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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
4章:波瀾万丈学園生活の幕開けです

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41:不安

キャロルが、いまだ戻ってこない。

山野はもう夕陽に照らされて、橙色に染まりつつある。


私達がテントを張って野営している場所から広場まで、歩いたところで数分もかからない距離だ。

よほどお肉が大量だったとしても、小分けにして運ぶなり、誰かを呼びに来れば良いだけの話。

これほど時間がかかる理由が、想像が付かない。


誰か知り合いと話し込んでいる?

私達を待たせて?

キャロルはそんな子じゃない。


先生にでも捕まった?

この時間、先生の方が忙しいというのに。


奇妙な不安が押し寄せてきて、たまらずに立ち上がる。


「私、見てくる!」

「おい、待てって……」

「誰か火の番をお願い!」


私が男子二人に声を掛けると、先に動いたのはスチュアートだった。


「デリック、頼んだぞ」

「えええ、俺が留守番かよ!?」


デリックが非難の声を上げるが、時既に遅し。

私とスチュアートは広場に向けて走り出していた。




「あ、あれ……」


生徒達の野営地の、ほぼ中央に位置する広場。

手配した物資を並べたり、生徒達が一堂に会する場所だ。

そんな広場も食事の仕度に忙しい今の時間はガランとしていて、魔術のエイリー先生が一人椅子に座って足をぶらぶらとさせているのみだ。


「どうしたの、貴女達。先生に何か手伝ってほしいことでもあるのかしら?」

「いえ、そういう訳ではないのですが」


スチュアートが、慌てて首を振る。


林間合宿に参加するにあたって、アカデミーに代々言い伝えられている鉄則がある。

『エイリー先生に食事の仕度を手伝わせてはいけない』ということだ。

腹を下さず無事に合宿を終えたかったら必ず守るようにと、私もお兄様から口を酸っぱくして言われたものだ。


だから他の先生方が忙しい食事の仕度時にこうして一人広場で暇を潰しているのだろうが、この際好都合だ。


「先生、デイヴィス嬢を見ませんでしたか?」


スチュアートがエイリー先生に声を掛ける間、広場を見渡す。

……広場に置かれているはずの、獲物の肉。

置く為のシートは残されているが、シートの上にはもう何も残っては居なかった。


「デイヴィス嬢ってどんな子だっけ……うーん、ちょっと分からないなぁ」


スチュアートにかわって、私は首を傾げるエイリー先生に詰め寄った。


「先生、私達の班は子鹿を仕留めたんです」

「ああ、そうみたいね。一年生の中では一番の大物だって、ダンフォード先生が褒めていたわよ」

「キャロルは、そのお肉を取りに来たはずなんです」


キャロルが居ない。

キャロルが取りに来たはずの肉も無い。

私の訴えに、エイリー先生の美しい顔には困惑の表情が浮かんでいた。


「鹿肉なら、もう女の子が取りに来ていたと思うのだけど」

「本当ですか!?」

「でも、確か……」


エイリー先生の長い指が、記憶を辿るように唇をなぞった。


「取りに来ていたの、レジーナさんだったと思うのだけど……」

「え……?」


レジーナという名前は、Sクラスにただ一人。

フィアロン商会の一人娘であり、フィリス・クワイン伯爵令嬢の取り巻きとして共に王太子殿下に付き纏っていたレジーナだ。


「え? なんで彼女が?」


私の隣で、女子生徒の関係を知らぬスチュアートが、不思議そうに声を上げる。


「間違えて持っていっちゃったのかもしれないわねぇ」


エイリー先生も、またのほほんとした様子だ。


だが、私は知っている。

レジーナが、クワイン令嬢と共に私に嫌がらせ行為を働く一味であることを。

クワイン令嬢を主犯としたら、レジーナは共犯。

そんな彼女が私達の班の肉を持って行き、そして肉を取りに行ったキャロルが帰って来ない。


……全身が総毛立つようだった。


「スチュアート、彼女から話を聞いてきて!」

「えっ!? おい、ティアニー嬢は……」

「キャロルを探してくる!!」


私が行けば、面倒なことになる。

レジーナのところには、私よりも他の人に行ってもらった方がいい。


それより、一刻も早くキャロルを探しに行きたい。

その一心で、私は広場を出て森の中へと駆け出した。


「バール!」


声を張り上げれば、私の周辺を警戒していたのだろう黒猫がのそりと姿を現す。

木々に遮られた森の中は、既に薄暗い。

薄闇の中で爛々と目を輝かせた黒猫に、迷わず声を掛けた。


「ゼフに連絡を取って。キャロルを探してもらいたいの」

「ふん、あの小娘の匂いならば蝿の王を呼ばずとも分かるわ」

「本当!?」


自慢げに髭をピンと張った黒猫を抱きしめて、森を走る。

バールが示す方向に真っ直ぐ進んだ、その先は――




ぷつりと道が途切れて、眼下に夜の森が広がっていた。

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