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第095話「クリスマスパーティー①」

「おっ、景乃ちゃんじゃん! ちょうどいいところに来たな。ちょっといいか?」


「……なんですか? ブラウンさん」


 俺が"臼井(うすい) 景乃(けいの)"の姿で紅茶荘の階段を降りると、荘の共用庭でバーベキューの準備をしていた"良緒よしお・ブラウン"が声をかけて来た。


 彼は冬なのに何故か半袖のTシャツを着ており、真っ白な歯を光らせながら、その浅黒い肌と引き締まった肉体を惜しげもなく晒し、のっしのっしとこちらに近付いてくる。


「今日ってクリスマスだろ?」


「はぁ……そうですね」


 景乃の姿ではほぼ会話したこともないはずなのに、めちゃくちゃ馴れ馴れしい態度で太い腕を肩に回してくるブラウンさん。


 俺はそれを軽く振り払い、彼の話に耳を傾けた。


「迅がさぁ……ああ、103号室の種口迅、知ってる?」


「ええ、最近話題のワンパン男さんですよね?」


「そ! で、迅が厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)になったじゃん。そんで最近ネームドモンスターも倒してCランクにも昇格、更にダン学でもCクラスに上がれることになったらしくてよぉ~、お祝いも兼ねてクリスマスだしいっちょ荘の皆でパァ~ッとパーティーしようぜっ、てことになったわけよ!」


「ああ……お断りします」


「誘う前から拒否とかひどくね!? 二階の住人はあまり関わりある奴いねぇし、これを気に親睦を深めようと思ってたんだが、駄目かぁ~……。景乃ちゃん地味だけどよく見りゃめっちゃ可愛いし、仲良くなりたかったんだけどなぁ~」


 ガックリと肩を落とすブラウンさん。


 二階の住人は全員俺なので、鈴香以外はなるべく交流しないようにしてるんだよな……。


 せっかく誘って貰ったのに悪いけど、こればかりは仕方がない。後で鈴香の姿でちょっとだけ顔を出すつもりだから、それで勘弁してくれ。


「今日は夜までやってる予定だからさ、もし気が変わったら来てくれや」


「わかりました」


 ブラウンさんはそれ以上しつこく誘ったりはせず、バーベキューの準備に戻っていく。


 あの人は見た目も言動もかなりチャラいけど、その実かなりわきまえてるところがあるので、俺は嫌いじゃなかった。若い女の子にだけ声をかけるのではなく、管理人のトメさんにも親切だったりするみたいだしな。


 俺が歩き出そうとすると、ちょうど103号室の扉が開いて種口くんが出てきた。


「あ、こんにちは」


「……どうも」


 ちらりとこちらを見て挨拶してきた種口くんに対して、ぺこりと小さく会釈する。


「おーい、迅! こっち手伝ってくれ!!」


「あ、はい!」


 彼はブラウンさんに呼ばれると、一緒にバーベキュー用のテーブルやら椅子などを設置して庭を飾り付け始めた。


 紅茶荘の庭は案外広く、荘の隣も駐車場だったり畑だったりして少し騒いだ程度では迷惑にならないので、こういったパーティーをするにはちょうど良い場所なのだ。


 和気あいあいと楽しそうに準備している二人を横目に見ながら、俺は紅茶荘を後にした。







 ホスピスに寄ってセレネに近況報告を済ませた後、俺は鈴香の格好に着替えて隣の探索者協会本部に向かった。


 先ほどブラウンさんとの会話で種口くんがCランクに昇格したという話が出たが、鈴香も昇格に必要な功績を稼いでおり、今日はその手続きをしに来たのだ。


「佐東鈴香さんですね、あちらのお部屋へどうぞ」


「はい」


 受付のお姉さんに案内されて、奥の個室に入る。


 Cランクからは一気に人数が少なくなると同時に、ライセンスにも色々な特典がつくので、それらの注意事項などの説明を長々と聞かないといけないのだ。


 俺はもう何度も聞いているので、正直面倒なんだがルールなので仕方がない。


 中でしばらく待っていると、部屋の扉が開いて高級そうなスーツを着たダンディなイケオジが入ってきた。


「やあ、佐東鈴香さん。今回手続きを担当させて頂きます、雪枝と申します」


「……雪枝長官じゃないですか。こんなところで何してるんですか?」


 にこにこ笑顔で俺の対面の椅子に座る雪枝のおじさん。


「なに、ちょうど探索者協会に寄ったところで、君がランクアップ手続きに来たと聞いてね。せっかくだし話をしに来たんだよ。ほら、君にとっても職員から面倒な説明を聞かなくて済むし、ウィンウィンだろう?」


「確かにそれは助かりますね」


 雪枝のおじさんは俺の正体を知っている数少ない人物だ。


 当然俺が何個もライセンスを取得していることも把握しているので、長い説明を割愛してくれるらしく非常にありがたい。


「それにしても、いつ見ても惚れ惚れする可愛さだねぇ……。こんな美少女に変装できるなんて、やっぱり君には驚かされるよ。今度ハニートラップが必要なときは頼めるかい?」


「冗談はいいですから本題に入ってください」


「つれないね……。小っちゃい頃はもっと可愛げがあったのに……。はい、これCランクのライセンスね」


「ありがとうございます」


「それと、実は仁和円樹をSランクに昇格させようかという話が協会の上層部であがっていてね。八咫烏にも調査の要請が来たんだが、どうする? 君が望むなら私の権限で承認してもいいが……」


「……う~ん、今は遠慮しておきます。Sランクだとどうしても注目されて動きにくくなりますし」


「そうか。まあ気が変わったらいつでも言ってくれたまえ。仁和円樹の功績を考えれば十分Sランクに足る資格があるのは確かだからね」


 そう言ってテーブルに出していた書類をまとめ、それを鞄の中にしまって立ち上がるおじさん。


 そして帰り際、俺の耳元に顔を近付け、そっと囁いてきた。


「最後に想玄からの伝言だ。()の準備が出来たから、心身ともに万全な状態で臨むように……とのことだ」


「……分かりました」


「まったく、君たち親子は本当に規格外だよ……。まあ頑張ってくれたまえ。私はサポートくらいしか出来ないが、力になれることがあればいつでも頼ってくれよ?」


 雪枝のおじさんはそう言い残して部屋を出て行った。


 次……か。一月の教団との戦いが終わった後になるだろうが、しっかり準備しておかないとな……。







「うぇ~い! アカリちゃんみたいな美少女が参加してくれるなんてお兄さんテンション爆上がりだぜ~!!」


「あはは~! お兄さん、美少女だなんて本当のこと言って褒めても無駄ですよ~。僕はワンパン男様一筋なんでぇ~」


「あれ~? もうビールなくなっちゃったんだけどぉ~。少年、おかわり持ってきてよ~!」


「小田宮さん、もう飲み終わっちゃったんですか!? 今トメさんと会長が買い出しに行ってるのでもうちょっと待って下さいよ……」


 紅茶荘に帰ってくると、庭から肉や野菜の焼ける良い匂いと男女の楽しそうな話し声が聞こえてきた。


 もう既にかなりの盛り上がりをみせており、バーベキューコンロの隣に置かれているテーブルを囲んで、ブラウンさんや小田宮さん、種口くんなど紅茶荘の住人たちが陽気に騒いでいるのが見える。


 ……そして何故か見覚えのあるピンク髪のアホもそこに混ざっていた。


 誰だよあのうざいピンクを呼んだのは……。荘のメンバーでパーティーするって話じゃなかったのかよ……。


「あ、鈴香だ! お~い、鈴香! こっちこっち~! ここ空いてるから座んなよ!」


 バンバンと自分の隣の席を叩きながら大声で叫ぶアカリ。


 ネットでは何度も会話しているが、鈴香として直接会うのは初めてのはずなのに、妙に馴れ馴れしいなコイツ……。


「こんばんは。こうして会うのは初めまして、ですねアカリさん。東京に越して来てたんですか?」


 仕方なくアカリの隣の椅子に座り、挨拶をする。


「そーそー、僕可愛すぎてU・B・Aにスカウトされちゃったからさ! 配信者兼アイドルもやる事になったんだよね~! やばくない? これからは僕の時代が来るってカンジィ~?」


「はぁ、凄いですねぇ~」


「そういや、いつも裏世界配信者の先輩としてネットでは色々レクチャーしてあげてたけど、こうして会うのは初めてだったっけ? ……ふ~ん、確かにそこそこ美少女だね。まあ? 僕には到底及ばないけど? それと鈴香って思ってたよりチビだね、あはははは~~!」


「……」


「あっ、肉が焼けたから取ってくれない? あとお茶も入れて欲しいんだけど」


「自分でやれば良いじゃないですか」


「は? 僕、配信者としても探索者としても鈴香の先輩なんだけど? 先輩の言うことはちゃんと聞きなよ。それが社会の常識なんですけどー?」


 ……こいつ。


 自分より上の相手には媚びへつらい、弱い相手にはとことん尊大に振舞う典型みたいな性格してやがるな。


「はい、どうぞ……」


「あのさぁ~! 野菜はいらないんですけど~! 肉だけ取り分けてくれればいいんだって、使えない後輩だなぁ~」


「…………」


 ……おっと、円樹じゃないのに思わず髪がうにょっと動いて腹パンしそうになってしまったぞ。


 まあいい、今はたっぷり腹パンゲージを溜めておくことにしよう。次にU・B・Aの活動をするとき全てを開放してやる……。そのときまで精々調子に乗っていればいいさ。


「うぇ~い! 鈴香ちゃんも参加してくれてお兄さん感激ー! これで女の子が二人になって一気に華やかになったな!」


「ちょっと~? 女の子ならもう一人いるんですけどぉ~!?」


「あ~ん? おばさんは女の子にカウントされねーんだよ。自分の年齢考えて――」


「んだとコラー!! こちとらピッチピチの29歳と19ヶ月だボケがぁぁぁ!!」


「ぶげぇぇぇぇーーーーッッ!!?」


 酔っぱらった小田宮さんの右ストレートをモロに受け、庭の端まで吹っ飛んでいくブラウンさん。


 それを見たアカリがゲラゲラと大笑いしながら、網の上でジュウジュウと音を立てている肉をガツガツと食べ始めた。


 ……むしろこの場に女性は小田宮さんしかいないのだが。ブラウンさんは彼女が参加してくれたことにもっと感謝すべきだと思うぞ?


 しかしブラウンさんは女性ならお婆さんのトメさんにすら優しいのに、何故か彼女にだけは当たりが強いんだよな……。小田宮さんも同様で、彼にだけ異様に厳しく当たる。相性が良くないんだろうか?


「それで、なんでここにアカリさんがいるんですか? 私、紅茶荘のパーティーって聞いてたんですけど?」


「俺が呼んだんだよ佐東さん。アカリさんにはマキシポーションを貰った恩があるからね。こんなパーティーじゃお礼にもならないかもしれないけど、ちょっとでも楽しんでもらえたらって思ってさ」


 さっきまで小田宮さんの介抱をしていた種口くんが、俺たちの対面の席に座りながら事情を教えてくれた。


「あ~ん、ワンパン男様ぁ~、お気遣いいただき僕は嬉しさで胸が一杯ですぅ~♡」


 種口くんが話しかけてきた途端、さっきまで涎を垂らしながら焼き肉に食らいついていたくせに、突然両手を胸の前に組んで猫なで声を出すアカリ。


「ところで鈴香、なんで断りもなく勝手に僕の隣に座ってんの? ワンパン男様が来たんだから早く退いてよ」


「……」


 ふぅ~、ゲージはまだまだ溜まりそうだなぁ~! 次のU・B・Aの活動が楽しみでしょうがないぞぅ!


「おや、鈴香ちゃんも来てたのかい」


「予定があるって言ってたから、今日はもう来ないかと思ったわよぅ?」


「トメさん、会長、おかえりなさい。つい先ほどから参加させていただいてます」


 ちょうどそこへ、トメさんと会長が買い物袋を持って帰ってきた。


 お菓子やジュース、缶ビールの他に、クリスマスケーキなんかも買ってきたようで、庭の中心のテーブルに並べて置き始める。


「こんばんはぁ~。僕、鈴香の配信者の先輩でアカリって言いますぅ~!」


「おやおや、よく来てくれたねぇ……可愛らしいお嬢さん。いっぱい食べて楽しんで行っておくれ」


「ふふっ、こんばんは。あなたがアカリちゃんね? 配信いつも見てるわよ~。前回の企画も面白かったし、次回も楽しみにしてるわね」


「ありがとうございまぁ~す! 素敵なお婆ちゃんと美人の会長さん、これからよろしくお願いしまぁ~す!」


 トメさんや会長に対しては媚び媚びキャラを発揮するアカリ。


 どうやら年配の人と明らかに強そうな人には低姿勢で行くのがコイツのやり方のようだ。世渡りが上手そうで何かイラっとくるな……。


「よし、これで全員揃ったし、改めて乾杯するか!」

 

 いつの間にか復活していたブラウンさんが音頭を取り、それぞれ手に酒やジュースを持ち上げる。


「それじゃあ……迅の厄災魔王の一欠片(ディザスター・ワン)討伐にCランク昇格とダン学Cクラスへの昇格、それとクリスマスを全部まとめて――」


「「「「「乾杯!!」」」」」

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