幕間:悪魔は異世界の魔王を圧倒する
魔の森の、遙か上空。
黒尽くめの背後には、続々と魔族が集まってきている。
「ここまで数だけを頼りに集めるとは、いっそ壮観だな」
「貴様っ」
安い挑発に、黒尽くめが表情を歪める。
この場で──いや、この世界で最も禍々しく、強力な魔力。
おそらくあれがこの世界で言うところの“魔王”なのだろう。
なんとも分かりやすい。
己が力を隠そうともしていない。
力だけで全てを制圧出来ると信じているのだ。
そんな魔王が、今、一匹の黒猫を前に攻めあぐねている。
愚かな話だ。
自分より強い相手に、これまで出会ったことがないのだろう。
哀れな魔王。
己が一番強いと疑わぬ生き様。
それが今、地球の悪魔を前に揺らいでいる。
「な、なぜだ……」
魔王の配下たる魔族達は、悪魔達を前に次々と敗北を喫している。
指示を出す魔王の顔に、少しずつ焦りが滲み始める。
哀れな小物。
井の中の蛙とは、正に此奴のことを言うのだろう。
「どうしてこんな奴等に遅れを取る、我等は神にも匹敵しようかという力の持ち主なのに──っ」
魔王の言葉に、つい歯茎を見せて笑ってしまう。
「神に匹敵する力だと?」
ああ、腹がよじれる。
これが笑わずに居られようか。
目の前の小物は、こちらの力さえ正しく計れてはいない。
「元を正せば、我等は神」
一歩足を踏み出し、力を解放する。
我が真実、東の王と呼ばれた姿。
「異界の地で、神の座を追われた者」
気圧されたように、魔王が一歩後退る。
「神の力を持ったまま、地に──いや、地獄に落とされた者」
真の力を解放するには、あまりにこの世界に生きる者達は矮小過ぎる。
せめて、地上の者達が我の姿に充てられぬよう、森全体を覆い尽くすとしよう。
「神の力を切望する貴様などが我等に立ち向かおうなど、烏滸がましいと知れ」
我は東の王。
かつては豊穣神バールとして、東の大地を統べし者。
異界の魔王など、敵ではない。









