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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
4章:波瀾万丈学園生活の幕開けです

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52:公爵邸の日常

「ただいま」

「お帰りなさいませ、お嬢様」


馬車を降りれば、門番が深々と頭を下げる。


「お兄様は?」

「ジェローム様は、まだアカデミーからお戻りになってはおりません」

「そう……」


門番の言葉に頷いて、公爵邸の中へ。

すぐさまブレンダが近付いてきた。


「お帰りなさいませ」

「ただいま、ブレンダ」


侍女のブレンダも、もう二十五歳。

男爵家の三女である彼女は、一応は貴族令嬢だ。

既に行き遅れと言われる年齢だが当人は気にする素振りも見せず、私の心配ばかりしているのだから、困ったものだ。


「そう言えば……」


ブレンダは、お兄様の好きな人を知っているのだろうか。

キャロルの別れ際の言葉が、今も耳にこびり付いている。


「? 何でしょうか、お嬢様」

「ううん、何でもないの」


聞くに聞けず、つい誤魔化してしまった。

こんなことで、お兄様と直接お話なんて出来るのだろうか。

前途多難だ。


「何か悩みがあれば、いつでもお聞きしますよ」

「うん、ありがとう」


ブレンダの心配そうな声。

つい甘えるように、身を寄せてしまう。


「今日のお嬢様には、ミルクたっぷりの紅茶がお似合いでしょうか」

「お砂糖も足してね」


こうやって甘やかしてくれるから、甘えてしまうんだ。

ブレンダだって、いつかはお嫁に行く。

そう自分に言い聞かせてはいるけれど、今はまだ姉のような彼女が離れることなんて考えたくはない。


「ねぇ、ブレンダ。ブレンダには、好きな人って居る?」


私の言葉に、ブレンダの動きがピタリと止まる。


「お嬢様……?」


まるで機械のようにぎこちない動作で、ブレンダがギギギ……と顔をこちらに向ける。


「ブレンダには(・・)ということは……お嬢様に、どなたか……!?」

「ち、違うの! そういうのじゃなくって」


どうやら、ブレンダを誤解させてしまったらしい。

慌てて首を振って、彼女を安心させるように笑顔を浮かべる。


「アカデミーで色々噂になっていたことがあって、ふと、ブレンダはどうなのかなぁって……」


いまだしっくりいかない様子だが、それでもブレンダは渋々と引き下がってくれた。

危ない、危ない。

お兄様の噂なんて、追求されたらなんて言えば良いのやら。


「もしどなたかとご縁を結ぶ必要が出てきたならば、下手に実家の両親を頼るより、奥様にお見合いの席を設けていただこうかと考えております」

「え……」


お見合い。

ブレンダはお見合い結婚をするつもりなのだろうか。


「男爵家に持ち込まれる縁談など、たかが知れておりますからね。それよりは、公爵家に関わる方と一緒になった方が、これからもお嬢様のお側に居られる可能性が高いですし」

「ブレンダ……」


結婚よりも、私の傍に居ることを優先してくれるということなのだろうか。

胸が熱くなるほど嬉しい反面、申し訳なさもこみ上げてくる。


ブレンダに抱きついた腕に、力を込める。

彼女がふ……と笑った気配がした。




「なんだ、相変わらず二人は仲がいいなぁ」


そんな空気を引き裂くような、下卑た笑いが響く。

護衛騎士のチェスターだ。

彼もブレンダと同じように、私に付き従って王都まで来てくれている。


「ブレンダは私の大事なお姉様だから」

「そりゃいいな、俺のこともお兄様って言ってくれてもいいんだぜ、お嬢」


ガハハと笑うチェスターに、ブレンダが白い目を向ける。


「ジェローム様がいらっしゃるのに、何を言いますか」

「それはそうだ」


私がお兄様と呼ぶのは、ジェロームお兄様と従兄のハーヴィーお兄様だけ。

それを分かっていて、チェスターは私とブレンダの仲の良さを揶揄っているのだろう。


「誰が誰の兄だって?」


笑い声を上げていたチェスターが、一瞬で硬直する。

扉が開いて、その向こうから姿を現したのは――ジェロームお兄様だ。

美しい目元を鋭く細め、チェスターを睨み据えている。


「ああ、いや、これはつい冗談で……」

「ルーシーは、お前にとっては主家の令嬢だ。軽口を叩けるような相手だとでも思っているのか」


お兄様の底冷えするような声。

あーあ、これは完全に機嫌を損ねてしまったわね……。


「チェスター卿はいつも調子に乗り過ぎですから、良い機会です。ジェローム様にこっぴどく絞られると良いのですわ」


ブレンダは完全にジェロームお兄様側に付いたらしい。

こうなっては、私が何を言ってもジェロームお兄様は止まらないだろう。


「ちょっ、お嬢、助け……!!」

「いいから、来い」


お兄様に引き摺られていくチェスターには、これからたっぷりとお説教が待ち受けていることだろう。


おかしいなぁ、お兄様が帰ってきたらお話しなきゃって緊張していたはずなのに、その緊張感が見事に吹っ飛んでしまった。

ある意味では、チェスターに感謝するべきなのだろうか。


窓から西日が差し込む公爵邸の一室。

窓際でひなたぼっこをしていた黒猫が、大きな口を開けて欠伸をしていた。

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