幕間:王太子は苦悩する
「……以上が、魔の森で起きたことの一部始終です」
マクラーレン団長の報告を受けて、国王と王太子がため息を吐く。
教会が発表した“聖女の加護”とはあまりにかけ離れた真実。
騎士団長の言葉が本当ならば、全ては一人の少女によって──いや、彼女が操る召喚獣によってもたらされたことではないか。
「あの子が操る召喚獣に、それほどの力が……」
国王である父クラレンス・ペンフォードは驚きの声を上げるが、息子の王太子ライオネルは今更驚いた様子も見せない。
(あいつなら、当然だろうな……)
そんな呟きは内心に秘めて、表向きは黙って騎士団長の報告を聞く。
「息子が二人居たなら、双方ともに王家に取り込めたものを……」
クラレンスの表情は、苦渋に満ちている。
既に聖女と呼ばれるフィリス・クワイン伯爵令嬢と、王太子ライオネルの婚約を発表した。
今更ルシール・ティアニー公爵令嬢が規格外の力を持つと知ったからといって、おいそれと婚約者を鞍替えすることは出来ない。
「どうせ、ルシール嬢は嫌がりますよ」
「う、うむ、それはそうか」
ライオネルの言葉に、父クラレンスが曖昧に頷く。
教会は今回の魔王軍撤退を、聖女の加護として大々的に発表した。
だが、現地に赴いた騎士達は、全員理解している。
聖女の加護など、何の役にも立っていない。
彼等を助けてくれたのは、全て一人の公爵令嬢による力だ。
彼女が操る召喚獣が魔族を退却させ、そして騎士達を癒やしてくれた。
当然、騎士達が得た情報は王家にももたらされている。
「教会は、何を考えているのか……」
クラレンスの呟きに、ライオネルがため息を吐く。
(正直、僕は聖女も迷い子もどうだっていい。ただ、気になる女性に振り向いてほしいだけなのに……)
王太子という立場が、ライオネルにそれを許さない。
国の為に有益となる女性を伴侶とし、王家にその力、影響力を取り込む必要がある。
(どうしてこんなに上手く行かないのだろう)
父クラレンスとはまた違ったため息が、王太子の唇から零れるのだった。









