第098話「年末特別コラボ配信」
「おぉ~、ここが小江戸ダンジョンか……。年末だってのに賑わってるな~」
「関東で一番人気のダンジョンですからね。脱初心者から中級者、それに上級者まで幅広い層の探索者が訪れるので、年中人で溢れているんですよ」
「僕と鈴香の注目の新人ツートップのコラボ配信が始まるってなったら、もっと大勢の人が集まっちゃうかもですね~!」
――年の瀬迫る12月29日。
俺とアカリと種口くんの三人は、埼玉県川越市にある有名スポット、『時の鐘』の裏側にある『小江戸ダンジョン』に来ていた。
ネットで情報収集した結果、最近はここにダンジョン荒らしと思われる人物が頻繁に出没しているらしいとの噂を聞きつけたからだ。
大勢の人が並んでいるダンジョンの入り口の列で順番待ちをしていると、他の探索者たちからチラチラと好奇の視線を向けられる。
「おいおい! あれ、佐東鈴香ちゃんとアカリちゃんじゃね!?」
「うっわ、本物だぁ~! マジ可愛いっ!」
「やっべ! こっち見て手振ってくれたぁ!」
「ちょっ! 君何写真撮ってんの!? マナー違反だよ!」
「すみません! 友達に自慢したくてつい……」
俺たちの存在に気づいた探索者たちが次々と声をかけてくるので、俺とアカリはニコニコしながら丁寧に対応する。
ちらりと隣に視線を向けると、俺たちに匹敵するレベルの有名人であるはずの種口くんは、誰からもスルーされていた。おそらく八咫烏のペンダントで存在感を消しているのだろう。
アカリと二人でサインを書いたり握手をしたりとファンサービスをしていると、いつの間にか俺たちの番がやって来たので、鐘の下にある魔法陣の上に立ってダンジョンの中へと足を踏み入れた。
「へ~、ダンジョンの中なのに空も建物もあって、なんだか街の中にいるみたいだな」
「まさに江戸時代の日本って感じの景色ですね!」
「だいぶ変わったダンジョンですよね~。でも僕、こういう場所は観光気分で楽しめるから結構好きですよぉ~」
俺たちの眼前に広がるのは、まるで映画のセットのように整然と立ち並ぶ、歴史を感じさせる町並み。まるで過去の日本にタイムスリップしたかのようで、種口くんとアカリも興味深そうに周囲を見渡している。
街の外を見れば、遠目には森や川や雪山など様々な地形が広がっており、ダンジョンの中心部と思われる場所には、霧に包まれた立派な城が鎮座していた。
あれは通称『裏川越城』と呼ばれており、あそこの最奥にボスモンスターがいるらしい。
「よぉし! それじゃー早速配信始めましょうかぁ~! ワンパン男様ぁ、準備はよろしいですかぁ~?」
「あ、うん。俺はOKだよ」
「待ってくださいアカリさん、迅くん。もう一度ダンジョン荒らしの能力について整理しておきましょう」
俺がピッと右手の人差し指を立てて注目を促すと、種口くんもアカリも動きを止めてこちらに向き直る。
「ダンジョン荒らしの魔術は特殊条件型で、おそらく不可視かつ防御不能の攻撃。そして呪いやそれに準ずる何かを対象に付与するものだと思われます」
「うん、スカーレットさんと姫奈さんに聞いた話だと、何らかの攻撃を受けた嫌な感覚はあったけど、それが何だったのかまではわからなかったって」
「即死や肉体に大ダメージを与えるようなものじゃないのは助かるけど……それじゃあ攻撃されたら避けようがないんじゃないか?」
「アカリさん、例の物を持ってきてくれましたか?」
「もちもちのろんろ~ん! はいどうぞぉ~!」
「これは……藁人形か?」
アカリがバッグから取り出した不気味な藁人形を受け取った種口くんが、首を傾げる。
「これは呪いや状態異常、それに準ずる攻撃を一度だけ防いでくれる魔道具、"身代わり藁人形"です」
「結構レアな魔道具なんですよぉ~。U・B・Aの倉庫にも三個しかなかったのを、僕が忍先輩に無理言って借りてきたんですから、大事にしてくださいねぇ~!」
「なるほど、これでダンジョン荒らしの不意打ちを防ぐわけか……」
「はい、私が調べた情報から推測するに、ダンジョン荒らしの魔術の射程距離はアカリさんの【天秤ノ契】と同様に自分が視認できる範囲内限定だと思われます」
「だから誰かが攻撃を受けて藁人形が壊れた瞬間、僕が魔術を発動して奴との位置を入れ替える。そしてワンパン男様と鈴香が瞬時に無力化って感じですぅ~!」
「めちゃくちゃシンプルな作戦だけど、そう上手くいくかな?」
「ダンジョン荒らし自体の戦闘能力はかなり低いみたいなので、身代わりが成功してアカリさんが位置を交換できた時点でほぼ勝ち確定と考えています。ただ――」
「ただ?」
「奴の能力の詳細が全く不明な点が怖いですね。身代わり藁人形すら貫通する可能性もゼロではないし、それに殆ど魔力を使うことなく魔術を連発できる可能性も極めて高いです。なのでもし想定外の事が一つでも起こった瞬間、全力で逃走することにします」
「僕は逃げるのは反対だったんですけどねぇ~。でも今回はワンパン男様も一緒だし、安全第一で行きましょ~」
「うん、俺もそれがいいと思うよ。相手はSランク探索者二人を退けた大物なんだし、無理せず慎重に行こう」
作戦会議が終わると、俺たちは揃ってコクリと頷き合い、"身代わり藁人形"の中にそれぞれ自分の髪の毛を入れてポケットにしまう。
「とにかくダンジョン荒らしが見つかるまでは、小江戸ダンジョンの攻略配信ということにしましょう」
「はぁ~……配信かぁ~。また俺、滅茶苦茶に叩かれそうで怖いんだけどなぁ……」
種口くんが大きく溜め息を吐くが、すぐに気持ちを切り替えたのか表情を引き締めた。
まあ、美少女配信者(本当は美少女配信者(♂)だが……)に挟まる男はどんな状況でも敵視されてしまう運命なのだ。かわいそうだが仕方ないだろう。
「じゃあ今度こそ、配信開始しまぁ~す!!」
アカリと俺はお互いに自分のふわスラを空中に浮かべると、マイクやイヤホンのチェックをしてから頬っぺたをぷにっとくっつけ合う。
当然視聴者サービスである。俺たちはプロなので普段あまり仲が良くなくても、配信中はそういう空気を一切出さないのだ。
さあ、そろそろ始めるぞ!
「アカリと――」
「鈴香の――」
「「年末特別企画! 突撃! 小江戸ダンジョンコラボ配信〜!!」」
:きたあああああああああああ!!
:うおおおおお!
:始まったああああああ!!
:マジでコラボしてる!
:奇跡のコラボすぎるだろ!?
:アカリちゃんかわいいぃぃーー!
:スズたそもきゃわ!
:やばい! かわいすぎんだろ!
:美少女同士が柔らかそうな頬っぺたをぴったり合わせてる……
:これは尊い
:今年最後の一大イベントだ!
配信が始まった瞬間、コメントが爆速で流れ始める。
俺たちはこれでも今年の上半期と下半期それぞれの注目の新人ランキング一位の超人気配信者なので、その相乗効果は絶大だった。
「やっほーみんな~、アカリだよ~!」
「アカリさんのチャンネルの皆さんは初めましてかもしれませんね。佐東鈴香です、よろしくお願いします!」
「ど、どうも~……。ワンパン男です……」
:ワンパン男キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
:草
:百合に挟まる男おるやんw
:きえろ、ぶっとばされんうちにな
:美少女二人に男一人って……完全にハーレムじゃねえか
:消されたくなければ余計なこと言わず邪魔だけはするなよ?
:視聴者いきなり殺気立ってて草
:俺はこいつも好きだからマジで神回だわwww
「まあまあ皆さん落ち着いてくださいよぉ~。可愛すぎる僕たちの傍に男の人がいるのは不安かもしれませんが、ワンパン男さんには護衛として来てもらったんです」
「最近このダンジョンに危険な賞金首が出るって噂がありますので、私たち二人だけだと心細かったので呼んだんです」
「視聴者の皆さん、今日は二人の邪魔をしないように護衛として後ろに控えてますので、俺のことはあまり気にしないでもらえると幸いです……」
:ああ、噂のダンジョン荒らしね
:あれマジでやべぇよな。アマゾンガーデンが敗走したらしいじゃん
:確かにスズたそとアカリちゃんが狙われたら危険かも
:美少女たちの壁役は必要か……
:ぐぬぬ……なら致し方ないか
:こいつはマジであまり邪魔しないから護衛としては最適だと思うぞ
:ワンパン男。俺はお前のことは信用してるぜ
:ふん、今回だけは許してやろう……
:俺は正直男がいるのは気に食わんが、ワンパン男は二人を命懸けで助けた功績があるから我慢するわ
やはり百合(♂)に挟まる男の存在はどうしても許容できない層も多いようだが、種口くんは俺とアカリどちらも命を張って助けた実績があるので、ファンたちも渋々ではあるが納得してくれたようだ。
それに最近は単純に彼自身の人気もじわじわ上がってきているので、アカリと鈴香のファンでありながらワンパン男も好きという人間も一定数いるらしい。
ちなみに先ほどアカリが彼のことを「ワンパン男さん」と呼んでいたが、こいつはプロなので視聴者の前では普段の恋愛脳全開の甘々口調は封印しているからである。
「それでは、今日はこの三人で小江戸ダンジョンの攻略に挑戦したいと思います!」
「もしかしたら、話題のダンジョン荒らしも僕たちで捕まえちゃうかもしれませんよ~!」
「「いえ~い!」」
俺とアカリがぱちぱち拍手をする後ろで、種口くんも控えめに手を叩いている。
そんな風に挨拶を終えると、俺たちはいよいよ小江戸ダンジョンの奥へと歩き始めた。




