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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
6章:神とか聖女とか迷い子とか、もうどうでもいいよ!

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78:奇妙な依頼

「ちょっと待ってください、この街でもう一泊するってどういうことですか!?」

「すまない、ちょっと商談が長引いていて……」


私の前で冷や汗を拭っているのは、今回の依頼主であるセルウェイ商会のジョッシュさんだ。

娘のカレンさんはと言えば、ジョッシュさんの隣に居るが、このやりとりにまるで興味がないみたいだ。


どうしてもと言われて、引き受けた指名依頼。

娘さんの為を思って私を指名したのかなと思ったが、当の娘さんと触れ合う機会はほとんどなかった。


行きの道中、馬車の御者台にジョッシュさんが座って、私がその隣。バールは私のリュックの中。

娘さんはずっと馬車の荷台に居て、ほとんど顔を合わせることはなかった。


街に着いて、ジョッシュさんが商談に向かう間は私とカレンさん二人で宿で待機していたのだけれど、カレンさんは一度も部屋から出てこなかった。

人見知りの娘さんだから、気を使って女性冒険者にする必要があったのかしら。

そんな風に、前向きに考えようとしていたのに。


「契約違反です」

「ごめんね、もう一日だけ突き合ってよ」


怒る私に、ジョッシュさんはただひたすらに頭を下げる。

どれだけ頭を下げられたところで、無理なものは無理なのだ。


だって、明日には期末試験が始まる。

今日もう一泊って言われても、私は急ぎ王都に戻らなければならない。


「この街にも冒険者ギルドがあるでしょう、そちらで護衛を雇ってください。私は先に王都に戻らせていただきます」

「それは困る!!」


声を荒らげるジョッシュさんを、じろりと睨め付ける。


「困ると言われても、こちらが困ります。急に依頼内容の変更を申し出てこられたのは、そちらでしょう?」

「だから、そこをなんとか──」

「無理なものは無理です」


こんなやりとりをしている間も、カレンさんはつまらなさそうに視線を逸らしたまま。

まるで興味がないみたい。


「わ、私と一緒に行かないなら、徒歩で帰ることになるぞ! そっちの方が時間がかかるだろう」

「別に、移動手段はどうとでもなります」


馬車は使えなくとも、それ以外の方法で帰ればいい。

いざとなれば、少し街道から逸れたところで悪魔の誰かを呼んで、運んでもらえば良いわけだしね。


「というわけで、私は予定通り朝食を食べたらすぐ王都に向かいます」


途中で依頼を放棄する形にはなってしまうけれど、元々こちらは試験までに戻ることを絶対条件としていたのだし、向こうが急な変更を申し出てきたのだから仕方ない。

冒険者ギルドがあり、他の護衛が雇える街で良かったと思ってもらうことにしよう。


宿の一階にある食堂で朝食を摂ったら、すぐ部屋に戻って荷物を纏めて出発──と思っていたのに。

気付けば、私の意識は深く深く沈み込んでいた。




ふに。

ふにふに。

なんだか柔らかいものが頬に触れている。


「おい、そろそろ起きろ」


ああ、気持ちいいなぁ……もっと惰眠を貪っていたいのだけれど……。


「おい、いつまで寝ているつもりだ」


このふにふに触感がとても気持ちいいんだもん。

まるで猫の肉球みたい……って、あれ?

みたいじゃなくて、これ正に猫の肉球じゃない?


パチパチと、目を瞬かせる。

暫し後にハッキリとした視界には、黒猫バールのどアップが映し出された。


「おい。もう出発せんと間に合わんぞ」

「ふぇ?」


一体バールは何を言っているのか。

起き上がって、頭を整理する。

さっきの感触、やっぱりバールの肉球だったんだー……って、今整理することは、そこではない。


えーと?


「本日は試験とやらの日だろう? さっさと戻らねばならんというのに」

「本日?」


ちょっと待って。

バールは一体何を言っているの。


「どうやら、飯の中に妙な薬でも混ぜられていたようだな」

「え……えーーーーー!?」




慌てて荷物を手に、部屋を飛び出る。

物音に気付いてか、隣の部屋からジョッシュさんが顔を出した。


「おや、ルシールさん。結局残ってくださったんですね、ありがとうございます」

「はあぁ!?」


なーにが「ありがとうございます」よ。

残りたくて残った訳じゃないというのに。


ああ、でも今はここで言い合いをする時間さえ惜しい。

ドタドタと階段を降りて、宿の女将さんに声を掛ける。


「今何時ですか!?」

「六つ刻を過ぎた頃よ」


試験開始まで、あと二時間といったところか。

昨日の記憶が全然無いんだけど、朝食のあと二十時間以上寝ていたってこと?


「今から急いでも仕方ありませんし、ゆっくり馬車で王都に戻りませんか」


にこやかに声を掛けてくるジョッシュさんを無視して、宿の外に出る。

今から馬車で戻ったんじゃ、本当に試験に間に合わなくなってしまう。


「マルコシアス!!」


私が名を呼べば、翼ある狼がふわりと舞い降りた。

馬車で移動なんて、まどろっこしい。

上空をひとっ飛びすれば、馬車で半日かかる距離でも、二時間で行けるかもしれない。


「お願い、急いで王都のアカデミーに向かって!」


マルコシアスの背に跨がって、上空へと舞い上がる。

ああ、こんなことならもっと厚着をしてくるんだった……いや、そんなことは言ってられない。

風が冷たかろうが、高いところの空気が冷たかろうが、二時間の我慢だ。


「んなっ、な、な……」


見下ろせば、宿の前でジョッシュさんが青ざめた顔で、口をぱくぱくとさせている。

今は彼に構う時間さえ惜しい。

私はマルコシアスを急かし、王都のアカデミーめがけて空を駆けた。




アカデミーに到着したのは、試験開始の鐘が鳴る瞬間のことだった。


「すみません、遅くなりました!!」


窓を開けて、マルコシアスの背から教室に飛び込む。

試験監督の先生が唖然としていたけど、そんなこと気にしてはいられない。

今日の試験には、私の進級が掛かっているんだから。


とはいえ、別に成績自体は悪くないので、試験を受けることさえ出来れば大丈夫なはずなんだよね。

まさか目が覚めたら試験当日の朝になっているとは思わなかった。




試験は無事に終了したものの、放課後には冒険者ギルドから呼び出しを喰らい、マルコシアスで王都近郊の上空を飛び回っていたことを、こっぴどく怒られる羽目になったのでした。

緊急事態だったんだけど、そりゃ地上から見た人は何事が起きたかと思うよね。

お騒がせしてすみません。


いや、でもこちらからも冒険者ギルドには報告しなければならないことがある。

今回の依頼について、きっちり追求させてもらうんだからね。

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