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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
4章:波瀾万丈学園生活の幕開けです

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43:慟哭

パチパチと、火の粉の爆ぜる音だけが響く。

夜の森と、暗い広場。

焚き火の近くに座り込んだ私とスチュアートは、無言のまま。

いつの間にか様子を見に来たデリックは、心配そうに広場の椅子に腰を下ろしていた。


時折戻ってくる先生方がエイリー先生に報告をして、エイリー先生が机の上に広げた簡単な地図に印を書き込んでいく。

崖下に直接下りるには、危険が大きい。

迂回して山の中腹から向かう為に、周辺にばかり調べ終えた印の×印が書き込まれていた。


何度目かも分からない、ため息ばかりが零れる。

少し前までは時折生徒達が何事かと覗きに来ていたが、今は皆寝静まったのか、様子を見に来る者も居ない。


無意味に、時間ばかりが過ぎていく。

人前で力を使うことも出来ず、こうして待つことしか出来ないことが、酷くもどかしかった。


ガサリと、草を踏む音が響く。

弾かれるように顔を上げたら、そこには一年生の男子生徒――ライオネル王太子殿下の姿があった。


「す、すまない。どうなったかと思って……」


ばつが悪そうに頬を掻きながら、こちらに歩み寄ってくる。

レジーナが先生達に呼び出されて、おおよその事情を説明されたのかもしれない。

クワイン伯爵令嬢とレジーナは、王太子殿下と同じ班だったから。


「どうもなっていません」

「そうか……」


つい、素っ気ない声が出てしまう。


彼は、悪くない。

彼が悪い訳では無いのに、つい苛立ちが声に滲んでしまう。

アンタさえ私に絡んでこなければ――つい、そんなことを考えてしまいそうになる。


自分がどんどん嫌な奴になっている気がした。

こうなったのは、キャロルのせいでも、ましてや王太子殿下のせいでもない。

レジーナと、レジーナ達の嫌がらせを放置していた自分のせいだ。

それが分かっているのに、私達のことを気にして様子を見に来た殿下にさえ、優しい声を掛けることが出来ないなんて。


「殿下、もうお休みください。ティアニー嬢には俺が付き添っていますので」


スチュアートが折り目正しく殿下に頭を下げる。

身分の高い殿下が一緒では、どうしても皆気を張ってしまう。

それを分かってのことだろう。


「……分かった。お前達も、あまり無理はするなよ」


一言だけ言い残し、殿下が広場を立ち去る。

彼が歩き去る方向を、ただぼんやりと眺める。

夜の森は全てを飲み込むほどに暗く、そこに広がる闇は途方もなく大きく思えた。




焚き火を見つめるだけの時間が、どれほど続いただろう。

デリックなどは時折船を漕いでは、エイリー先生にテントに戻るよう注意されている。


「ニャァ」


そんな中、聞き覚えのある声が響いた気がした。

咄嗟に立ち上がり、周囲を見渡す。


「ティアニー嬢、どうした?」

「今、猫の声が……」


スチュアートの声に応え、再び耳を澄ませる。


「ニャアァ」


もう一度、今度はハッキリと聞こえた。

バールの声だ。

声のした方に視線を向ければ、暗闇の中から、爛々と光る目が近付いてきた。


「うわ、こわっ」


デリックが微かに怯えた声を上げる。

闇から現れる黒猫というのは、確かに不気味だ。

だが、今はその姿が何よりも頼もしい。


バールの後ろから、さくり、さくりと草を踏む音が響いてきた。

お兄様だ。その両腕には、華奢な少女――キャロルが抱えられている。


「――キャロル!!」

「ルーシー?」


私が駆け寄ると、お兄様が抱きかかえていた小柄な少女を地面に下ろした。

キャロルだ。

間違い無い、キャロルの姿だ。


「ごめっ、ごめんなさいっ、私のせいで……!!」


キャロルの無事な姿を見た瞬間、抑えていたものが一気に溢れてきた。

ボロボロと涙が頬を流れて、止まらない。


「何を言っているの、ルーシーのせいじゃないわ」


私を気遣いこちらを覗き込むキャロルの立ち方は、どこか(いびつ)だ。

まるで片足を庇っているかのよう。


「キャロル……怪我をしているの?」

「あ、うん。崖から落ちた時に、ちょっとね」


力無く笑うキャロルの顔も、彼女の衣服も、土と砂に塗れていた。

斜面が崩れて崖から滑落し、夜の森に一人放り出されたのだ。

彼女が感じた恐怖は、どれほどだろう。


「ごめん……ごめんね、キャロル……」


ぎゅうとキャロルを抱きしめる。

キャロルもまた、私を抱きしめ返してくれた。


「だから、ルーシーが謝ることじゃないって」

「でも、でもぉ!」


抱き合う私達の横で、デリックが鼻を鳴らしている。

もらい泣きしているのかな。涙もろい奴。

スチュアートは安堵した様子で、柔らかな笑みを浮かべていた。


私はと言えば、そんな彼等の様子を目にしながらも、その時はのんびり観察している余裕なんて無かった。

キャロルと二人で抱き合い、わんわんと泣いていたのだから。




テントまでどうやって戻ったのか、覚えていない。

アカデミーに入学するような年になって、人前でわんわん泣いてしまった。

キャロルが無事で安心したのと、キャロルに怪我をさせてしまった、キャロルに怖い思いをさせてしまった、そんな申し訳なさとで胸がいっぱいになった結果だ。


朝起きたら、とにかく目元が熱かった。

きっと瞼が腫れて、酷い顔になっているだろう。

こんな姿、誰にも見られたくない。


だと言うのに、同じテントには親友が寝泊まりしているのだ。

私が動いた物音を察してか、起き上がってこちらを覗き込んでくる。


「おはよう、ルーシー」


その声に安心して、またちょっとだけ涙がこみ上げてきた。

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― 新着の感想 ―
元平民と平民が貴族令嬢に対してこんな嫌がらせして問題起こして無事に済むと思ってるのかな?むしろ無事に済んだら驚く(;・∀・)
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