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第096話「クリスマスパーティー②」

「やれやれ、俺は平穏に暮らしたいだけなんだがなぁ~」


「あははは! 迅くんめっちゃ似てますよ!」


「そ、そうかな? いや~、正直あまり期待してなかったんだけど、あの漫画マジで面白かったよ」


 黒い包帯の巻かれた右腕を突き出して、キメ顔で"伊喜利(いきり) 晴武(はれむ)"の真似をする種口くんの肩をバシバシと叩く。


 どうやら彼も『魔法学園の最底辺』の沼に堕ちてくれたようだ。やはりあの作品は素晴らしいよな……。


「あの晴武がトイレを我慢してるだけなのに周りが勝手に高度な心理戦やり出すシーンとかめっちゃ笑ったよ!」


「そこ! やっぱそこ推しちゃいますか!? 分かります! 完璧超人の妹の真千ちゃんが冷や汗かいてる晴武を見て魔王軍の呪いと勘違いして近くにいた四天王の一角を瞬殺しちゃう流れとか最高ですよね!」


「そうそう! しかもそれまで晴武の功績になっちゃったりして――」


「ちょっとちょっとぉ~、なに二人で盛り上がってるんですかぁ~? 僕も混ぜてくださいよぉ~!」


 せっかく種口くんと漫画の話で盛り上がっていたのに、トイレに行っていたアカリが戻って来て、無理矢理俺たちの間に割り込んでくる。


「アカリさんも『魔法学園の最底辺』好きなの?」


「え~、それって漫画ですかぁ~? 僕は読んだことないんで分からないですね~。それより恋バナとかしましょうよ! そういう話の方が絶対楽しいですってぇ~。ワンパン男様はどんな女の子がタイプなんですかぁ~?」


「え、え~っと……。そのぉ~……アカリさんは?」


「僕ぅ~? 僕はぁ~、ワンパン男様みたいな人がいいなぁ~♡ きゃっ♡」


「はは……」


 こいつ……男同士でオタクトークに花を咲かせている場面に水を差してくる恋愛脳の女子そのものだな……。種口くんはそういう話題が苦手なのか気まずそうにしてるじゃないか。


 どうやら忍の言った通り、こいつはアレが付いてるけど精神は完全に女と見て間違いないようだ。


「アカリさん、そろそろ宴もたけなわですし、自分の食べ終えたものくらい片付けてはいかがでしょうか?」


 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、時刻は既に21時を回ろうとしている。


 先程まで元気に騒いでいた小田宮さんとブラウンさんも酔いつぶれて、芝生に敷かれたシートの上にゴロンと寝転がっていびきをかき始めてしまった。


 こんな真冬に外で寝たら風邪を引いてしまうと思われるかもしれないが、会長の持ってきた"炎ふわスラ"がふわふわと庭の中を飛び回りながら周囲を温め続けているため、ここはまるで春先のように暖かいのだ。


「片付けとか探索者ランクDの鈴香がやればいいじゃん。僕はBランクの大先輩なんだから下っ端がやってよ。2ランクも差があるんだし、せめてワンパン男様みたいにCランクにでもなってから偉そうな口を聞いた方がいいと思うんですけどー?」


「残念でしたね、実は今日で私もCランクに上がったんです」


 イキるアカリに今日貰って来たばかりのCランクライセンスを見せつけ、そのまま奴の頬っぺたにカードの角をグリグリと押し付ける。


「Cランクになったら偉そうなこと言ってもいいんですよね? ほら、さっさと片付けろ♥」


「メスガキ鈴香爆誕!? A寄り、僕はA寄りのBだから! Cになったばかりの鈴香とは実質2ランク差と言っても過言じゃない――いだだだだ! プロのライセンス丈夫なんだから角は! 角でグリグリはヤメてー!!」



 涙目で悲鳴を上げるアカリに満足したので、ライセンスをしまって片付けを開始する。


 まずは泥酔しているブラウンさんと小田宮さんをテンタクルウィップで担ぎ上げ、それぞれの部屋まで運んでいって布団に放り込み、再び庭に戻ってトメさんや会長と一緒にテーブルに積まれた使い捨ての皿やコップなどを纏めて指定のゴミ袋に入れていった。


「……スズや、今日は楽しかったかい?」


「はい。料理も美味しかったですし、皆さんと楽しくお話できてとても充実した時間を過ごせました」


 庭の隅にゴミを纏めていると、二人きりになったタイミングでトメさんに話しかけられる。


「そうかいそうかい、なら良かったよ」


「……ごめんなさい。マグマガー、追い詰めたのに逃げられちゃいました」


「まったく……私はそこまで不自由してないから無理してあいつを追わなくていいと言ってるだろうに。こんな風に穏やかに暮らすのも意外と悪くないよ」


「…………」


 きっとそれは嘘じゃないんだろう。


 彼女はずっと忙しい生活を送っていたし、こうして落ち着く時間が出来たことを喜んでいる節はある。この人からすれば顔がなくても変装はお手の物だし、日常生活においてさほど不便はないのかもしれない。


 実際、お婆さんのフリだって結構楽しそうにやっているように見えるし。


 だけど、それでも――。


「マグマガーだけでなく、奴らは倒さねばなりません。砂上の楼閣のような平穏ではなく、私たちが安心して暮らせる未来をこの手に掴み取るために」


「……仕方ない子だねぇ。一度決めたらテコでも動かない、そんな頑固なところは父親譲りだよ」


 やれやれと言いながら俺の頭を撫でると、トメさんは満足そうに微笑んで紅茶荘の中へと戻っていった。



 その背中をしばらくぼんやりと眺めていると、今度はアカリが近づいてきてポンと俺の肩に手を置いてくる。


「鈴香、鈴香、ちょ~っと相談があるんだけどいい?」


「……なんですか?」


「実はさ、ワンパン男様とコラボ配信したいんだけど、鈴香も一緒に出てくれないかな~って」


「何故です? あなたなら迅くんと二人っきりでコラボしたいんじゃないんですか?」


「もちろん二人っきりでコラボ配信したいに決まってんじゃん! でも僕U・B・Aに加入しちゃったでしょ? リーダーの忍先輩に聞いたら個人の配信でも男と二人っきりで撮影するのは禁止されてるって言われたんだよね~。だから今回はしょうがないから鈴香を間に挟んで視聴者から攻撃されないようにしようかなって!」


「姑息な手を使いますね~。そんなに彼が好きならアイドルなんか辞めたらいいじゃないですか」


「は? 馬鹿なの? 僕はワンパン男様といい関係になりたいし、それとは別でファンからもちやほやされたいの! アイドルやってる子なんて皆そんなもんでしょ? 裏ではイケメンと付き合っておきながら表では清純派で売ってる子なんて星の数ほどいるんだからぁ~」


 こいつ……言ってはならんことを……。お前その内絶対炎上するぞ?


「ってわけでさぁ~、お願い鈴香!」


「どんな企画かにもよりますね。私も配信者の端くれなので、ただ迅くんとデート配信するだけとかだったらお断りしますよ」


「もちろんそれは分かってるって。企画内容はね……鈴香、ダンジョン荒らし(・・・・・・・・)って知ってる?」


「……はい。【アマゾンガーデン】が討伐に向かって、それでも捕らえられなかった超A級賞金首ですよね?」


「そ! そいつを僕たち三人で捕まえるっていう企画! その様子を配信したら絶対バズると思うんだよね~!」


 

 ――ダンジョン荒らし。


 ダンジョン内で迷惑行為を繰り返している謎の人物。


 裏世界トップクラスのパーティであり、Sランク探索者を二名も擁するアマゾンガーデンが総力を挙げて捕捉に向かったのだが、彼女らですら影も踏めず逃げ去られてしまった。


 しかもその際に副リーダーの"スカーレット・ベイリー"が瀕死の重傷を負ってしまい、現在は協会内の病院に長期入院している状態だ。


 彼女はアマゾンガーデンの持っていたエリクサーで一命こそ取り留めたものの、全てを招くモノ(ストーミーペトレル)との戦いで魔核を損傷した影響もあり、当分の間は復帰できないという情報も出回っている。


 魔核は回復アイテムや治癒魔術等では修復できないため、しばらく休んでから魔素を取り込み、自然再生させなければならないのだ。


 この事件でダンジョン荒らしの知名度は一躍跳ね上がり、今の裏世界で最もホットな犯罪者となっているのであった。



「ちょっと待ってください。アマゾンガーデンにも捕まえられない人物を私たち三人で捕まえるだなんて、どう考えても無謀だと思いますよ?」


「それがさぁ~。僕、スカーレットさんと姫奈さんに詳細を聞いてきたんだけど、どうも……ダンジョン荒らしの魔術って特殊条件型(・・・・・)みたいなんだよね」


「……ああ、そういうことですか」



 魔術は通常、魔力量や魔力操作の精度が上がるほどに効果範囲が拡大したり、威力が高くなったり、射程距離が伸びたり、燃費が良くなって同じ消費量で長時間使用可能になったりするものだ。


 つまり、単純に手練れほど凄い魔術が使えるのが普通なわけだが、そうではない場合もある。


 それが特殊条件型と呼ばれるもので、これはある種の条件を満たしたときにだけ効果を発揮する魔術であり、基本的に魔力の多寡にあまり依存しないのだ。


 例えばアカリの【天秤ノ契(アクシスシフト)】などがその一例で、指をさした相手と位置を交換する能力に魔力量や魔力操作の精度は関係ない。あくまでも相手の名前を正確に唱えるという条件を満たすだけで能力が発動するわけだ。


 もちろん使用するには魔力を使うので、相応の魔力は持ってないといけないが、それでも普通の魔術のように魔力が増えても能力が比例して成長したりするわけではない。


 つまりは逆もしかりで、魔術が発現してまだ日の浅い魔力の乏しい初心者が、熟練者を打ち負かすことだって理論上はあり得るということだ。


 アカリの能力は条件が緩いし、発動に失敗しても特にデメリット等はないが、もし発動条件が非常に厳しい上、リスクも高いとしたら……その能力は非常に強力なものになる。


 ダンジョン荒らしの場合おそらく後者のパターンで、ハマればSランク探索者すらも屠れるほどの魔術を有しているということだろう。



「つまり相性の問題で、奴を捕らえるのに実力はあまり関係ない可能性があるということですか?」


「そう、僕が聞いた話によると、スカーレットさんたちは逃亡するダンジョン荒らしの背中を見たんだけど、魔力は殆ど感じられず、プロに成り立てのDランク探索者とほぼ同等レベルだったらしいよ。けど、どういうわけか次々とトラブルが起こって奴には追い付けず、しまいには厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)に襲われる羽目になったんだってさ」


 なるほど、全てを招くモノ(ストーミーペトレル)がフェス会場に現れるなんていう前代未聞の大惨事が起きたのは、裏でこいつが絡んでたからなのか。


 ……が、何故そのようなことが起こったか誰もわからない、と。


 Sランク探索者を退けたのにS級ではなく超A級に留まっているのも、スカーレットが重傷を負った直接の原因である全てを招くモノ(ストーミーペトレル)とダンジョン荒らしの魔術との因果関係が不明瞭であるからだろう。


「要するに魔術さえ攻略できれば捕縛は可能である、ということですね?」


「そういうこと! ねえねえ、良い企画でしょ? Sランクすら打ち負かす凶悪犯を僕たちが協力して捕まえに行くの! 配信映えしそうじゃん! ねっ? やろうよ~!」


 はぁ、やれやれ……。断ると別の人を誘って突撃しそうだし……しょうがない、付き合うか。


 それにフェス会場を滅茶苦茶にしてスカーレットに重傷負わせた犯罪者をこのまま放置しておくと、気分良く新年を迎えることができそうにないからな。


 今年最後の探索活動ということで、全力でダンジョン荒らしを捕獲することにしよう。


「いいですよ。やりましょう」


「やったぁ~! あざ~す! さすがは僕の可愛い後輩~! それじゃあ早速明日にでも企画の詳細をDMで送っとくから確認よろ~!」


 俺の答えを聞くや否や、ウッキウキで種口くんの方へ走っていくアカリ。


 酔いつぶれて部屋に転がされていたはずのブラウンさんもいつの間にか戻ってきており、宴の締めとでも言うようにワイワイと騒ぎ始めている。


「お、迅! お前の次元収納袋の中になんか高級そうな食材入ってんじゃん! 最後に皆でこれ食って解散しようぜ!」


「ちょぉぉぉぉぉぉーーーー!! ブラウンさんそのイカを焼くのはやめてくださいよぉぉぉーーーー!?」


 黄金のイカを焼こうとするブラウンさんを必死に止めようとする種口くんの声をBGMに、俺はダンジョン荒らしに関する情報を集めるべく、スマホを取り出して検索画面を開くのであった。

☆アイちゃんの豆知識コーナー☆


Q.炎ふわスラってなに?


A.ふわスラは半透明の無色無属性のものが最も一般的ですが、中にはレアな属性ふわスラもあるのです。

 例えば身体が発光する"光ふわスラ"であったり、熱を纏っている"炎ふわスラ"であったり、体から水を放出する"水ふわスラ"であったり……。

 これらのふわスラは便利ですが非常に珍しいため、入手難易度も高く、市場価格も他のふわスラよりも遥かに高い傾向にあるのです。

 他にも機動力に優れたもの、巨大で多くの荷物を入れられるもの、防御性能に優れたものなど、ふわスラは様々な種類があります。

 探索者のお供としていつも身近にいる存在ですので、皆さんも自分好みのふわスラを是非探してみてくださいね。

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