35:魔力測定
入学式の後、新入生達は自分達の教室へと案内される。
私が向かうのは、一年のSクラス。
幸いにして、キャロルも同じクラスだった。
幸運を喜びながら教室の扉を開けたら、騒々しい光景が目に飛び込んできた。
「嬉しいですわ、殿下と同じクラスになれるなんて!」
「本当に。私達はなんて幸運なんでしょう」
「あ、あぁ……」
そこには王太子に詰めかける女生徒達と、若干……いや、かなりドン引き気味の王太子殿下が居た。
なんてこったい。
王太子殿下と同じクラスかよ。
アカデミーのクラスは、成績順に振り分けられる。
優れた生徒にはそれだけ良い教育をという方針なのだろう。
上から順にSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスと、アルファベットが振り当てられている。
Sクラスに居るからには王太子殿下を取り囲んでいる女性達も良い成績を収めているのだろうが、ああいった御仁とは仲良く出来る気がしない。
「キャロル……私の友達はキャロルだけよ……」
「ルーシー、諦めが早すぎるよ。まだ入学式当日だよ!?」
目立つ一角を避けるようにして、壁際を進んで一番後ろの席に座る。
Sクラスの生徒は総勢二十人にも満たないほどの数だ。
少数精鋭、エリート育成クラスなのだろう。
王太子殿下を取り囲んでいるのは、四人の女性達だ。
他の生徒はと言えば、騒がしい四人と王太子殿下を呆れたような目で眺めている。
良かった、他の人達は比較的まともそう……かなぁ?
どんな人達が集まったにせよ、私にはキャロルが居る。
それだけでぼっちな学園生活を送らなくて良いという安心感があった。
ああ、幼い頃に友達を作っていて本当に良かった……!
「全員、席に着きなさい」
ガラガラと扉が開いて、教師が教室に入ってくる。
校門のところに居た、浅黒い肌の先生だ。
良かった、朝の反応を見る限り彼は常識人なようだし。
王太子殿下だからと特別視せず、ライオネル殿下にもちゃんと注意を促している。
「私がこのクラスを担任するカーティス・ダンフォードだ。皆よろしく頼む」
ダンフォードと言えば、ティアニー公爵領と隣接した領地を持つ子爵家の名前だ。
ダンフォード家は確か最近代替わりして息子さんが家を継いだばかりのはずだから、多分弟さんかな?
先生の話の後は、生徒達の自己紹介が行われた。
とはいえ、名前を名乗るだけだ。
少し緊張はしたが、難しいことは何も無い。
私がティアニーの姓を名乗ると、少しだけ教室内がざわついた。
それまで突き刺すような視線を向けていた女生徒達は、公爵家の娘と知ってばつが悪そうにしている。
権力を笠に着るつもりは無いが、面倒事を回避出来るなら有難いよね。
ホームルームが終わったら、Sクラスから順に魔力測定が行われる。
魔法が存在するこの世界、魔力測定なんてものが学校で普通に行われるんだよなぁ。
魔法が得意な生徒には、相応のカリキュラムを……ってことなんだろうか。
ただ魔力を測定するだけではない。
その生徒に一番合ったスキルまで教えてくれるらしい。
スキルと聞くとゲームみたいだけど、要はその人が何に向いているかって話だよね。
それによって、選択する授業が変わってきたりするんだとか。
Sクラスに配属されて面倒臭いなーって思ってたけど、必須科目以外は好きな授業を取れるみたい。
学園長先生がやってきて、教壇に大きな水晶玉を置く。
水晶玉の光具合で魔力の量が分かり、水晶玉に浮かんだ文字でその人に向いたスキルが判別出来るんだって。
「今年の生徒は粒揃いだから、楽しみですなぁ」
白髭を蓄えた学園長先生が、目を細めて笑う。
そうか、今年は粒揃いなのか。
先頭の生徒から、順に教室の前に進んで魔力測定を行っていく。
どうやら特に女生徒に、魔力量の多い人が多いようだ。
「今年は迷い子が居るって言われているからねぇ」
隣の席に座ったキャロルが、ぽつりと呟く。
「迷い子が居ると、何か違うの?」
「例年になく、平民出身の子が多く入学しているんだって。あちこちの貴族家が、有能な孤児を見付けてきては後ろ盾になってアカデミーに入学させているんだとか」
「何それ」
迷い子の存在がここでも影響してくるとは思わなかった。
それで貴族令嬢らしからぬ女生徒が多く居たんだなぁ。納得した。
とはいえ、迷い子かどうかって誰がどう判断するんだろうね。
本人の自己申告を信じたところで、誰にも証明出来なくない?
神託のせいで、なかなか面倒なことになりそうだ。
「次、ルシール・ティアニー」
「はい」
ダンフォード先生に名前を呼ばれて、教壇の前まで進む。
流石に、ちょっと緊張する。
本物の迷い子は、私なんだ。
これでとんでもない魔力量が検出されて、発覚したりなんて……流石にそんなことは無いよね?
「さ、こちらへ」
柔和な笑顔の学園長先生に促され、水晶玉に手を翳す。
その瞬間ふわりと風が吹いて、水晶玉が淡い光に包まれた。
なんだか不思議な感じ。
この世界に来てもう十四年経つが、いまだに魔法というものはいまいち馴染めていない。
アカデミーで勉強することで、私も魔法が使えるようになるんだろうか。
「魔力量はA。スキルは……おお、これは珍しい。召喚術じゃな」
「召喚術?」
心配していたようなことは無く、魔力量はAと判定された。
Sが最高で、Aは二番目に良い判定結果だ。
目立つことはなく、かと言って悪い訳でもない。
一番丁度良い結果なんじゃない?
それにしても、スキルは召喚術かぁ。
召喚術ってあれだよね、ゲームとかでよく出てくるやつ。
今でも悪魔達を呼び出しているから、確かに私には一番向いているのかもしれない。
「召喚術は契約する魔物次第で、いくらでも強くなれる。冒険者向きのスキルと言えるだろうな」
次の生徒の測定を始めた学園長先生に代わって、ダンフォード先生が教えてくれた。
「冒険者になれるんですか?」
「課外授業の一環として、冒険者登録をする生徒も勿論居る。ただ、女生徒ではあまり聞いたことは無いが……」
それはそうか。
今年は例外としても、アカデミーに入学する生徒の大半は貴族子女だ。
冒険者になろうという貴族令嬢なんて、早々居る訳が無い。
「そっかぁ……」
ちょっと残念って思ったのが声から滲んでいたのか、ダンフォード先生が苦笑を浮かべる。
「興味があるなら、冒険者向けの講義もあるから、受けてみるといい」
「はい!」
冒険者向けの講義なら、王太子殿下を狙う貴族令嬢達と一緒になることはないだろう。
それに、授業を受けるだけだと毎日退屈だろうなーって思ってたんだ。
冒険者活動、案外良いんじゃない?









