64:初めてのモンスター討伐
「ぐっっ」
鳴り響いた金属音は、スチュアートが盾を構えて攻撃を防いだ音だ。
先頭を歩くスチュアートの盾めがけ、ジャイアントリザードが鋭い爪を振りかざしながら飛びかかったようだ。
「来たぞ!!」
デリックの声に、緊張が走る。
「他にも居るかもしれない、周囲の警戒を」
「ああ」
ハーヴィー兄様の声に、ジェローム兄様が頷く。
背の高い木が生い茂る湿地帯は、身を隠せる場所が多い。
スチュアートに襲いかかったジャイアンとリザードも、茂みに身を隠していたのだろう。
一匹相手ならともかく、二匹、三匹と出て来ては流石に面倒だ。
「こいつっ」
ジャイアントリザードめがけ、デリックが戦斧を振りかざす。
重い一撃は、ひらりと身を躱したジャイアントリザードの足下を抉る。
斧を振り下ろした後の無防備なデリックめがけ、再びジャイアントリザードが爪を振りかざした時――、
「危ない!」
キャロルの声に応えるようにつむじ風が舞い上がり、ジャイアントリザードがバランスを崩した。
「はっっ」
その隙をめがけ、デリックが剣で斬りかかる。
だがトカゲの固い鱗に阻まれ、大きなダメージには至らない。
「――オセ」
豹の姿をした悪魔を呼び出せば、周囲の気温が急に冷え込んだように感じた。
オセの金色の瞳が、爛々と輝いてジャイアントリザードを見据える。
蛇に睨まれた蛙とは、正にこのような感じだろうか。
ジャイアントリザードが慄き、たじろいだ瞬間、
「でえぇいっ!」
大きく振りかぶったデリックの戦斧が、その首元へとめり込んだ。
「やった!!」
「喜ぶのは、まだ早い。確実にとどめを刺してからだ」
喜ぶキャロルに、ジェローム兄様が注意を促す。
流石は先生、こんな時にも授業をしているみたい。
「どうする……」
「あまり革は傷つけない方がいいだろうしな」
戦斧の一撃を首元に受けたジャイアントリザードは、ヒクヒクと痙攣を繰り返していた。
その様子を見下ろしながら、スチュアートが剣を構える。
切り払った時は、固い鱗に阻まれた刃。
垂直に突き刺すようにしたならば――戦斧で傷付いた喉元に、スチュアートの剣が深々と突き刺さった。
「はぁ……」
安堵の息は、誰の口から漏れたものだっただろう。
そんなのも分からないほどに、皆一様に緊張から解き放たれた表情を浮かべていた。
初めての戦闘。
四人で戦って、初めてモンスターに勝利した。
相手はジャイアントリザード、大きくて獰猛なトカゲだ。
モンスターとしては手強い部類ではないが、それでも確実な第一歩。
皆で立てた初めての手柄だ。
「うん、革の損傷も少ない。これなら満額で買い取ってもらえるだろう」
「本当ですか?」
ハーヴィー兄様の言葉に、自然と皆の顔に笑みが浮かぶ。
「連携も良かったんじゃないか?」
いつもはスチュアートとデリックが近付くと怖い顔で睨み付けるジェローム兄様も、今は教師の顔で皆に接していた。
ハーヴィー兄様もジェローム兄様も、ジャイアントリザードとの一戦では一歩下がったところで見守ってくれていた。
お兄様方が前に出れば、簡単に依頼を達成することが出来る。
でも、それでは私達の経験にならないと分かってのことだろう。
温かく見守ってくれていた二人に、感謝しなきゃね。
「どうする、一匹だけならこれで依頼達成だけど……」
振り返った皆の顔には、やる気が漲っていた。
「まだまだ、もっと稼いでやるって!」
「せっかくここまで来たんだからな」
「次はもっと活躍するんだから!」
デリックとスチュアートだけでなく、キャロルまで張り切っている。
仕留めれば仕留めただけ、帰りの荷が重くなるんだけど……まぁ、いざとなればオセに運んでもらえばいいかな?
それから順調に、私達は三匹のジャイアントリザードを仕留めることが出来た。
初めての冒険で、戦果は上々じゃない?
三匹のジャイアントリザードはひとまとめにして、オセに引いてもらうことにした。
デリックとスチュアートが一匹ずつ背負う案も出たんだけど、何分ジャイアントって付くだけあって、大きいからね。
尻尾を真っ直ぐ伸ばしたら、一匹一匹が私やキャロルと同じくらいの大きさはあるんじゃないかな。
と言うわけで、三匹ともオセにお任せ。
長い時間引き摺って革を傷つけないように厚手の布で覆って、三匹をひとくくりにしていたら。
「グルルルルゥ……」
オセの低く唸る声が聞こえた。
鋭い歯を剥き出しにして、茂みの向こうを警戒しているようだった。









