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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
4章:波瀾万丈学園生活の幕開けです

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幕間:兄は想いを秘める

相変わらず、ルーシーは不器用な子だ。

夜の森の捜索で、剣も持てない貴族令嬢を同行させる訳が無い。


バールを連れて、夜の森へと向かう。

俺が一人で森を歩く分には、誰にも不審に思われはしないだろう。

その位には、教師としても魔術師としても信頼を得ているはずだ。


「デイヴィス嬢の居場所が分かるか?」


肩の黒猫に声を掛ければ、ゆらりと尻尾が揺れる。

普段は押し殺しているが、この小さな身体に秘めた魔力量は、果たしてどれほどか。

学園長をして魔王と言わしめたのは、あながち間違いでは無いだろう。


「案内してやる、付いてこい」


肩から飛び降りた黒猫が、目を爛々と輝かせて(しわが)れた声を出す。

その圧倒的な存在感(プレッシャー)に押し潰されぬように掌を握りしめ、夜の森を歩く黒い姿を見失わぬように、後を追った。


暗い森。

鬱蒼と茂る木々と暗闇より、目の前の小さな黒猫の方が、ずっと恐ろしさを醸し出していた。




デイヴィス嬢が見付かった後のルーシーは、その澄んだ瞳が瞼で隠れてしまうのではないかと思うほどに泣いていた。

幼い頃から、泣かない子供だった。

我が儘も言わなければ、自我を押しつけることもない。

たまに突拍子も無い行動に走ることはあっても、感情を爆発させたところなど見たこともない、そんな大人しい子供だった。


そんなルーシーが、声を上げて泣いた。

彼女が号泣する姿を見たのは、初めてだ。

デイヴィス嬢があんな目に遭ったのは全て自分のせいだと、自分自身を責めていた。


胸が痛む。

同時に子供のように感情を露わにする姿をたまらなく愛おしいと思ってしまうのだから、我ながら困ったものだ。

その感情が自分に向けられたものだったら――なんて、ついデイヴィス嬢を羨んでしまう。


ルーシーの喜びも、悲しみさえも、全て自分だけに向けてほしい。

そんな風に思ってしまうのは、狭量なのか、傲慢なのか。




デイヴィス嬢が帰宅した後は、ルーシーを慰められるのは、屋敷の中に俺だけだ。

寝室に運んで布団にくるめば、泣き腫らした目でじっとこちらを見上げている。


「お兄様……別に眠くはありませんが」

「そうか? 疲れているように見えるが」


危機感が無いのか、男として意識されていないのか。

もどかしさとやるせなさを感じる一方で、むくむくと悪戯心が湧き上がってくる。


「昨日はあんまり眠れなかったんじゃないか?」

「遅くまで起きてはいましたが……テントに戻ったら、あの後は朝までぐっすりでした」


泣き腫れた目元を、そっと指でなぞる。

同じベッドの上。

これほど迄に近付いているというのに、俺を拒む様子どころか、警戒さえ見せないとは。


「やっぱり、酷い顔してますか?」

「泣き腫らした顔だ」


そんな顔さえも美しく、そして愛おしい。

いつもとは違う、君の表情。

その全てを俺に見せてほしいと願ったら、彼女はどう答えるのだろう。


腫れぼったい目元も、拗ねたように尖った唇も、整った鼻筋も、白い肌も、漆黒の髪の一筋さえも可愛くて仕方が無い。


「子供じゃないんですから……」

「そうだな。いっそ、子供なら良かった」


愛おしさから髪を撫でれば、拗ねたような声が上がった。

お互い子供のままなら、こんな感情は抱かずに済んだのだろう。


俺は、妹に――ルーシーに、堪えようのない情欲を抱いている。

目を背けられないほどに、俺の中で育った感情は肥大していた。


どうして、彼女は俺の妹として育てられたのだろう。

妹でさえなければ、この想いに蓋をする必要は無いのに。

全てを白日の下に晒して、彼女が――ルーシーが母から生まれた子供ではないと知れ渡ったなら、兄としてではなく、堂々と君の隣に居られるのだろうか。


いや、ティアニー家の子供で無いと知られれば、彼女は迷い子として王家に招聘(しょうへい)されることにもなるだろう。

それほど迄に、ルーシーの特異性は際立っている。


誰にも知られぬうちに、ルーシーを、自分だけのものに出来ればいいのに。


「おにい……さま?」


掠れる声。

不安げにこちらを見上げる瞳。

こうまでしても、君は、まだ俺を兄として信じてくれているのか。


顔が近付いて、ようやくこちらの意図を察したのだろう。

ルーシーが、ぎゅっと瞼を(つむ)る。

腫れて膨らんだ目元に力を込める様が愛らしくて、どす黒い感情が薄れて行くようだ。


ああ、ルーシー。

俺はこんなにも――こんなにも、君のことを想っているのにな。


そっと、額に口付ける。

ピクリと、ベッドの上に組み敷いた身体が震えた。


「え……っ」


微かな声。

再びぱっちりと開いた瞳が、驚きに満ちてこちらを見上げていた。


「早く寝ないと、これ以上のこともされてしまうかもしれないぞ」

「か、揶揄(からか)わないでください!」


笑いながら言えば、拗ねたような声が返ってきた。

揶揄(からか)っているつもりなど、微塵も無いのだが……ここまですれば、彼女は俺を男だと意識してくれるだろうか。




可愛いルーシー。

どうして君は、このティアニー家にやって来たんだ。

俺の人生で君と出会えたことが最大の喜びならば、最大の苦しみは、君と兄妹の関係で居ることだ。


こんなしがらみなんて無ければ、存分に愛を囁けるのに――…。

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