目的の一つだが、奴はいつ現れるかわからないし、警戒しつつもまずは配信者としての務めを果たさなくてはな。




