82:神罰は神が下すとは限らない
「申し訳なかった!!」
大の大人が、学生相手に机に額を擦りつけんばかりに頭を下げている。
あるいは、王都の冒険者ギルド長が、一介の新人冒険者に頭を下げていると言い換えても良い。
「謝罪は受け取ります、顔を上げてください」
こうして間違いを素直に認められるのは、良い組織な証拠だよね。
私は今、冒険者ギルドの一室で、ギルド長のクラークさんから謝罪を受けていた。
指名依頼と言われて試験ギリギリの依頼を受けたものの、それは私を試験に間に合わなくさせる為の偽の依頼だったのだ。
私の隣では、ジェロームお兄様がギルド長に白い目を向けている。
怒っているんだろうなぁ。
ギルド長に怒ったところで、どうにもならないのに。
職務怠慢と言ったって、一つ一つの依頼の背景まで、全部洗い出せる訳はないよね。
「……で、ギルドとしてはどうするつもりなのだ?」
「それは……」
お兄様に凄まれたギルド長の額に、玉のような汗が浮かぶ。
本来、教会の枢機卿なんて、冒険者ギルドが相手するようなレベルではない。
が、こちらはこちらで公爵家のご令嬢と嫡男だ。
枢機卿相手に事を構えるのも、事を放置するのも、どちらも大変な事態になりそうっていうね。
「こちらから、出来る限りの対処はします」
「証人はいても、証拠はないのに?」
「それでしたら……」
ギルド長が、ごそごそと懐を漁る。
出て来たのは、小さな水晶玉のような魔道具だった。
「これは?」
「音声と映像を記録する魔道具だな。かなり貴重なもので、かつ使い方によっては悪用も出来るから、国で厳重に管理しているはずだ」
お兄様の解説に、なるほどと頷く。
「これに、ちゃんと先ほどの会話を収めてまいりました」
「国で管理しているような魔道具が、どうしてここに?」
証拠があるというのなら心強いけれど、お兄様が手配したのではないとしたら、どうしてこれがギルド長の手にあるのだろう。
「マクラーレン騎士団長殿が、手配してくださったのです」
「マクラーレン団長が?」
魔の森の探索に一緒に赴いた、あのイケオジ騎士団長だ。
なるほど、彼ならば冒険者ギルドとも繋がりがあるし、私に恩義を感じてくれているから、手を貸してくれて不思議はない。
自分の知らないところで、誰かが自分の為に動いてくれているって、ちょっと嬉しくなるね。
今度機会があれば、何か差し入れでも持っていこう。
こうして思わぬ人の手を借りて、冒険者ギルドは依頼人であるセルウェイ商会を訴えた。
今後セルウェイ商会は冒険者ギルドを出禁となり、冒険者達に直接依頼を持ちかけることが出来なくなる。
移動に際し護衛を雇うことの多い商会にとっては、かなりの痛手となるだろう。
だが、肝心のクワイン枢機卿に関しては、知らぬ存ぜぬの一点張りだった。
相手が教会の要人とあって、ギルド側としても、なかなか手が出せない相手だ。
可能な限りクワイン枢機卿にも話は通してみるけれど、期待はしないでほしい──そう報告を受け取った日の夜、私は自室のベッドで愚痴を零しながらゴロゴロと転がっていた。
「ったくもう、教会のお偉いさんともあろう御方が、学生の単位を落とそうだなんて、やってることが小さいのよ」
しかも、それが王太子殿下の婚約者の座を巡っての陰謀と来たものだ。
こっちにはまったくその気がないというのに、どうして勝手にこちらをライバル視してくるのか。
いい迷惑である。
「そんなにそやつが邪魔ならば、潰すしかあるまい」
私の顔を覗き込むようにして、音もなく軽やかに黒猫がベッドに上がり込んでくる。
すっかり黒猫の姿でティアニー公爵家に馴染んでいる、大悪魔バールである。
「潰すって、どうするの?」
「教会の関係者なのだろう? 神罰を下してやれば良い」
いや、神罰って簡単に言うけれど、そんなの普通は下らないから!!
神罰っていうより、悪魔罰?
バールは元は神様だったから、ある意味では神罰なのかなぁ……。
いやいや。そもそも神罰が下る訳ではない。
下ったとして、それはバールが引き起こしたものなんだよね。
寝室の中を飛ぶ蝿に対して、何やらウニャウニャ言っているようだけれど、大丈夫かなぁ……。
バールを怒らせるだなんて、クワイン枢機卿もお気の毒に。
ま、自業自得なんだけどね。
バールとゼフが何やら悪巧みをする中、月に一度の大礼拝の日がやってきた。
アカデミーの生徒達も多く参加する、この儀式。
さーて、何が起こりますやら……。
有難いことに第三回ピッコマノベルズ大賞のユーザー審査を通過しまして、またピッコマで新しく連載させていただけることになりました!
その準備他で慌ただしくしております。
更新が遅れがちで、申し訳ない。
その他にも、今年中には何かしら発表が出来ると良いなぁ。
こちらもちょこちょこ更新していきますので、のんびりお付き合いください。









