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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
6章:神とか聖女とか迷い子とか、もうどうでもいいよ!

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83:神罰(偽)が楽しそうでなによりです

大きな広い聖堂は、前方に大きく広がったステンドグラスから、キラキラとした光が差し込んでいる。

聖堂の奥には、白く(そび)え立つ女神の像。

私にとっては腹立たしい相手だけれど、この世界では信仰の対象。

月に一度の大礼拝に集まった人々が、膝を付いて掌を合わせ、熱心に祈りを捧げていた。


宗教が強く根付いているこの世界では、大礼拝の日には王都中から多くの人々が集まってくる。

アカデミーもこの時間は礼拝に参列するのを当然として、授業は行われていない。

生徒達の多くが、この大聖堂に足を運んでいた。


その中でも最も目立つのが、聖女と呼ばれるフィリス・クワイン伯爵令嬢。

彼女が身に纏う薄いヴェールは、大聖堂に飾られた女神の衣装を模している。


この大聖堂で、白亜の女神像と同じ衣装を身に纏うことで、自分こそが女神の使途であると示しているのだろう。

女神も聖女も、ある意味では似たもの同士というか、そう悪くない組み合わせなんじゃないかしら。

私なんかはそう感じているのだけれど、クワイン令嬢に散々ちょっかいを掛けられ続けてきて、ゼフもバールももう腹に据えかねているみたい。


「女神は、愚かなる私達に救いを遣わした。それが聖女であり、この私フィリス・クワインである」


なんとも偉そうな宣言と共に、クワイン令嬢が朗々と祈りの言葉を読み上げる。

こんな茶番じみた儀式でも、熱心な信者は頭を垂れ、真剣に耳を傾けている。


……彼等には申し訳ないけれど、これ以上は放ってはおけないみたいなの。ごめんね。


女神像の前に置かれた聖杯に、クワイン令嬢が手を伸ばす。

その瞬間、大聖堂の中が光に包まれた。



──さぁ、演出(ショー)の始まりだ。




『自ら聖なる乙女を名乗るか。ならば汝、何故に他者を(あざむ)く?』

「んなっ!?」


突然大聖堂中に響いた奇妙な声に、クワイン令嬢が声を上擦らせる。

男性とも女性とも分からぬ、不思議な声が皆の脳内に響く。

直接耳を震わせている訳ではないのに、なぜか届く声。

その不気味さに、聖堂中がざわりと揺れた。


「誰!? こんなくだらない真似を──っ」


クワイン令嬢は、咄嗟に誰かの悪戯と判断したらしい。

“自ら聖なる乙女を名乗る”など、名指しされたも同然だ。

振り返り、聖堂中を見渡し、怪しげな人物を探そうとした彼女の背後から、白い光が迸る。


「え──」


あまりの眩しさに、皆が目を瞑る。

それもそのはず、光の出所は女神像。

白く輝く白亜の像が、文字通りに輝きを帯びたのだ。


『汝に問うておる。何故に民を(たばか)っておる?』

「た、たばかってなど……」


これ全てバールとゼフによる演出なのだけれど、それを知らぬクワイン令嬢は、怯えた表情で女神像を見上げていた。

女神を騙ろうだなんて、大胆な考えだよね。

本物の女神が見ていたら、どうするんだろう、これ。

まぁ、ゼフとバールならどうとでもしてしまいそうだけど。


『では、何故に自分が迷い子であるなどと吹聴する?』

「──!!」

『汝が神聖力を持つことは確かだ。だが、迷い子ではなく、この世界の人間であろう。どうして自分が迷い子であるなどと、世迷い言を吐くのだ?』


一瞬で、クワイン令嬢の顔色が変わる。

先ほどとは比べものにならないほどの大きなざわめきが、大聖堂中に広がった。


「こ、これは何事だ!!」


左右にならんだ協会関係者の列から、血相を変えて飛び出てきたのは、クワイン枢機卿だ。

聖女であるクワイン令嬢と、枢機卿とは、今や一心同体。

聖女の名に傷が付けば、彼の立場も危うくなるものね。


「このような人心を惑わすことが許されるものか! 首謀者は出てこい!!」


聖堂のど真ん中で、枢機卿が声を張り上げる。

まったくの茶番だわ。

でも、その茶番が真実だからこそ、暴かれようとしている側は、必死だ。


『そこな枢機卿よ』

「ひっ!?」


外は快晴。

ステンドグラスからは相も変わらず日の光が差し込んでいるというのに、聖堂の中には、雷鳴が轟いた。

女神像の上で、稲光が爆ぜる。

その光景に、さしもの枢機卿も怯えた声を上げ、呆然と白亜の像を見上げた。


『御主が此奴(こやつ)の養父と共謀して、姪を祭り上げようとしていることは、把握しておる』

「ちがっ、私はそのようなことは──」


女神像を見上げ、声をあらん限りに叫ぶ枢機卿。

その彼の足下から、チリチリと奇妙な音が響く。

と同時に、聖堂中に何かが焦げるような臭いが立ち込めた。


『この娘が魔王復活を阻止したなどと、ありもしないことを吹聴して人心を操ろうなど、言語道断。御主に神の名を語る資格はない』

「ひぃっ!?」


声が一際強く響いた瞬間、枢機卿の足下を焦がしていた小火が、大きく燃え広がった。

一瞬で、聖堂中がパニックに陥る。


その場を転げ回る枢機卿。

彼の祭祀服が、見る見るうちに焼け焦げていく。


聖堂騎士達が慌てて消化にあたる中、炎に焼かれた重く仰々しい祭司服を、枢機卿が慌てて脱ぎ捨てる。

可哀想に、大きな被害とまではいかずとも、軽い火傷程度は何箇所も負っているだろう。

ま、同情する気にはなれないけどね。


『さて、そこな娘よ……』

「あ……っ、わ、私は違うんです、すべてはお義父様と枢機卿様に命じられたことだったんです!!」


クワイン令嬢は、バールの声を既に女神の声と信じ切っているようだ。

その場に膝を付き、両手を合わせて、懺悔するように祈りだす。


見事に、自分から暴露してくれたわね。

まぁ、ここまでいけば上々なんじゃないかしら。

バールとゼフがこの茶番劇をどう収めるつもりかは、知らないけれど。


『神聖力を持つからと、調子に乗りすぎた哀れな女よ。身の程を知るがいい』

「あ──」


熱心に何事か呟いていたクワイン令嬢の身体が、ふいに傾ぐ。

聖女と呼ばれた女は、ドサリと音を立てて礼拝堂の床に倒れ込んだ。

もう一方、最高権力者といえる枢機卿は火だるまになりかけて、現在は消化にあたった騎士達が浴びせた水によって、全身ずぶ濡れだ。


あーあ、もう聖堂中が大パニックじゃない。

ここまで追い込んで、バールとゼフは満足したんだろうか。




大礼拝で起きた出来事に関して、教会はすぐに口止めを行おうとした。

だが、人の口に戸は立てられない。

一連の神罰は、すぐに王都中の民が知るところとなった。


そして、すぐに教会と同等以上の権力を持つ者が、調査を開始した。



──そう。ペンフォード王家が、教会とクワイン伯爵家、クワイン枢機卿の捜査に乗り出したのだ。

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