58:再会
突然誰かの腕に抱き竦められて、頭がパニックを起こしそうになる。
どうしよう、逃げるべきか……でも、その割には怖さは感じない。
むしろこの人、私を守ろうとしているような……?
「こんなところで、一体何をしているんだ」
すぐ耳元で響いたのは、聞き慣れた優しい声。
少しお説教が入りながらも、どこまでも優しくて、甘やかしてくれる声。
「ルーシー!? 貴様――」
「あ、大丈夫! この人は大丈夫だから!!」
私を抱き竦めた男性に飛びかかろうとするスチュアートを、慌てて制する。
オセ……は、最初から分かっていたみたいね。
のんびりとお座りしては、尻尾を揺らしている。
「お久しぶりです、どうして王都に? ――ハーヴィー兄様」
そう。荒くれ者達と突如王都に現れた豹から私を守るように強く抱きしめているのは、我が従兄でヒントン辺境伯の長男であるハーヴィー兄様だ。
ハーヴィー兄様はタウナー王国との戦で一度命を落としかけたが、バールによって救われたという過去を持つ。
その魂には地球の英雄ハンニバルが宿っている。
知識と経験こそ人並み外れているが、人柄はハーヴィーお兄様そのままだ。
「王都の騎士団と警備隊を鍛えてほしいと頼まれたんだ。それにしても……」
ハーヴィーお兄様が苦笑混じりにオセを見遣る。
流石に街中でオセを呼んだのはやり過ぎた……よね。
キャロルが危ないと思ったから、咄嗟に呼び出してしまった。
「あ、あの、大丈夫なのですかこの獣……」
ハーヴィーお兄様と一緒に居た警備隊の兵士らしき人が、恐る恐る声を掛けてくる。
「ああ、彼女の召喚獣だ」
「召喚……!?」
兵士同様に、周囲の人達にもざわめきが広がった。
あーもう、目立ちたくないというのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
「なぁなぁ、知ってる奴なのか?」
いまだ警戒した様子のデリックが、ハーヴィーお兄様を見据える。
「この人は、私の従兄。ヒントン辺境伯令息のハーヴィーお兄様よ」
「うっ」
私が紹介すると、デリックよりもスチュアートが驚きの声を上げた。
「や、やっぱり……あのタウナー戦役の英雄……!?」
タウナー戦役の英雄?
ハーヴィー兄様ったら、いつの間にかそんな風に呼ばれるようになったのね。
確かにタウナー王国との戦では、大変な目にも遭ったが、その後は大活躍だった。
ハンニバルの知識と経験を持つハーヴィー兄様は、戦の達人だ。
タウナー王国との戦でも、その力を遺憾無く発揮していた。
「ルーシー、召喚獣を送り返すといい」
「はい」
オセの頭を撫でれば、優美な豹はくるりと身を翻してこつ然と姿を消した。
空間魔法の原理みたいなものなのかなぁ。
もしそうだとしたら、私にもちょっと興味はある。
ハーヴィー兄様は、悪魔達のことについても良く知っている。
そんな彼が警備隊に顔が利くというのは、とても有難い。
街中で豹を出現させたことについても、フォローして貰えそうだ。
ハーヴィーお兄様の指揮で、警備隊がブレンダン達荒くれ者を捕縛する。
私達のせいにしたいみたいだけど、向こうは武装していて、こっちは丸腰の制服姿。
どちらが悪いかなんて、一目瞭然だよね。
ハーヴィー兄様が一緒なら、面倒な事情聴取の必要も無いだろう。
元々公爵家の名を出せば大半の厄介事からは逃げられるのだけど、権力を笠に着るみたいで嫌なんだよね。
いやー、助かった。
持つべきものは顔の広い身内ですね。
な~んて暢気に構えていたら。
「さて、ルーシー。詳しい話を聞かせてもらおうか」
どうやらハーヴィーお兄様から個人的な事情聴取が始まりそうです。









