77:学業と冒険者の両立は大変です
魔の森から元の学園生活に戻った私を、待ち受けていたもの。
それは補習の山、山、山──!!
そりゃ他の生徒達が皆勉強している間、一人王都を離れて授業そっちのけで依頼を受けていたのだから、仕方が無い。
仕方が無いとは思いつつ……。
「つっら!!」
ここ最近、昼休みの半分は職員室で先生の話を聞いている。
毎日放課後一時間の補講。
時には部活動の生徒達に混ざって、教科書を眺めている始末。
放課後遊ぶことも出来なければ、下手をすれば休日返上、休みの日にも教室で授業を受けている。
そりゃ、授業してくれる先生達には有難いし、感謝しています。
だからって、ここまで詰め込まなくても良いじゃないのよ~!!
「もうすぐ期末試験もあるから、大事な時期なんだ」
今日の補習担当であるお兄様が、私のすぐ前の席に座って笑う。
「お兄様だって一緒に魔の森に行ってたのに、ずるい」
「俺は教師だからね、単位が足りなくなることはない。不在の間の課題はちゃんと全部纏めておいたし」
お兄様と私とで立場が違うことくらい、分かっている。
分かっているけど、それでもやっぱり自分一人苦しんでいるのが納得いかない。
国からの依頼で魔の森遠征に参加してたのに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだー!
「先生達も、なんとかルーシーにテストを乗り切ってほしいんだと思うよ。だってほら、期末試験で悪い成績を取った生徒は、留年が確定してしまうから」
そう。
一年の締めくくりとなる、期末試験。
ここで一定以上の成績を収められなかった生徒は、進級出来ないのだ。
進級だけではない、あまりに酷い場合には、アカデミーを辞めさせられることもあると聞く。
「そこまで私の成績に不安があるということでしょうか……」
「皆が勉強していた間、授業を受けていなかったのは確かだしね」
習っていない部分を補う為に、補習が組まれている。
それは分かる。分かっている。
ただ、あまりに詰め込まれ過ぎて余裕がなくなっているだけで。
だから、久しぶりの休日に訪れた冒険者ギルドで「指名依頼が来ている」と聞いた時には、少し考え込んでしまった。
「どんな依頼ですか?」
「隊商の護衛だよ。なんでも年頃のお嬢さんが居るらしくて、あまり無骨な冒険者に依頼はしたくないみたいだ」
なるほど。
確かに一部女性冒険者は居るものの、その大半はおっさん連中だ。
商隊のお嬢様に近付けるには、不安があるというのは理解出来る。
「私個人にですか?」
「そう。君なら個人でも十分護衛が務まるだろうと、ギルドからも話してある」
ギルド職員のマイクさんが、笑顔を浮かべる。
依頼としては、問題ない。
せっせと補習を受けた甲斐もあって、週末に依頼をこなすくらいの余裕はある。
余裕はあるのだが……。
「翌日が、期末試験なんですよね……」
「あー……」
私の言葉に、マイクさんが苦笑いを浮かべた。
私が依頼を聞いて渋っていた理由を察してくれたのだろう。
「そんなに成績ヤバいの?」
「ヤバいというほどでは……ただ、期末試験で結果を出せないと、ヤバいかもしれません」
国からの依頼ということで特例扱いにはしてもらっているが、遠征の間休んでいた分、授業日数が足りていないのだ。
出来ることなら、万全な状態で期末試験に臨みたかった。
「あー、そういうことなら仕方ない……けど、どうしたもんかなぁ」
いつも温厚なマイクさんの表情が曇る。
「先方が、どうしても君が良いって言っていてね」
「どうしても……ですか」
確かに女性冒険者は少ない……けれど、私以外に居ない訳ではない。
「君なら、召喚獣を呼び出せるだろう? 一人でも心強いって話だったなぁ」
「うぅ~ん……」
大事な期末試験。
今の日程では、その前日に依頼から帰ってくることになる。
あまりにギリギリではあるが……。
「どうしても……って話だったんですか?」
「そう。ギルドとしても、断りづらい依頼でね」
マイクさんは心底申し訳なさそうな顔をしている。
まぁ、いつもお世話になっているし……たまにはギルドの顔を立てますか。
って、そう言って国からの指名依頼も受けたんだけどなぁ。
どうしてこんなに忙しくなってしまったのやら。
「分かりました、その依頼お受けします」
「本当!? 助かるよ!!」
ギルドとか依頼者はともかくとして、マイクさんに迷惑は掛けたくないしね。
こうして試験前の週末二日間だけ依頼を受けて、片道およそ半日のところにある街まで、商人親子とその荷を積んだ馬車の護衛をすることになった訳ですが。
何も起こらないはずがなかったんだよなぁ……ああ、私の馬鹿。









