62:初依頼!
「で、どの依頼にするんだ?」
冒険者ギルドのカウンター脇、依頼が張り出された掲示板の前に集まって皆で依頼を一枚一枚吟味する。
「護衛系は、やっぱり日帰りだと無理っぽいよねぇ」
「討伐だろ、討伐!」
一つ一つの依頼をチェックしていくキャロルと比べて、デリックは最初っから討伐系の依頼にしか興味がないみたい。
「採取なんて時間かかるしさー」
「あら、討伐だって対象が見付からなければ時間はかかるわよ」
私の指摘に、デリックがむぅ……と唇を尖らせる。
バールの力を借りればすぐに見付かるだろうけど、どこまで力を見せていいものか、まだ悩んでいるんだよね。
「討伐と言っても、最初は自分達だけで確実に倒せる相手に留めておくべきだろう」
そう言って、ハーヴィー兄様が何枚か依頼の書かれた紙を剥がす。
「ゴブリン、コボルト、オーク……」
どれも、ファンタジー物では定番のモンスターだ。
あまりにオーソドックスな魔物の名前に、デリックなどはつまらなさそうな表情を浮かべている。
「ゴブリンは少数なら簡単だが、時に集落を形成したりと厄介なこともあるぞ」
お兄様が注意を促す。
「集落になっていると、やはり数が多くなるの?」
「数十から、下手をすると百くらい湧いたりするらしいぞ」
この世界でのゴブリンは、一匹見かけたら何十匹も居ると思え的な扱いなのかな。
繁殖力が旺盛らしいから、それも仕方ないね。
一匹一匹は弱くとも、囲まれたら流石に厄介なんだろう……普通の人には。
「数は少なくていいから、ある程度手応えのある奴がいいなぁ」
初の冒険とあって、デリックはやる気満々だ。
初級者向けのモンスターじゃ満足出来ないって顔ね。
「とはいえ、Fランクじゃ受けられる依頼にも限度がある」
登録したての私達は、一番下のランク。
学生の私達とハーヴィー兄様が同じランクというのもなんだか不思議な感じがするけど、一緒に上げていけばいいよね。
「そういえば、お兄様は何ランクなの?」
「確かBだったかな」
「えっ」
「ええっっ」
さらりと答えるジェローム兄様に、デリックとスチュアートが驚きの声を上げる。
「Bランクって、王都のギルドでも数えるほどしか居ないっすよね!?」
「ま、まぁ……仮にもアカデミーで教鞭を執る側だからな」
あ、お兄様ちょっと恥ずかしそう。
ハーヴィー兄様と違って、憧れの目で見られるのに慣れていないのかな。
嬉しそうにしながらも、少しばかり目が泳いでいる。
「それなら、もっと強い魔物でも大丈夫じゃないか?」
「いやいや、流石に甘える訳には……」
あーでもない、こーでもないと話し合いは続いて、なかなか受ける依頼が決まらない。
私の足下で、黒猫が大きな欠伸をしている。
ごめんねバール、もう少し待っててね。
「じゃ、ここら辺でどうだ!」
デリックが勢いよく剥がした依頼書。
そこには「ジャイアントリザードの捕獲・討伐」と書かれていた。
Fランク冒険者が受けられる依頼の中では、最も難易度の高い依頼だ。
「ジャイアントリザードか、いいんじゃないか?」
ふむ、とハーヴィー兄様が頷く。
ジャイアントリザード……文字通りなら、大きなトカゲかな?
依頼主は大手商会で、捕獲か討伐、どちらでも可能。
ただし討伐の場合は素材を全て納品することと書かれている。
どうやらジャイアントリザードの革が必要らしい。
討伐数が多ければ多いほど、報酬も多くなる。
「本来Fランク向けではない依頼だが……この面子なら問題ないだろう」
ジェロームお兄様も、問題無しと判断したみたい。
それなら、大丈夫かな。
ジャイアントリザードが現れるのは、王都北部の湿地帯。
早めに出発したら、今日中には戻ってこれる位置だ。
「ようし、じゃ、出発だ!」
デリックのかけ声と共に、皆でギルドを出る。
クラスメイトとの、初めての冒険。
うっかり保護者付きになっちゃったけど、でも皆で受ける最初の依頼だ。
ワクワクしてきたな……!









