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転生少女は悪魔と共に ~異世界は神より悪魔頼み!?~  作者: 黒猫ている
3章:戦の沙汰も悪魔次第

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26:戦火

ヒントン辺境伯領に近付くにつれて、潮の匂いが薄れ、木々の緑色が濃くなっていく。

馬の揺れには慣れないけれど、私が落ちないように、チェスターがしっかりと支えてくれている。

黒猫のバールを抱きしめたまま、私達は山間の道を通り抜け、国境のヒントン辺境伯領までやってきた。


デイヴィス領側の村は特にに異変もなく、のどかな風景が広がっていた。

だが領都ジャールに近付くにつれて、少しずつ空気が変わってくる。


最初は、猛スピードで駆けて行く騎馬に遭遇した。

鎧を着込んだ騎手は、おそらく騎士なのだろう。

すれ違う我々には脇目も振らず、真っ直ぐに駆けて行く。


そんな騎馬が一騎だけではなく、複数駆けて行った。

どうやらそれぞれに違う目的地に向かっているらしい。


「ありゃ、伝令兵か……?」


チェスターの呟きを聞いて、ざわりと胸が騒いだ。

何騎もの伝令兵が急ぎで駆けて行く。

それだけで、もうただならぬ様子が窺える。


街道を進んだ次の村では、宿屋に入りきらぬほどの人が押し寄せていた。

皆異変を察知して、領都から避難してきたらしい。

特に商人や女性、子供が多く見られる。


「チェスター、急ごう」

「ああ」


村には立ち寄らず、先を急ぐ。

もはや、ヒントン辺境伯領で何かが起きているのは明白だ。


騒ぐ胸をなんとか落ち着かせながら、領都であるジャールの街へとひた走る。

だが街に辿り着くより先に、その向こう――国境の砦のある辺りから黒いものが立ち上っていることに気が付いた。


「あれは――…」


煙だ。

国境の砦から、煙が上がっている。


煙が上がっている範囲が広範囲に及ぶことから、狼煙の類では無いのだろう。

白い雲を黒く塗り潰すような黒煙。

煤を含んだ煙は、あそこで何かが焼け焦げていることの証左だ。


「――――っっ」


身体が震える。

自然と腰が引けて、チェスターの大きな胸にもたれ掛かってしまう。


「大丈夫だ、お嬢」

「う、うん……」


チェスターの言葉に頷きはしたものの、きっと私は震えていたんだろう。

あそこで何が起きているのか――そんなのは、考える迄もない。


「どうする、一度辺境伯邸まで向かうべきか……」

「ううん、砦に行きたい」


私の言葉に、チェスターが頭を抱える。


「お嬢……今あそこがどういう状況か、分かっているか?」

「分かってる」


チェスターとしては、危険な場所に私を連れて行きたくないのだろう。

それは分かる。

分かるけれども、危険な場所にこそ私が行く意味があるのだ。


「せめて砦の様子が分かればいいんだが……」


砦よりも先に、街道は領都に差し掛かる。

近付くにつれて、街道は人で溢れていった。

領都の入り口でもある関所は、領都から脱出しようとする人で混雑し、とても馬で通る隙間もないほどだ。


領都ジャールの関所、デイヴィス領側に位置する南門は、二つの入り口が隣り合っている。

片方は入り口専用で、領都に入る人や荷馬車などのチェックを行う為に、衛兵の詰所が置かれている。

もう片方は領都から外に出る人の為の門で、こちらは入り口よりも比較的チェックが緩い。


常ならば二つに分かれている関門だが、今はどちらも領都から出ようとする人でごった返していた。


「これほどまでに……」


幸いにして、領都まで攻め入られた様子は無い。

だが砦から黒煙が上がっている今、それも目前と皆が判断しての混雑ぶりだろう。

我先にと門を潜ろうとして押し合いへし合い、あちこちから怒号が上がっている。


「これだと領都に入るのも一苦労だな」


頭上から、チェスターのぼやき声が聞こえてくる。

この混雑の中、人の流れに反して領都に入るのは一苦労だ。


領都をぐるりと取り囲んだ高い塀と、人々が押し寄せる門を見遣る。

この分だと、南門以外の関所も混雑しているかもしれない。


「どうしたものか……」


相変わらず、チェスターの声はため息混じりだ。

迷惑かけちゃってごめんねと思う反面、チェスター以外に頼る人が居ないのだ。


こういう時、一人で馬に乗れたら良いのになぁってしみじみ思う。

今度真面目に練習してみようかしら。


「おいおい、こんな時に親子連れでジャールに来ようなんて、正気か!?」


街道を歩く人が、心配そうに声を掛けてきた。

中年の商人のようだが、彼は隣を歩く私と同じくらいの年頃の少女の手を握っていた。


「親子……」


商人の言葉に、なぜかチェスターが固まっている。

お酒が好きで気さくな分、おじさん臭さを発揮しているチェスターだけど、実はまだ二十代半ばなんだよね。

自分では兄貴分を自称しているから、親子扱いされてショックなのかもしれない。


「領都や砦の様子は、どうなっているんですか?」


丁度良い機会だ、ここで情報収集をしてしまおう。

私の身体を支えるチェスターの力が緩んだ隙に、馬から飛び降りて商人のおじさんに歩み寄る。


「どうも何も、大変だよ。タウナー王国の奴等が攻めてくるなんて、一体何年ぶりのことか」


やはり、ウィンストン王子の言っていたことは本当だったのだ。

隣国タウナー王国の第二王子が、第三王子と共謀してペンフォード王国に攻め入ってきた。

タウナー王国が今ペンフォード王国を相手にするのも、迷い子が絡んでのことなのだろうか。


それを考えただけで、胸が締め付けられるようだ。


「なにせ、久しぶりのことだろう。辺境伯軍も、すっかり油断していたんじゃないかねぇ。このままじゃ時間の問題かもしれないってんで、皆慌ててデイヴィス領に避難しようとしているところさ」

「そんなに、戦況は芳しくないんですか……?」


商人の言葉は、まるで辺境伯軍が圧されているかのようだ。

こみ上げる不安に押し潰されそうになって、ぎゅっとバールを抱く腕に力を込める。


「なにせ、辺境伯様のご子息が討ち死にしたって言うんだからさぁ」

「な――…っ」


その言葉の意味を理解した瞬間、視界がぐらりと揺れた気がした。

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